第59話 実り
セントラル村は各村へ行く為の中継場所になるので、とても重要な村だ。ファリスはここをいずれは町にしたいと言っている。
ジョブ鑑定と健康診断をしてセントラル村民が正式にアルカディア国民になった。
少しずつ徴兵されていた家族も移民申請をしてアルカディア国に来ているそうなので、今後はアルカディア村の館に来て国民登録をしてもらう事にした。
避難民への対応は終わったが、今度は北からの移民が増えてきた。重税に耐えかねて逃げ出す人が増えているそうだ。移民希望者はアルカディア村以外の4村で好きな所へ住んでもらう事にした。基本的には今後の発展を考慮してセントラル村を勧める事にしている。
金の穂がこうべを垂れて実りの時期がやってきた。
アルカディア国は空前の大豊作だ
取り組んでいた麦の育成に大成功してずっしりとした穂が麦畑一面に広がっている。
その他の栽培もほとんど成功していてデミールさんも驚いている。
さらに出産ラッシュが始まった。
ザッジとヒナの赤ちゃんも無事に生まれた。
可愛い男の子だった おめでとう!
「元気な赤ちゃんで良かったな。父親になった気分はどうだい?」
「正直、戸惑っているところもあるんだが、少しお前の考えが分かるようになったよ」
「俺の考え?」
「アルカディア国の未来さ。俺は自分が強くなって国を守ればそれでいいと思っていた。でも、自分の子供をこの目で見た時、木を植えると言ったお前の気持ちが少し分かったよ。お前はアルカディアの父かもしれないな」
白い布に包まれた赤ちゃんを抱かせてもらう。
小さな命が芽生え
大きくなって
いつかアルカディアを支えてくれる
「この白い布はアルカディア村で作られた布だと聞いたわ。何だかそれがとても嬉しいの。誇りに思えるわ」
ヒナに赤ちゃんを返すと布の手触りを確かめながら、優しい笑顔を浮かべている。カナデ達が作った白く清潔な布で包まれている赤ちゃんはとても輝いて見える。
完成した牧場では仔馬が沢山生まれた。クレアとフロンティア村民が大切に育ててくれている。
新たな命と収穫に恵まれてアルカディア国は喜びに包まれた
アルカディア村で収穫祭を開催する事になり、各村に参加を呼びかけた。みんな2泊3日で来てもらって、村のまわりにテントを張って宿泊してもらう。商人ルドネに仕入れてもらったお酒も大放出する事にした。
収穫祭当日。朝から館の厨房で料理をルナと作る。中央広場に続々と国民が集まってきて既にお祭りは開始されている。好きなだけ食べて、好きなだけ飲んで、いっぱい騒げばいい。
肉も魚も野菜もたっぷりある。フロンティア村からパンの試作品も届いていた。早速、収穫した麦を使って焼いてくれたそうだ。
各村からも食材がどんどん持ち込まれてアルカディア村の各家庭で次々に料理されていき、広場に並べられていく。
隣国のステラ達も招待したら駆けつけてくれた。さすがにアストレーアは来れないらしい。ちょっと残念だ。
お風呂も開放してあるので大盛況
各工房の前には自慢の品が展示してあって、誰でも見る事が出来る。
布、糸、服、木工品、農具、武器、防具どれも素晴らしい品だ。
商人ルドネもやってきた。一緒に広場を見にいく。
「ナック様、本当に素晴らしい国になりましたね。これがまだ発展途上の国だとはとても思えないくらいの盛況です」
「みんなが頑張ってくれたおかげです。もちろんルドネさんもですよ」
「隣国は不作の領地がとても多いです。豊作の領地は無いと言っていいでしょう」
「そうなんですか……天候には恵まれたはずなのに……」
いつまでも争いを続けているからか……それとも、発展を望むあまりダンジョンを使い過ぎているのか。
「こんな喜ばしい席で恐縮なのですが、北の領地に不穏な動きがあります。アルカディア国への移民を防ぐ為に関所を築くかもしれません」
「そんな事をするより領民を大切にするのが先なんだが……」
西の領地から移民してきた人達が珍しい料理を作ってくれたみたいで、アルカディア村民が集まっていろいろ話を聞いている。どこを見ても笑顔が沢山だ。
「西の領地はゴブリンの駆除に奔走していますが、アルカディア国を参考にして立て直しに入ったそうです」
「あそこまで荒れてしまうと立て直すのも大変だろうな。焦らずじっくりやるしかないでしょうね」
ステラ達がアルカディア村民に囲まれて談笑している。何か出来る事があれば支援してあげよう。
「これからのアルカディア国はどうなっていくのでしょうか?」
商人ルドネが賑やかな広場を眩しそうに見渡しながら尋ねてきた。
「以前の田舎村に戻っていくと思います。ダンジョンを使わず、魔術具も使わず、自然にあるものを有効に利用して暮らしていく事にします」
「ははは。さすがナック様だ。他とは全く反対の道を行かれる。実に面白いです」
自分にはこの道しか無いと思える
絶対に正しいと確信があるんだ
ゆっくり のんびり 丁寧に
スローライフ
アルカディア国の未来のために
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