第58話 無自覚王

 次はウエストゲート村に行く事になった。今回もルナと2人で荷馬車に積んだ支援物資を届けて、ジョブ鑑定と健康診断をする。

 元西の砦、セントラル村を経由して行く。ノースフォレスト村に行く道と同じ様にしっかりと整備された道が出来ている。

 因みにノースフォレスト村とウエストゲート村は細い道で繋がっているが大きな荷馬車はまだ通れないそうだ。


 セントラル村から少し西に進み、北西方向に道が曲がった。そこからほぼ一直線の道だった。早朝にアルカディア村を出発すれば夜にはウエストゲート村に着いてしまう。


 荷馬車をかなりのスピードで走らせていく。


「私、ナックは立派な王だと思うわ。みんな言わないけどそう思っているんじゃないかしら」


「どうしたんだい? 急に?」


「誰も言わないから私が言った方がいいと思ったのよ」


 ルナにそう言ってもらえると1番嬉しいな。自分がやっているのはちっぽけな事だ。薬を作り、畑を耕し、食事を作ったりしているだけで、今走っている道もみんなが作ってくれた物だ。自分は何もしていない。


「せめて自分が出来る事だけでも率先してやらないとね。みんなが考えて、みんながやってくれる。自分は少し手助けするだけさ」


 ルナはジッと前を向いて何かを考えている様だ。


「それをする事に意味が生まれているのよ。簡単に言うけど出来る人はあまりいないわ」


 自分には自覚が無いけどルナが言うならそうなのかもな。


 

 予定通り、日没前にウエストゲート村に到着した。幅の広い道が国境の橋にそのまま通じている。その道の両側にテントが並んでいて、木造の家の建築がテントとテントの間で進んでいた。

 この村は若者が多くいて関所の仕事を頑張ってくれている。頻繁にではないけど橋を通る人はいるそうだ。元いた村に自分の物を取りに行く人がたまにいるらしい。


「西の領地からアルカディア村に来ようと思ったら、ここで宿泊しないと無理だな。宿屋を作った方がいいかもしれない」


「そうね。セントラル村にも必要かもしれないわね」


 もう日が落ちて暗くなっているのに若者達は作業を続けている。みんな熱心だな。


「あの……ナックさんでいいんですよね?」


 村の若者達がこちらに集まってきた。


「ん? いいよそれで。どうしたんだい?」


「俺達、ビッケ君みたいに強くなりたいんです。俺達も訓練してくれるんですか?」


「ザッジ騎士団長も滅茶苦茶強いらしいですね。西の城で戦っているのを見た人の話を聞いて憧れているんです」


 やっぱり若者は強さに憧れるんだな。自分はあまり戦闘には興味が無いからピンとこないけど……


「まずは生活を安定させてくれ。落ち着いてから交代でアルカディア村に来て訓練を受けるといいよ。教える専門家はいないけど誰かが教えてくれるはずだ」


 あの2人は別格だけどアルカディア村民は結構強い。元ジェロ隊なんて本気で戦っているのを見た事ないしな。それに元騎士団のクレアもいる。


 夕食には大きなサーモンを焼いて出してくれた。ここには川があるから魚も頑張れば取れるらしい。

 翌朝、ジョブ鑑定と健康診断をしてウエストゲート村民は正式にアルカディア国民になった。

 若者が多くて活気があるいい村だな。アルカディア村に帰る準備をしていると突然、村に鐘の音が響き渡った。


 カーン! カーン! カーン!


 若者達が武器を持って関所に集まっていく。


「ナックさん! 西の領地でゴブリン狩りをしているので一応、警戒してください」


 そばにいた若者が教えてくれた。ふーん……ゴブリンをあんなに増やしてしまったんだから駆除も大変だろうな。


「こっちにゴブリンが来る事はあるのかい?」


「それはないです。西の騎士団の人達がしっかりと倒してくれるのでいつも見学しています」


 みんなと一緒に西の様子を見ると遠くの方でステラ達がゴブリンを駆除している様だ。


「門を開けてくれるかい? ちょっと挨拶してくるよ」


「え? 危ないですよ。あれは普通のゴブリンより強いらしいですし」


「ん? 挨拶するだけだから大丈夫だよ」


 門を開けてもらって橋を渡っていき、ステラ達の方へ手を振って声をかけた。


「おーい! みんな! こっちこっち!」


 すると追われていたゴブリン達が気付いてこちらへ真っ直ぐに向かって来てしまった。


「「こっちに来たぞ! ナックさん逃げて下さい!!」」


「ん? ほんの20匹位じゃないか? 心配いらないよ」


 橋を半分くらい渡った所でレッドキャップと戦う事にした。ビッケの真似でもしてみるかな。

 迫って来るゴブリン達を何とか倒していったけど、あっと言う間に囲まれてしまった。


 やっぱり鍛え方が違うな あんなの自分には無理だ


 仕方ないので1匹ずつ確実に倒していく。久しぶりに戦ったのでちょっと疲れてしまったが、何とか無事に全部倒した。


 たった20匹位で情け無いな……


 橋を渡るとステラ達もゴブリン達を倒し終えてこちらに来てくれた。


「ナック様でしたか。あんな所で手を振って大声を出すなんてびっくりしました」


 ステラが慌てた顔で駆け寄ってきた。


「ははは。ごめんごめん。久しぶりに君達を見たから嬉しくて声をかけてしまったよ。ゴブリンの駆除は大変だろうけど、たまには遊びに来てくれよ。荷物もそのままだしな」


「あ! はい。そうですね。荷物がそのままでした。あまりに忙しくて忘れてました。……クレアからナック様はかなり強いと聞いていましたがまさかこれ程とは…」


「実はもうバテバテなんだ。少し鍛え直さないといけないな」


 まだ駆除の予定があるそうなので軽く言葉を交わして別れた。元気で頑張っていて安心したな。

 

 橋を歩いて戻っていくとみんなが驚いた顔で見ている。よく分からないけど帰る時間なのでルナと荷馬車に乗って、村人達に別れの挨拶をしてアルカディア村へ出発した。


「ステラ達にも会えたし来て良かったな」


「そうね……さっきのアレは本気で戦っていたの?」


 ルナがなぜか怒った顔をしている。


「ん? さっきの? ちょっとビッケの真似をしようとしたけど無理だったよ。別に本気ではないけど?」


「呆れるわね……戦闘が嫌いな人がやる事には見えなかったわ!」


 どうもかなり怒っている様だ……


「あれ位なら普通に出来るんだよ……」


 心配をかけてしまったかな?

 

 あまり人前で戦った事が無いからな……


「もう!」


 ルナが急にしがみついてきた


 やけに嬉しそうな顔をしている

 

 怒ったり嬉しそうにしたりで大変だ


 帰りの道はゆっくりと帰ることにした

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