第55話 理想郷 アルカディア
ジェロが金色羊の皮を持って館に現れた。元ジェロ隊と西の森の探索をまだ続けていたらしい。
「ジョブ鑑定をしてもらいたいが、結果は誰にも見せたくない。騎士達の家族を救出したんだ。お前には貸しがある。極秘で頼むぜ」
「別にいいけど、それに何の意味があるんだ?」
「強そうな戦闘職になったら、また使われるからな。俺は自分の野望実現に集中するぜ」
誰も使ってないぞ !勝手に暴れてきただけだろう!
「他のヤツらは鑑定しないのか?」
「アイツらは鑑定すら受ける気がないぜ。余った羊皮はやるから最高の防具素材をアオイの店に回してくれ」
わざわざ相談室に移動してジェロのジョブ鑑定を目隠しまでされてする。
結果は不明だ
鑑定が終わったら羊皮紙を取り上げられてしまった。
「思った通りの結果だぜ。俺のジョブは『百花の甲冑師』だ」
「他にも載っているはずだが?」
「……戦士だ。いいな? 俺は戦士だ」
絶対に強そうなのが書いてあったな……
西の領地は平定された。新しい領主がどんな人になるかは分からないが、荒れた領地を立て直すのは容易ではないだろう。そうなるとアルカディア国に何かするのは当分無理なはずだ。
「なあジェロ。もう戦いは起こらないんじゃないか? 防具もあまり需要があるとは思えないんだが?」
「いや。平和な時にこそ準備をしといた方がいいぜ。最高の防御を確立するべきだ。アストレーアは50人であの城を守って西の領地を陥落させた。アストレーア以外は新兵だったぜ。ありゃ天才だな。もし今アルカディアにアストレーアが優秀な騎士団を率いて攻めてきたら絶対に負ける」
そんな事まで想定していたらキリが無いぞ。アルカディアは一応、国だけど中身は単なる田舎村だ。巨大な国に本気で攻められたら勝てる訳が無い。
だが……アルカディアを守っていかないといけないのは事実だ。
「今出来るのは訓練くらいだ。とても何かを作れる状況じゃない」
「最高の訓練をすればいい。あのダンジョンは中々いいがワンパターンだ。そろそろ内容を変えた方がいいぜ」
「お前が戦わないのは構わない。だが、戦いに関して俺よりもお前の方が遥かに上だ。効果的な訓練が出来るように知恵を貸してくれないか?」
「知恵か……俺の戦い方は勘が頼りだし教えるのは苦手だ。少し考える時間をくれ。とりあえず熊の部屋にレッドキャップを追加出来るか?」
「出来るよ。後は狼、ミミズ、羊、スライムが追加出来る。レベルは9までで数もある程度、自由に変更出来るし地形も変えれる」
「……なるほど。少し興味が出てきたな、考えとくぜ!」
ジェロからの助言通りに熊の小部屋にレベルキャップを1体設置した設計図を書いて羊娘に見せてみた。今まで全く違う種類も魔物を設置した事が無かったので確認してもらう事にしたのだ。
「当然ダンジョンなので可能よ。外だと熊がゴブリンを倒しちゃうと思うけど、ダンジョンならパーティー扱いね」
熊とゴブリンがパーティーを組む何て有り得ないな。熊の攻撃力とゴブリンのズル賢さが合わさると厄介だろうな。
「他に何が出来るんだ? ダンジョンの事がよく分からないんだが」
「そんなの簡単よ! 質問に答える事が出来るわ。他は何にも出来ないわよ。だってマスターが考える事じゃないの」
自信満々に言う事かよ……コイツを使いこなすのは大変だな。自動で最適化は出来る。だが、工夫なんかはこちらで考えるのか。質問に答える事とこの部屋の執事は出来るな。
「ダンジョンで新兵の訓練をしたいんだが、いい方法はないか?」
「答える事が出来ない質問ね。ダンジョンの事じゃないわよ」
新兵の訓練についての質問になっているって事か……
「部屋に経験値アップの効果を追加したよな。他には追加出来る効果は何だ?」
「パーティーメンバーの攻撃、防御、魔力、魔法防御、俊敏、器用さ、状態異常耐性のアップ。アイテムのドロップ率、数、品種アップ。レアモンスター出現率のアップよ」
「結構あるな。なぜ自動でやらないんだ?」
どれも魅力的なものばかりだ。
「マスターが望んでいないからよ」
望んでいないだと?
……確かにパーティーメンバーのステータスアップは望まないな。実戦との差が生じてしまい危険だ。ダンジョンの中だけ強いのは意味がない。アイテムもあまり必要だと思ってないな。
「レアモンスターは羊の他にもいるのか?」
「ストーンイーターに1種類設定があるわ」
ミミズか……いい鉱石が手に入るかもしれないな
「ストーンイーターのレアモンスターのドロップ品は何だ?」
「亜鉛鉱ね」
亜鉛鉱……どんな物か調べないと分からないな。
「亜鉛鉱について調べて必要だと俺が思ったら、自動的にレアモンスター出現率アップの効果を追加するのか?」
「当然するわよ。私の仕事でしょ」
しかし、思うだけで俺の考えを伝えなくても分かるって事だよな……
「俺とお前は何かで繋がっているのか?」
「間接的に繋がっているわ。マスターと魔石が繋がっていて、魔石と私が繋がっているわ」
俺と魔石が繋がっていたのか……たまに不思議な感覚があるのはそのせいか? 魔力を大量に消費した時に感じる事があるな。最近は魔力を使っても減らない気がしている。
「魔力を使っても消費した感じがしない。それどころか増え続けている感じもする。魔石は魔力をどうやって得ているんだ?」
「マスターの支配下にある魔石の設置場所からに決まってるじゃない」
設置場所だと?!……しかも俺の支配下にある……
「まさかアルカディア国全体から魔力を吸い上げているのか?」
「当然よ! 『物々交換』でしょ。でも正確に言うと魔力だけじゃないわ。ありとあらゆる『力』よ」
なんて事だ……簡単に物が得られて楽だと思っていたが代償を払っていたのか……
「魔石を撤去するかな……」
「ム〜リ〜! もう根を張っているから動かせないわ。マスターが死ぬか魔力が枯れて魔石が割れるまでダンジョンはあるのよ。最高ね!」
最高か? 最低の間違いだろう……とんでもない物をみんなが暮らす所に置いてしまった。
「魔力の消費を抑えるにはどうすればいい?」
「規模の縮小、照明の節約、温度管理の節約、空調の節約ね」
もう規模は縮小した。出来るのは各種の節約か。
「魔力消費の節約を最適化に組み込む事は出来るか?」
「当然出来るわ。最適化に魔力消費節約を追加したわ。ダンジョンに誰かが入った時だけ照明、温度、空調が実行されるわ。凄いでしょ!」
快適な環境が最適だと思っていたから今まで実行されなかったのか。
かなり無駄遣いをしていたな……
「この部屋は豪華過ぎないか? 魔力の無駄だろう?」
「ここはマスタールームよ。最高設定以外の設定はないわ」
本には初期設定の部屋と書いてあったぞ。
それがマスタールームだと?
「この部屋はとても重要な部屋と言う事になるのか?」
「当然! 魔王のダンジョンなら最深部にある事が多いわ」
魔王だと?! いるのかそんな神話のような存在が。
「魔王は実在するのか?」
「ダンジョンマスターの対極が魔王よ。マスターが実在するのだから当然、魔王もいるに決まってるわ」
「魔王はどこにいるんだ?」
「当然ダンジョンよ! 宝物を最深部に置いて人間の欲望なんかを引き出して『負の力』を得ているのが普通ね。『負の力』が多い所にダンジョンを設置するでしょうね」
負の力……欲望、憎しみ、悲しみ、怒り、絶望、争いのある場所か
「節約は必ずしも最適ではないわ。しっかり『正の力』を集めて使う『正のサイクル』を回す事が重要よ。得た魔力を貯めるだけじゃなく、有効に利用するのがダンジョンマスターの大事な役割よ」
『 正の力 』
明るく 前向きに 助け合い 希望に満ち
夢を追い
努力して 笑顔 喜び とても小さな国
『 理想郷 アルカディア 』
その正のサイクルを回すのが
『王』であり『ダンジョンマスター』である自分の役割
アルカディアに暮らす人々の幸せを求め続ければいいんだ
信じた道を行けばいい
理想の国を みんなで みんなのために
作り続けよう
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