第25話 輝く場所
まだ建築中の状態ではあったが、西の砦がとりあえず使用できる様になった。ゴブリン駆除計画を立案する為、主力メンバーによる大規模な調査が行われる事になり、作戦参謀としてファリスも西の砦まで同行してもらう事にした。
「作戦を開始する。今から西の砦に向かい安全を確保し、偵察活動を行い、敵拠点の位置を特定していくつか駆除する。
砦の防衛はステラ隊、南西の偵察はミンシア隊、北西の偵察はクレア隊とする。
偵察部隊はファリス参謀の作成した地図に記された場所を重点的に捜索し、無理をせず危険だと判断したら、ただちに砦にへ退却せよ!」
ファリスが村の老人達に昔、ゴブリンの巣があった場所や作りそうな場所を聞き取り調査をして、巣の場所を予想した地図を作成してくれた。それに基づいた偵察作戦だ。
ミンシア隊には荷物持ちとしてビッケを、クレア隊には狩人としてザッジが入っている。
ビッケかザッジを巣に放り込んでしまえば片付いてしまう。それではみんな弱いままなのでサポートしてもらうことにした。
ただビッケが強いと知っている人は誰もいない。
「ミンシア隊、巣を3箇所発見! 地図通りの所でした!」
「クレア隊、巣を2箇所発見! 同じく地図の場所です!」
机の上には大きな地図が拡げられていて、発見した巣の所に小石を置く。ファリス参謀がそれを見てじっくり考えてから1つの石を指で指した。
「ミンシア隊にここを落としてもらいます。クレア隊はサポートについてください」
ここから1番近い巣だ。事前の打ち合わせ通りの指示である。
「ミンシア隊! クレア隊! 出撃せよ!!」
ザッジ騎士団長が大きな声で命令下した。
砦から2隊が駆け出して行った。みんなゴブリンとの戦闘は初めてだけど、何度も訓練して手順を確認してある。
なるべくゴブリンの巣の外で戦う事、数的優位な状況で戦う事、深追いしない事、無理をせずに危険な時は砦に戻る事。
2隊とも自分達でどう戦うか考えてもらった。きっと大丈夫だ
ステラ隊が砦周辺の警戒にしている。
「ここで待つのも大変だな。 自分で行った方が気が楽だ」
「それでは誰も成長しませんよ。1人の強い人で何とか出来る状況は限られてます」
ファリス参謀と地図を眺めてひたすら報告を待っているだけだ。
何事もなく終わってくれればいいんだが、心配過ぎて言葉もでない。
「戻って来ます!」
一瞬緊張が走ったがすぐに解けた。成功の赤い旗を掲げていたからだ。 砦の中にみんな帰ってきた。表情が晴れやかだ。
「ゴブリン駆除完了しました。両隊とも重傷者無しです!」
大きな歓声が上がった。一旦ここで休憩を取る。小さな傷でもポーションで治しておく。戦闘状況を確認後、隊を入れ替え、また攻撃に出る。ファリス参謀が次の場所を指定する。
「次、出るぞ! クレア隊を主攻、ステラ隊はサポート、ミンシア隊は砦で待機! 行け!!」
ザッジ騎士団長からまた出撃命令が出た。実際には自分も行くのだけど全て練習を兼ねている。ザッジはあくまで控えだ。
「巣に何匹か逃げ込みましたが、しばらく待てば出てきます。出て来た所を弓で射れば簡単に倒せます。レッドキャップは訓練通り囲んで攻撃すれば大丈夫です」
ミンシア隊長がファリス参謀に詳細な戦況を説明している。
次にステラ隊を主攻にし、今回の攻撃は無事終了した。
ここで戦力の半数は村に帰り、残りの戦力は砦を守りつつどんどん防衛を固める。
計画通りに事が進んだのでもう一個の予定もやる事になった。
最初に俺が突っ込んだ巣をファリスと見に行く。巣の中がどうなっているのか見て把握する為だ。
ゴブリンは一度使った巣をしばらく使わないらしい。
村に帰る者達を護衛として巣に行き、自分が前を歩いてファリスが後ろについてくる。一応、抜剣して片手には松明を持って進んで行く。
「聞いてはいたものの、見るとかなり狭いですね。これでは戦いにくそうです」
「そうだな。大きな斧などとても振り回せないし、体格の小さいゴブリンの方がここでは有利だな」
中で倒した敵も全て外に出して焼却したので死体はないが、ゴブリンが持ち込んだいろんな物はそのままで酷い異臭がした。
「本当にクサイですね。ゴミでも食べてるんでしょうか? よくこんな中に入りましたね……」
「このニオイがあると次の群れが来ないんだったな?」
「はい。このニオイが縄張りのようなものらしいです」
レッドキャップのいた1番奥の部屋に来た。ここだけ少し広い空間がある。松明の明かりで周りをよく確認する。
「何もないな。ここで何をしているんだろうか?」
「繁殖活動をしているのではないかと本に書かれていましたが、定かではありません」
それはそうだろう。誰も見たくない……
「こんな洞窟が都合よくあるとは思えないから掘っているんだろうが、ここまで掘るのは大変だな」
「そうですね……何かあるのかもしれませんね……」
ファリスは松明で洞窟の壁をしっかり照らして手で触っている。
「壁は硬いですね。しかし、掘る道具は今まで見てないです……こんな壁を手で? ん? 何か小さな穴がたくさん開いていますよ?」
ファリスが松明で照らしている部分に指の太さ程の小さな穴が多数あった。ひょっとして……棒を見つけて突っ込んでみたがさすがに何も出て来ない。
「よし! 壁を壊してみる。 少し離れててくれ」
壁に手をつけて錬金術のスキル「分解」を使ってみる。岩が粉々になって砂に変わっていく。少し分解して砂を掻き出して確認していく。穴はかなり奥まで続いている。肘の長さまで進んだ所で何かが見えた。
「ミミズだ……」
ちょっと大きめサイズのミミズが3匹、穴の中から出てきた。
「ミミズ? こんな硬い壁に? ……魔物かも?」
「何? これが魔物? ……いや……そうかもしれないな」
ビッケのスライムは豆粒くらいだ。ひょっとしたらこれも。羊皮紙をリュックサックから取り出して鑑定してみる。
ストーンイーター レベル 1 スキル 採掘
「魔物だな。ゴブリンはコイツをどこからか捕まえて使っているのかもしれないな。 ある程度の知能がいる。レッドキャップがやっているのかもしれん。テイマーの可能性もあるな」
レッドキャップをジョブ鑑定すればわかるな。
「なるほど……これなら道具は要りませんね。わかったところでなんの役にも立ちませんが」
いや、この発見は凄いぞ! ファリスが居なかったら飛び跳ねてしまいそうだ。
こいつが鉱石をドロップしてくれれば最高だ!
ゴブリンの短剣を分解、錬成するより全然いいぞ!
こいつをダンジョンに設置して、後は戦闘マニアと戦闘狂に任せればいいだけだ。
「よし! 戻ろう。 いろいろ思いついたぞ 来て良かった」
会議室の机の上には砦で使った物と同じ地図が拡げられている。今日の作戦で得た情報を元にファリス参謀と作戦の練り直しをする。
「予想通りの位置に巣があるのは戦いやすいですが、最悪の状況です」
地図には巣の位置を予想した印が数十箇所も書き込まれている。その印は村から離れると減っている。国境を意味する川の近くは無印だ。どうなっているのか誰も知らないからだ。予想通りとは多いということを意味した。
「村と川の間、全域を駆除する力はアルカディア国にはありません」
完全に駆除しなければまた増える。ファリス参謀は苦渋の表情を浮かべていた。予想していても現実を見るとかなり厳しい。
「ナック、ちょっと相談があるんだけどいいかしら?」
ヒナがクレアを連れて会議室にやって来た。ここではなく他の部屋で相談したいと言われたので空き部屋で話すことにした。何かあったか?
「今日の戦いの事でクレアが私に相談してきたのよ。でも私では解決できない事なのであなた達にも聞いて欲しいのよ」
ファリスも同席している。順調に進んだはずだけどな……
クレアが思い詰めた硬い顔をして話し始めた。
「……ゴブリンが怖いんです……騎士なのに……」
震えながら涙を流していた。
「……ゴブリンが武器を持っているので……慣れるのに時間が……」
ゴブリンと戦うのも初めてだが、本気で武器を使う敵も初めてだ。
みんなが戦闘に向いている訳ではないんだ。苦手な人もいる。
「私は昔から何をやるにも慣れるのに時間がかかるんです。今日のような早い展開だと戸惑ってしまって……ごめんなさい」
また配慮が足りなかったな。村人全員をジョブ鑑定しようとしたのと変わらない。若者全員を同じ戦闘要員として考えてしまっていた。
同じ失敗を繰り返してしまった……
「いや。謝るのは俺の方だ。駆除を急ぐあまり、周りが見えなくなっていたようだ。すまなかったな……」
相談するだけでも悩んだだろう。周りはみんな必死だから。
「クレア、俺を助けてくれないか? 俺やザッジはどうしても戦闘に前のめりになってしまう。後方支援と補給を担当して君の様に悩む人の受け皿になってくれないか?」
「でも、それでは前線で戦う人が足りなくなります。そんな事……」
「いや、考えがあるんだ。駆除さえできればいいんだ」
肩を小刻みに振るわせる女性が目の前にいる……
レアジョブのナイトである としか見ていなかった
俺は普通の羊皮紙だな……
その人の表面しか見ていなかった
人はそれぞれ違うんだ
せめて上質の羊皮紙にならないと
その人の持つ 良い部分を活かしてあげよう
そうすれば 自信もつくはずだ
前に出て 戦うだけが 戦いではない
後ろから支えるのも 大事な役目だ
大丈夫 優しくて真面目な女性だ
それを支えるのが自分の役目だ
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