第24話 志す人

 

 おかしい……おかしいぞ……なぜこうなる?


 ザッジの裏拳が後頭部に直撃し、ビッケの足払いを受けて、おかしな方向に体がねじれて、宙に浮いたと思ったら地面で全身を打ってしまった。


 ヤツらはおかしな事を言い出した。


「「 2対1、1対2、1対1対1の練習がしたい 」」


 2人でやればいいじゃないか……なぜ俺を入れる?


 病院が暇なので開院する日を月曜、木曜の2日にした。月曜は女性限定の日とした。その日はルナに診察してもらう。ほとんど若い女性が病院に来ないので大臣の提案でやってみる事にした。裏でカルテを見て薬の処方を一緒に考えて渡せばいい。


 「これで夜勤に入れてもらえるな」


 ヤツらは毎晩来て戦闘に明け暮れている。


 とにかく逃げたい……


 だが、夜勤に加えてもらうのには激しい抵抗にあった。

 早朝の風呂を夜勤者に開放したからだ。夜勤から帰ってきた者達の為に美少女騎士達が食事を用意してくれる事になって、彼女達と一緒に朝食まで食べられる特典付きになって大人気なのだ。

 夜勤明けで疲れているけど、温かいお風呂に入り、美少女騎士達と仲良くお食事。しかもその食事が美味しい。彼女達はそれぞれ違う村の出身で珍しい料理を作ってくれる。

 


 完全に餌付けされてしまっていた……



 さらにファリスとアオイまで加わってきたので女性が8人もいる。

 みんな何とか村に馴染もうとたくさん話しかけてくれるらしい。


 そんな中に割って入ろうとしたのでいい顔はされない。

 特に隣り村出身のクレアが料理担当の日は全く入れない。どこで仕入れて来るのか知らないが、誰がその日の料理を作るのかみんな知っているのだ。空きがある時だけ入れてくれる事になった。


 待望の夜勤が回ってきた。2人1組で計2組の体制だった。

 相方はジェロという気のいいヤツで戦士のレベル3の男性だ。

 村の門は北側のみだったが今は西側にもある。今日はジェロと北門を担当する。


 ちなみにジェロはミンシア推しらしい。


 夜勤の前に門番用の小屋で睡眠を取っておくのがオススメみたいなので日が暮れる前に門へ行くと門番と話している者がいた。


「おーい、ナック。旅の商人が来てお前に会いたいと言っているぞ」


 見覚えのある商人で以前、薬と剣を交換した人だった。アオイのいた武器屋のオーナーだ。軽く話をして館に泊まってもらう事にした。今から寝ないといけない。

 小屋の中にはベットが置いてあり、そこで寝ていると交代する人が起こしてくれる。村人が寝る時間くらいで交代して夜勤が始まる。

 ジェロの提案で村の巡回をやってみる事になった。ジェロは門に残って外の監視だ。


 巡回する者は薬などが入ったリュックサックを背負い、腰に鐘を装着するそうだ。松明を片手に夜の村を歩いて行く。まだ起きているのか明かりがついている家も多少あったが出歩く人は誰もいない。こんな時間に村を歩く事などなかったので新鮮に感じた。とても静かで、歩く度に腰にある鐘がカラカラと辺りに鳴り響く。

 中央広場に入って、館に行くとそこだけがとても明るい。窓に明かりがたくさん灯っている。2階のファリスの部屋も明るい。本を読んで勉強でもしているのだろうか。

 扉がまだ開いていたので中を覗いてみると、アオイと商人が会議室で話していた。


「ゆっくり休んでくださいね。扉を閉めるのを忘れずに」


 任務中なのでちょっと声をかけるだけにする。西門に行き、異常がないか確認したら北門へ戻る。

 小屋には魔石の照明具が設置されたので、本を読む事が出来る。神話の本を置いて誰でも読めるようにしてある。

 ジェロは本を読んでいて、俺は外を眺めていた。


「なぁ、今は楽しくやっているが、こんな事いつまでも保たないぜ」


 そうだな。ジェロの言う通りだ。……ゴブリンが出たからだ。


「若者の数が全然足りない。俺達だけでヤツらを駆除できるかな」


 村人、総出で対策している。こんなにもみんなを苦しめやがって。


 ゴブリンめ……ゴブリンめ!……竿を折ったぞ!!


 ゴブリンを学び、ゴブリンを知り、ゴブリンを消す


 明るくなりかけた空に強く輝く星が1つだけ見える 


 必ずだ! 



 朝日が登り、交代の者が来た。風呂に入って、女性8人と会議室で朝食をみんなと食べる。夜勤は大変だったけど確かにこれはいいな。賑やかで楽しい。

 昨日、村に来た商人の姿もあった。アオイの様子を見に来たそうだ。

 少し話をしてみる。


「ナック様。お勤めご苦労様です。私はオーパス商会のオーナーでルドネと申します。お疲れのところ申し訳ないのですが、お願いがございます。私をアルカディアのお抱え商人にして頂けませんか? アオイの為に店を作っていると聞きました。是非、お手伝いをさせて下さい」


「それは有難いけど、売る物がないですよ」


 薬草畑は復活したが、薬草の品質は普通で剣と交換した品質の塗り薬はまだ出来ていない。


「余った薬と村の皆さんが使っているリュックサックでどうでしょうか? 見ると中々に工夫されていて十分に売り物になります」


「なるほど。あのリュックサックが売れるのか。いいでしょう」


 頑張れば薬はいくらでも作れる。リュックサックも数はそろわなくてもいくつか出来るだろう。


「何かご希望の物はありますか? 手に入れて参ります」


「そうですね……ハーブの種が欲しいです。消臭薬を作りたい」


 ゴブリンの洞窟が臭すぎるのでニオイ対策をしたい。


「ハーブですか。それならすぐに手に入ります。他に足りない物は?」


 いずれは鉱石が欲しいけどまだ建物も出来ていない。

 武器も木も食べ物もある。


 物はあるんだ……


「今、足りないのは人です。ゴブリンが現れて対応に追われています。あなたは各地を旅していると聞きました。もし、アルカディアのような田舎の国でも来たいと言う人がいれば、誘ってみてはくれませんか?


 あなたが見て、この人ならと思う人がいれば声をかけてみる。

 

 これと交換でどうですか?

 見てのとおりの田舎なので、あまり外から来た人を受け付けないかもしれませんが、困っている人や立場の弱い人をみんなで支える良さもあります。物よりも人。今はそういう状況です」


 賑やかだった会議室がいつの間にか静かになっていた。


「なるほど……承知致しました。必ずや成し遂げましょう」


 商人ルドネは椅子から立ち上がり、俺の前に来て片膝を床につけて頭を下げた。


「やめて下さい。何をしているんです」


「私の勘はやはり間違っていなかった。アルカディア国を見に行った方がいいと……これは大きな商いが出来そうです」


 商人ルドネがやる気に溢れた表情で答えた。


「大きな商い……それも勘ですか?」


 頼んだのは種を入手する事と声をかける事だけだ。


「勘ではありません……これは夢です。いつか国を動かすような商人になりたい……私の夢です」



 誰も声を発しない会議室でジェロが食事を終えて立ち上がった。



 ポンっと俺の肩を叩いて無言で出て行った。

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