第23話 やりすぎ
ここがどこか全く分からない
西に向かって走ったから東に進めば帰れるはずだ。左手には半分に折れた竿を持っていた。
洞窟の入り口で待っているとゴブリンが巣に3匹戻って来た。全て斬り伏せて巣に放り込んだ。
戻って来るヤツはみんな食材を持っていた。
食料の調達役だな。しばらく待ち伏せしていたけど、戻って来るゴブリンはいない。
焚き火の準備をして、何とか火を起こした。
レッドキャップの所に戻って魔石を取り出してみると中々の大きさだったけど、銀色羊よりはかなり小さい。焚き火の所まで持って行き、焼却処分をする。
ゴブリンは小柄なのでそんなに重くはないのだが、洞窟の中の匂いが凄い。
魔石の取り出しは外で行い、どんどん処理して行くと煙が大きく上がった。
「ナック! 無事か!」
ザッジ達が来たので事情を説明して魔石の取り出しと焼却処分を手伝ってもらった。村のみんなが集結してきたのですぐに片付いた。
洞窟の入り口を何とか塞ぎ、村へ戻った。
「大変申し訳ございませんでした!」
みんなが集まる中央広場の前で謝罪した。もう謝るしかない。
とりあえずニオイを落とす為に交代で風呂に入る事にした。
パーティーは解散してもらったけど、ゴブリンへの警戒の為の巡回を交代でやる事になった。
会議室で今後の対応を話し合う。メンバーはザッジ、ステラ、ファリス、自分の4人だ。
「ゴブリンに大切な竿を折られ、少し冷静さを失ってしまった。改めて申し訳ない。ゴブリンが村まで来たのはかなり昔の事だ。西の森のさらに西側で繁殖している可能性がある。徹底的に駆除しないといけない」
話を全部聞いたファリス大臣が羊皮紙に書かれた地図を持って来て説明を始めた。
「これがアルカディアの簡単な地図です。今後、詳細な地図に変えていく必要があります。今回、発見されたゴブリンの巣はこの辺りと聞きました」
羊皮紙に小さく印を付けた。村からかなり遠い……
「無謀な行動は褒められませんが、巣が見つかったのは大きいです。西の森に訓練所を作る予定でしたが、予定より森の奥に砦を築き、その中に訓練所を作りましょう。砦まで馬で移動出来るように道も整備します。一旦、村の中は建築を中止してこちらを優先します」
ザッジが地図を眺めて大臣の話をじっくりと考えてから発言した。
「いい案だ。皆、建築に慣れたし時間はそんなにかからない。砦を軸に巣を探していけば今よりかなり遠くまで捜索できる。馬で移動する事を考えると今日、巣が見つかった辺りでもいいな」
ファリス大臣が大きく頷いた。そして地図から目を離した。
「これは攻めの対策です。守りも固めるべきです。ゴブリンの侵入を許してしまいました。ビッケの家は一軒だけ離れた所にあるので守りにくい。家の周りだけでも柵を作りましょう。村の外周も補強が必要ですね。人が足りないので年配者やお年寄りにも手伝ってもらいます」
ステラが挙手をして発言をした。
「今日のパーティー編成は急遽行われたので多少バランスが悪かったです。ナイト2名、近接攻撃、狩人でパーティーを再編成しましょう。あとは、緊急で出撃できるようにリュックサックに物資を入れて用意しておくと、より早く出撃できると思います」
王都を思い浮かべてみた。そして村と比べてみる。
「将来的には村を壁で囲いたいがすぐには無理だ。簡単な木の柵と防御柵を設置しよう。村の周りの木を切って見通しを良くし、魔物が近づいたら弓で狙撃出来る様にする。この館の照明具を少し外して砦、門などの詰所に設置して夜でも活動しやすいようにする。夜勤者向けに風呂を早朝から開放しよう。夜勤に俺も加えてくれ」
みんなから意見がどんどん出てきた。多少の知能があるゴブリンの出現は深刻な事態だ。徹底的にやらないといけない。竿を折ったしな!
「 アルカディアからゴブリンを排除する!! 」
会議が終わったのは夜だった。右手に松明を持って家へ続く小道を登って行く。左手には折れた竿を持って……後ろからザッジがついて来ている。家につくとビッケが中で待っていた。
「そんなに大事な竿だったのか?」
「ああ、これはビッケの親の形見だからな。それをビッケが友情の印として俺にくれた。俺にとっては薬草畑と同じくらい大切な物だ」
「そうか……貸せ。折れた先に木を継ないで直してやる」
「ありがとう。すまなかったな……」
ザッジと静かに話した。皆から散々怒られたからさすがに怒ってはこない。木を継ないでも竿は元には戻らないだろう。だが、ザッジの気持ちが嬉しい。「竿なんかでどうかしている」何て言わないで直してくれると言ってくれた。
「レッドキャップは推定レベル7の魔物だ。それにあの数のゴブリンをひとりで倒すなんて普通じゃないぞ?」
確かに普通に考えればそうだろな。だが全く怖くは無かった。
「ビッケ。開けてくれ」
ビッケが床のフタを開けると隠されていた階段が姿を表す。階段を下りて扉を開けると昼のように明るい洞窟がある。
ダンジョンだ
ザッジが目を見開いて驚いている。俺とビッケは椅子に座って、ザッジにも座るように言った。
柵の中に羊が1匹入っていて、ジッとこちらを見ていた。
「お前達ここで何をしていたんだ?」
この部屋にはいろんな物が置いてあった。テーブル、椅子、錬金道具、本、山のように積んであるボロボロの訓練用の武器と防具、それを補修する為の木材と皮。王都でもらった服まで置いてある。
「ここはダンジョンだ。奥に行けば羊とスライムがいる。でも、ソイツらは弱い。だから俺達はここでずっと同じ強さの相手と戦って訓練した。それも王都で見たような甘い訓練ではない。勝つか負けるかの訓練だ」
「ここは天気も時間も関係ないからねー いくらでも訓練できるよ」
「かなり前からここはあった。村人にはまだ話せない。ここの存在は危険だ。王都に行ってさらに強くそう思った。ザッジには早く話そうと思ったんだがあまりに忙しそうで機会がなかった」
「確かにここに来るのもカナデが怪我をした時以来だな……」
羊がもぞもぞ動いている。ビッケが草を与えに行った。
「王都騎士団を見た時、ビッケは弱そうと言った。俺も同じ事を思ったんだが、最近なんとなく理由がわかってきた。レベルだ。レベルは敵を倒した数、その質に大きく関係している。
ファリスはとても多く学んでいるがレベル1だ
俺はレッドキャップよりビッケの方が遥かに強いと思った。ヤツには駆け引きや工夫が全く足りていなかった。何をするのか簡単に分かってしまうんだ。
それは王都騎士団の訓練を見ている時にも感じた事だ。極端に言えばレベル5より強いレベル1がいるかもしれないという事だ」
強い者は敵と戦う機会も多いだろう。だが、羊といくら戦っても強くなるのは難しい。
「見学した王都騎士団は集められたばかりの新兵だと思うが、それでも田舎の村では強いヤツらだろう。俺は弱そうとは思わなかった」
恐らく見ている部分が違うんだろうな。ちょっとした時に差が出る。
相手の隙を本気で狙っているか?
相手の嫌がる事をするか?
「ここでビッケの相手をすれば嫌でも強くなるぞ。もう俺では相手にならないような気がしているんだ」
もう木製の武器でも危険すぎて使えないので、布と皮できた筒状の袋に羊毛を詰め込んだ武器を使っていた。
痛いからもう止めようと言ったらビッケがカナデに頼んで作ってもらい持って来た。
もういいのに……
「よし! 俺もやろう! ダンジョンの敵とも戦ってみたい」
ザッジがやる気になってくれた。
これで少しは楽になるな……
「その前に虹色羊の羊皮紙を使ったジョブ鑑定をしないか? 再鑑定をして欲しいのもあって、来て欲しいと言っていたんだ。とても周りに見せれないからな」
「なんだか恐ろしいな……でも楽しそうだ。頼むよ」
ザッジ 破軍将 レベル 5
スキル 攻撃力アップ 特大
両手剣適正 大
木工師 レベル 0
「うーん。凄そうだけど……わからないな。木工師レベル0?」
ジョブが2種類も記載されているな。スキルが特大?
「なぁ、ナック。お前達もやったんだろ? 見せてくれ」
「ビッケ。机から持って来てくれないか?」
木工師が何かのきっかけで増えたのか?
「ナック兄! 大変だよ! 増えてるよ!!」
ビッケが慌てて走って来た。増える? 何が?
ナック ダンジョンマスター レベル 5
スキル 錬成
分解
魔力消費減 大
ビッケ マスターアサシン レベル 6
スライムテイマー レベル 0
スキル 急所攻撃威力増 大
二刀流適性 大
回避力アップ 大
内容が更新されているぞ!
この羊皮紙……更新機能付きか!
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