第22話 釣り竿

 館に向かうために小道を降りて行くと、村人達が建築現場で働いているのが見える。既に更地が出来上がっていて、丸太を加工して製材している者も多くいた。

 その横にアオイがいたので声をかけてみた。


「おはよう。アオイ、元気にやっているかい?」


「はい。今は木工道具や農具の整備もやらせてもらっています」


 勢い良く元気に答えてくれた。とても元気そうで良かったが、素晴らしい武器が作れるのだから活かしてあげたい。

 鉱石の入手方法を考えておかないといけないな。


 政府に入るとザッジと女性騎士のリーダー的な存在のステラがいた。猫耳族で赤いショートヘアが印象的なとても活発な性格の娘だ。

 大臣にも来てもらって要件を聞く事にした。


「村の外から木材を調達したい。西の森でどうかと思っている。木を切った場所に訓練所を作りたい。村の中はダメだと大臣から聞いてな」


「そうだな。ちょっとした素振り程度ならいいだろうが、村の中で訓練は避けてくれ。西の森ならいいだろう」


 ザッジとファリスで予め打ち合わせしていたのだろう。

 次はステラの要件を聞く。


「ここでの生活に慣れてきました。とても感謝しています。王都からここに送られた理由を説明させてください」


「ん? ああ……もう別にいいような気もするけどな」


「いえ。知らせずに何かしてしまう方がご迷惑をお掛けしてしまいます。訓練を避けた方が良いとは思っていませんでした。

 私達はみんな、ファリス大臣も含めてですが亡くなった王の側近を全て王子が引き継いだので側近から外されました。

 王の側近のレベルは5以上と法で決まっていたのもあります。

 私達のジョブはみんな「ナイト」です。王都騎士団においてナイトは戦士と同列の扱いになります。

 ジョブ鑑定時はレアジョブ扱いですが王都騎士団ではレアではないのです。戦士の方が重用されるでしょう。

 女性のナイトでレベルが低く、後ろ盾もないので選べたのは騎士団の雑用係か城の召使い、嫌なら里に帰るしかなかったのです。

 盛大に見送られたのにすぐに帰る事など出来ませんので、悩んでいた所にアルカディア国を支援する名目で騎士を派遣する話を頂きました」


 ナイトか……


 レアジョブの中でも比較的多いだろうな。

 騎士中心の国だからな。


「ここでレベル5になれば側近に戻る道も開けますし、アストレーア様から信じて待つように言われています。騎士団長から再鑑定の話を聞きました。ナイトはレベル5になれば回復魔法が使えます。アルカディア国のために全力で努めますので私達にも機会をください」


「鑑定は村人と同じでいいよ。しかし、なぜ法やルールを変えないのか分からないな。王になったんだから好きにすればいいじゃないか?」

 

 ステラは答えられないようだった。変わりにファリス大臣が答えた。


「地盤が弱い状態で王になると必ず法やルールを変えて欲しいと言う者が現れます。あれもこれもと陳情されれば大変な混乱になるでしょう。ひとまず何も変えない方がいいでしょう。それにルールを自分の都合のいい様に変えてしまう王に従いたい者はあまりいないでしょう」


 ルールを変えるのも大変か 


 良くする方向でもタイミングがあるな



 薬草畑の薬草達が少しずつ収穫出来るようになってきた。

 今日は魚を釣った後にポーションをこれで作ろう。

 最近、なんだか調子良く薬が作れるようになってきた。様々な薬を作ったし数もこなしたので慣れてきたみたいだ。


 ビッケの家についたがいつも釣り竿を置いていた軒下に釣り竿が無かった。以前はビッケが使う事もあったが最近は全く使う事がない。


「おかしいな。泥棒なんている訳ないしな?」


 浜に行ってビッケに聞いて見ると来る時には置いてあったと言っている。戻って一緒に探していると森の中から何かが出て来た。


「ギギギィー ヒツジィー! ヒツジィー!!」


 上半身に汚い服を着ていて、特徴的な緑色の肌が見える、体は人の子供並みの大きさで赤い帽子を被っていた。

 

 手には釣り竿「だった」物を持っていた。



 ゴブリンだ



「貴様ぁーーーー!!!!!」


 一気にソイツに駆け寄って行くが、ギャーギャー騒いで森の中に逃げて行った。


「ナック兄! 待って!! ナック兄!!」


 ビッケは慌てて後を追ったがナックの姿はもう見えなくなっていた。




  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ザッジ兄! 大変だ! ゴブリンが出た!! しかも赤い帽子のやつだ!」

 

 何とかナックを探そうとしたがどこにも居ない。このままでは危ないのでザッジの所に助けを求めに来たのだ。


「ナック兄がブチ切れて赤い帽子を追いかけて森の奥に行っちゃった」


「何!! ゴブリン……レッドキャップか 緊急事態だ! 村人全員警戒態勢だ! 戦える者は武装して中央広場に緊急召集だ!!」


 ナック……冷静なお前がどうしたんだ……

 武装した若者達が集まってきた。ヒナやルナもいた。


「村の側にゴブリンが出た! しかもレッドキャップだ。レベル7くらいあるかも知れん」


 集まった者達に動揺が走った。


「何処かに巣を作ったのかも知れない。見つけても応援がくるまで待て! パーティーを編成する。

 ステラの部隊を3つに分けナイト2名を中心に均等な人数に分かれろ! ヒナ、ルナ、ビッケは俺につけ! 西の森を4隊に分かれて捜索するぞ。各隊の距離に気をつけろ。離れすぎると応援が間に合わなくなる! 行くぞ!!!」


 西の森は未開拓地だ。


 道らしい道はなく馬は使えない。


 ザッジを先頭に各隊が走って門を出て行った。




  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 許さない! 


 絶対に許さない! 


 ビッケの釣り竿を折りやがった!!


 レッドキャップとの距離はなかなか詰まらなかったが、離される事も無かった。


 アイツ……言葉を話したな


 確かに「ヒツジ」と言った


 アイツは絶対に倒さないといけない。

 視界の先にはふざけた様な態度で折れた釣り竿を振り回しているゴブリンがはっきり見える。


 かなり森の奥まで入った所でレッドキャップは洞窟の中に入っていった。抜剣して止まらずに一気に駆け込んで行く。

 中には緑色のゴブリンが一杯いたが虚を突いたので無抵抗のままだ。どんどん切り裂いて進んで行く。


 弱いな コイツら


 洞窟の中は狭くて薄暗かったが何とか中は見えた。入り口の騒ぎに気付いたゴブリンが棍棒を片手に奥から数匹出てきた。


  関係ない


「どけぇーーーー!」


 洞窟が狭く剣では戦いにくいので殴って、蹴ってブチのめして行く。

 慣れたものだ。狭い所の戦いなど苦でもない。

 剣が使えない戦いも散々付き合わされた。


  何でもない


「おい。 話せるんだろ? どこから来た?」

 

 洞窟の1番奥の少し広い場所にやつはいた 


 レッドキャップ 1  ゴブリン 2


 3匹だが  短剣持ちか……


「ギギギィー ヒツジィー ホウコクゥー」


 チッ! 知能が低いのか 片言しかしゃべれないな 

 

 やれるか?


「知るかぁーーーー」


 抜剣して斬りかかる。

 1番近くにいた奴に鋭く踏み込んで斬撃を放つと驚いて短剣で防御しようとした。


 構わない


「受けれるかーー そんなもんでーー!!」


 剣と短剣が一瞬交わったがそのまま斬り下ろし肩から腰まで斬り裂いた。次の瞬間、隣にいた奴のスネに向けて左足で蹴りを放ち、態勢を崩したところで体に剣を突き刺した。すぐに剣を抜いて残りのヤツを見る。


「おい。 いい加減にそれから手を放せ」


「ヒツジィー ニオイィー ホウコクゥー」


 誰かに羊の存在を報告するのがコイツの役目か 


 生かして泳がせるか?


「無理だな ここで死ね」


 コイツしかしゃべっていない。


 特別なヤツか? 


 冷静に相手を見ないといけないな。


 武器は短剣と折れた竿か


 踏み込んで斬る!


 と見せかけて左足で前蹴りを放った。


 ヤツの腹に当たったが


 ビッケを蹴った感じだ


 後ろに飛んだな……間合いの取り方もいい 


 手強いぞ!


 ジリジリと間合いを詰めていく。


 攻撃してくるのを待つ


 焦れて我慢出来なくなったヤツが短剣を突き出してきた。


 だろうな 


 わかるよ


 スッと突き出した腕を切って、左手の拳を握って全力で腹をぶん殴った


「消えろぉーーーー」


 拳がヤツの腹を捕らえた瞬間!


 体から一気に魔力が拳に向けて流れ出しヤツの体を貫いた。


 レッドキャップは風穴を開けて後ろに倒れた


 ジッと左手を見つめる……魔法か?


 いや……錬金術か


 大きく息を吐いた


 ん? この洞窟……ひどいニオイだな……

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