第21話 子供の遊び場
芽を出した薬草が畑一面に広がっている。まだ収穫は先だけど順調にいけばそんなに時間はかからない。
釣りに行く途中で野生の薬草や錬金材を採取して行く。畑の薬草よりは品質が落ちるけど無いよりはいい。
錬金術の本と創薬の本を読み直して、身の回りにある素材を採取する事にした。田舎は素材の宝庫だ。気にして見ると使える物がとても多い。
リュックサックの中には「ビン」も一杯入っている。戦闘マニアのビッケが連日、羊を狩りまくっている。もう付き合いきれないので放っている。銀色羊もたまに出る。最初は付き合ったけど1人でやらせてみたら見事に倒してしまった。
森には素材がたくさんあるけど品質がバラバラで薬草畑の薬草と比べると数段見劣りする。祖父が守り伝えてくれた物の凄さをこうして採取していると実感できる。一方で種類は豊富だ。草以外にも木や花、キノコも採取する。
ビッケの家に着くと今日は珍しく家の前にビッケが座っていた。
「おはよう。ビッケ。今日は海にはいかないのかい?」
「ナック兄! いいところに来たよ。これを見てよ」
そう言って細長い木の棒を見せてきた。ただの棒だ。
「その棒がどうかしたのか?」
「棒じゃないよー ここだよ! ここにスライムがいるんだよ」
棒の先を見ると豆粒のような青い物が付着していた。
「スライムのようにも見えるけど、どうしたんだいこれ?」
「そこの木の所にアリの巣があって棒を突っ込んで遊んでいたらコイツがくっついていたんだよー」
アリに捕まって巣に運び込まれたか。
アリより弱いって……
とにかく良く見せてもらう。確かにスライムの様だけど動いていない。
「死んでるのかなー」
「うーん。アリの攻撃でダメージを負ったのかもしれないな。塗り薬は家にあるな? それを塗ってみよう」
ビッケの家に入って薬を出してもらう。
「なんか塗るだけで死にそうだねー 入れちゃおう」
薬に棒の先を近づけて薬の上にスライムをそっと乗せかえた。しばらく動かなかったけど、ほんの少しだけ動いているようにも見える。
「ん? 薬が少しだけ減ったぞ」
薬がスライムの周りだけ少しへこんだ。体の動きが徐々に出てきた。
「急いで持って帰ろう。生き残るか分からない。しまったな。これからは羊皮紙を持ち歩かないとな。こういう時に鑑定ができない」
ダンジョンに配置する魔物を増やすには魔物を鑑定した紙を虹色魔石に読み込ませないといけない。急いで家に帰って鑑定をする。
スライム レベル0 スキル 溶解
やっと見つかったスライムなので上質の羊皮紙で鑑定しておいた。鑑定した途端に薬の中にスライムはどんどん入っていった。アリの巣みたいに穴が開いている。
「とりあえず鑑定は成功したよ。ビッケ、ありがとう」
「遊んでいただけなんだけどねー コイツどうしようかー?」
「好きにしていいよ。もう潰してもいい」
「面白いから持って帰って遊んでみる」
そう言って羊を倒して帰っていった。そうだ。病院に行かないとな。
どうせ誰も来ないから新しい設計図を書こう。
予定通り誰も来ないので錬金部屋に行く。とりあえず今日、採取した物を使って薬を作ってみて鑑定しておく。
鎮痛薬、解毒薬、目薬ができて品質はいずれも劣だった。ビンに入れて保管する。
それから設計図をいろいろ書いてみた。羊とスライムしかいないので配置する数、組み合わせ、レベル、そして部屋の形を変えてみた。狭い部屋や細い長い部屋、変形部屋、高低差のある部屋なんかを適当に書いてみた。できないなら虹色魔石が受け付けないだけだ。
ビッケが楽しく遊べるように考えればいい。ただ、危ない事はしない。
作業を終えて会議室に行くと老人達が結構いた。みんなで誘い合ってお風呂に来たそうだ。とても気に入ったそうでたまに来たいと言っている。
「来たついででもいいから、病院にも顔を出して下さいね。ちょうど今薬を作ったところです。痛いところがある人は今、言ってくれれば薬を塗りますよ」
「わしは肩こりが酷くて困っているんじゃ。そんなのでもいいか?」
老いた男性が聞いて来た。
「まだ品質がよくない薬なので効き目はイマイチかもしれないけど、塗ってみましょう」
そう言って薬を塗ろうしたら
「わしはルナちゃんに塗ってもらいたいぞ」
俺だって塗ってもらいたいぞ。真剣な顔をして言って来るのでルナに薬を渡して塗ってもらった。
「どうですか? お爺ちゃん、本当にこりがひどいわ。揉んでおくわね」
「おお! もう治りそうじゃ!」
……まあいい
たぶん一時的に表面の痛みを和らげる程度の効き目だろう。
作った薬を診察室の机の上に鑑定に使った羊皮紙の上に薬を並べていく。薬の棚を作った方がいいな。
「ナック様、さっきのお爺ちゃんに治療した内容を教えて下さい。記録をします。カルテと言って病名、症状、治療内容、処方した薬の種類、量を記録して今度の治療に活かす書類を作ります」
「それはいいね。重度の肩こりでマッサージをして、鎮痛薬の劣を塗った。風呂にも入ってもらったな。風呂は肩こりに結構効くと思うな。本を長時間読んだ後なんか凄く気持ちいいからね。そうだ大臣にはコレをどうかな? 目薬が出来たんだ」
まさか自分に薬を処方されると思わなかったみたいで驚いている。
「実は目が少し疲れた感じがするんです。本の読みすぎですね」
「熱心なのはいいけどほどほどにね?」
「はい。ここでは王都と違って夕方までしか本が読めないので、どうしても目一杯続けてしまうんです」
「夜は? この館には照明具があるはずだけど?」
「もったいないので使っていません」
不思議そうな顔でこちらを見てくるけど目には良くない。
「魔石は何とかするから照明具を使っていいよ。君に何かあると困るからね。体は大事にするんだ」
「分かりました。正直に言うと暇で困っていたんです。助かります」
魔石はかなり余っているからここで使う分には問題ないだろう。
「そうだ。もらった本の中に神話の本はないかな?」
「もらった物の中にはないですが私物の書ならあります。お貸ししましょうか?」
「おお! 助かるよ。俺もビッケも神話が大好きなんだ」
「え? ビッケは本を読めるんですか? 勉強にも来ないのに……」
「ああ、読むのは出来るよ。たまに読めない字もあるけどね」
ファリスは何か考えているようだった。
村長が政府に来た。「王と大臣の3人で話がしたい」と言ってきたので1階の空き部屋を面会室にして話を聞く事にした。
「再鑑定をしていると聞いてきました」
なるほど。来るかもしれないとは思ったが早かったな。子供と若者は鑑定に来たけど年配者と老人は「誰も」来ていないのだ。大臣からも相談されていた。
「もう想像はついているので隠さなくてもいいと思いますが?」
どう考えても魔法が使える者がいるに決まっている。狩人と戦士以外のジョブがいるのかもしれないな。
「……希望者には鑑定はせずに名前の登録にしなさい。苦しむ者が出ます。例えばカナデの祖母は治癒魔法が使えます」
それは……なぜそこまでする? 分からない……
「村の者がレアジョブとして王都に連れて行かれない様に徹底的にジョブが芽生える芽を摘んできました。あなたは魔法すら見た事がないはずです。私の娘達も見た事がないでしょう」
「わかりました。鑑定無しの名前のみでも問題ないです」
「皆、それぞれ事情があります。戦いに行った者の中には魔法を見るだけで精神が不安定になる者も多くいます。戦いなど望んでいないのに自分の範囲魔法で大勢の人を焼き殺した者もいます。今でも悩み苦しんでいるのです。どうか配慮して下さい」
そういう事もあるのか……
ただ隠しているだけではなかったのか。
「考えが足りない部分がありました。今後はしっかり配慮します」
村長からの根回しもあったのだろう。名前だけでもいいと連絡したらすぐに老人達も台帳の登録に来てくれた。村長の家で療養している者達の分はルナがリストを作って持って来てくれた。
これで「ほぼ」全員だ。
ビッケと自分は最初に鑑定した時の紙を出した。ビッケは漁師、自分は錬金術師だ。
アルカディアで国民台帳に名前が記載されていないのは
ただ1人
村長だ……
村長の名前を誰も知らない
娘達でさえ親の名前を知らないのだ
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