第17話 魂

 ビッケは欲しい武器を見つけたようだ。王都の夜は長いので夕食の後でも買い物が出来るらしく、アストレーアと一緒に店に行く事になった。アストレーアは帯剣してはいたが動きやすいそうな私服を着ていた。いつも兜を装備していたので分からなかった薄茶色の長い髪を髪飾りでひとつにまとめていた。防具をつけていても美人なのは分かっていたが私服姿は別人の様に美しかった。


 ビッケはザッジと数件の武器屋を見て回ったようだが、気に入った武器は今から行く所にしかなかったそうだ。


「ここの武器屋が1番いいよー」


 ビッケの案内で店に入って行き、剣や槍、防具等がずらりと並べられていた。品物を見ていくと確かに品質はいいようだ。ただ他の店を見ていないので比べようが無い。ビッケが欲しいのでいいと思っている。


「ビッケ君はいい目をしているわね。ここは私達、近衛騎士の御用達の店なのよ」


 アストレーアが少し後ろの控えた位置から話してきた。ビッケはいつの間にか店の奥の方に行き、壁に飾られた武器を眺めていた。


「ボウズ、また来たのか?」

 

 店の奥から茶色のモジャモジャヒゲのドワーフの男性が出てた。店の奥には鍛治工房があるのが見える。そこにいた者達が作業やめて工房の中からこちらを心配そうに見ていた。


「アストレーアじゃないか、お前さんの無茶振りで大変だぞ!」


「申し訳ありません……今日は護衛の任務で来ています。ナック様、この店であれば魔石を適正価格で買い取りしてくれるので安心してご購入下さい」


「ナック兄、この壁に掛かっているのが欲しいんだよー」


 ビッケが指を指している武器を見てみた。今までにみた事のない形の武器だ。だが、ビッケの作った木刀に形が少し似ている。


「じゃあそれにしようか。魔石と交換で購入できますか?」


 お金なんて全く持ってない。ドワーフの男性が近くに来て武器を壁から外してビッケに持たせてくれた。


「これだよー これしかない感じがするんだ」


「この武器は訳ありでな、値段が決まっていない。そちらで決めてくれ」


 ドワーフがおかしな事を言ってきた。値段が決まって無い商品なんてあるのか。さっぱりわからない。


「ビッケ、君が欲しがっている武器だ。自分で決めてくれ」


「僕の魔石を全部でいいよー」


 全く考えずに即答した。腰につけていた袋から灰色羊の魔石を2個取り出してドワーフに見せた。


「これで交換できますか?」


「おぉーーー」


 よくわからないが工房から出て来た者達から歓声が上がった。そちらを見ると1人だけ違う真剣な表情で立っているハーフドワーフの女性がいた。手を真っ直ぐ下におろしてこぶしを握っている。


「ナック様! 多すぎます! その大きさの魔石なら1個でここの武器が3本は買えます! それに……その武器は東の国の物です」


「アストレーア! お前は黙っていろ!」


 ドワーフが大きい声で怒鳴ったのでアストレーアは口をつぐんだ。


「銀色羊を狩ったか? この魔石……普通の銀色のやつより大きいな」


 あれ灰色じゃなくて銀色だったのか。まあそれはいいとして、これでは多すぎるのか……魔石の価値がさっぱりわからない。


「ボウズ、何でこれが欲しいのか詳しく教えてくれないか?」


「うーん。あんまり難しい事は分からないんだけど……そうだなー この武器は誰かのために作られた武器じゃあないんだ。自分のために作ったんだよ。そこが気に入ったんだ。僕の木刀にそっくりさ」


「ほぅ、ボウズ。なかなかの目をしているな。子供の単なる一目惚れでは無かったか」


「ビッケ、木刀を見せてあげてくれ」


 そう言うとビッケが腰から木刀を抜いてドワーフに渡した。


「これをボウズが作ったのか……よく使い込まれている、かなり精進しているな」


 ドワーフは木刀をいろんな角度から眺めてからビッケに返した。


「使い手としては問題なさそうだ。だが、この剣は特別なものだ。まだ足りない。売れん……どうする?」


 そう言ってこちらを見た。アストレーアは多すぎると言っていたのに足りないだと?


「剣を見せて下さい……」


 剣を受け取り、改めてよく見てみる。確かにいい出来だ……細く長い見た事のない美しい剣だ。


「その剣は東の国から来た者が作った物だ。この剣が売れないで残っているのは自分が東の国の出身だからだと思っている。どう思う?」


 ドワーフが聞いてきた。よく考えなくては、答え次第で結果が変わるぞ。


「この剣は……細すぎる。騎士の剣をまともに受けたら折れてしまう。この剣を使う者は剣撃を受け流す術を求められる。優れた回避をする術も必要だな。騎士の戦い方と正反対だ。この国の主戦力は騎士だ。それも重装備の騎士、あえてこの剣を使う者はいないだろう。護身用に使うには長すぎるしな。東の国の事は関係ないだろう。自分もそこの少年も戦争で親を失った。だが、この剣を作った者とは関係がない。……しかしこの剣は自分もいらない。俺の技量では上手く使いこなせない」


 そう言って銀色羊の魔石を取り出した。


「「うおーーーー!」」


 また工房の者達から歓声が上がった。


「魔石をもう1個追加しよう。これで手持ちは全てだ」


「ナック兄! それはダメだよ!」


「自分がいらないと思う武器に魔石をさらに追加した。そんなにボウズが可愛いか?」


「そうじゃない……確かに自分はこの武器を欲しいとは思わない。俺は自分の限界を超えて物を作った事がある。この剣をしっかり見るとその時と同じような気迫を感じる。自分の持つ全ての技術と想いをぶつけてこの剣は作られたと思う。ならばこちらも全て出すしかない。それだけだ」


「……いいだろう。魔石3個と交換でこの剣をやろう」


 魔石3個を手渡して武器を受け取りビッケに渡した。ビッケは黙って武器を受け取り腰に装備して頷いた。

 アストレーアは目を閉じ少し下を向いて左右に首を振っている。工房の者達は泣いているハーフドワーフの女性の所に集まって祝福していた。あの女性が作ったのだろうな。見事なものだ。


「ところで気になっていたんだが、お主の剣も見せてもらえないか? 見覚えがあるんだ」


 ドワーフがそう言ってきたので自分の剣を差し出した。


「間違いないな。この剣は昔、俺がこの店のオーナーの為に打った物だ。何処で手に入れた?」


「この国の南東にある小さな村に来た商人から自分で作った薬と交換して手に入れた剣だ」


 あの商人がここのオーナーなのか? そんな人が辺境の村まで商売しに来るのだろうか?


「ここのオーナーは変わり者でな。あちこちを飛び回って店にはほとんどおらん。確かに辺境の地で凄い薬を手に入れて大儲けしたと言っていたな。なんでも旅の途中で魔物に襲われて怪我した商人達をその薬で治して謝礼をタンマリもらったらしい」


「その時、私の部下達も怪我をしました」


 アストレーアが話に加わってきた。アルカディアからの帰り道で魔物に襲われて怪我をしたらしい。


「辺境の村で見つけた優れた薬を仕入れて、すぐにその薬で儲けている姿を私の主が見て「この商人は才能がある」と近衛騎士達の御用達に指定されたので、この店を利用するようになったのです」


「おかげで忙しくてしょうがない。今から最高品質の剣を20本も用意せねばならん」


「ナック兄、ありがとね これでかなり戦えるはずだよ。でも、もう1本武器がいるんだよねー この武器を作った人が僕のために作ってくれたらどんな武器ができるんだろうなー きっと凄いよ!」


「そうだな。その時は俺も作ってもらいたいよ」


 店を出る。いい店だった。


「ありがとうごいました!!!」


 とても晴れやかな笑顔で送り出してくれたのは


 泣いていた女性だった



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