第16話 約束

 部屋の真ん中のベットに目が行ったが、テーブルの上にはしっかりと食事が準備されていた。椅子に座るとすぐに王が入ってきた。


「すまないな。こんな形になってしまって……」


 久しぶりに見たがちょっと痩せたか? 顔色も悪く疲れている様だ。


「ほとんど時間が取れない。この後の予定も山のようにあってな。まず今の状況を説明しよう。私は王になったが地盤は弱い。東の国との戦争で多くの家臣を失ってしまったからな。父の地盤を少しでも自分の物にするのに必死なんだ」


「いろいろあるんですね。でしたら用件を早く済ませましょう。村長の秘蔵葡萄酒と武器を交換して下さい。あとアルカディア村はお返しします」


 こちらはそれだけだ。


 王のあれこれに付き合う必要はない。


「ああ、武器なんだが……今、私が武器をかき集めている事が知れると非常にまずいんだ。戦いの準備をしていると噂が立てば、周りを余計に刺激してしまうのだ。私がちょっと動くだけで思わぬ所に影響が出る」


 こちらは死活問題だ。何とか交換してもらわないといけない。


「村長が羊ハンター以外にも気掛かりがあるらしく、身を守るために必要なのですが……村長の葡萄酒は凄いらしいですよ?」


「羊ハンター以外にも気になる事……そんな凄い葡萄酒なのか?」


 よし! 葡萄酒には興味があるみたいだな


「なんでも50年物の葡萄酒だそうですが、無理ならいいです」


「50年だと! そんなに長い熟成に耐えれるワインはあまり無いぞ」


「村長は無類のワイン好きです。楽に100年は研究してますよ」


「20年物でもとても価値があるのに……50年物か、いいだろう」


 なんか簡単に落ちたな。


「では良い剣を20本お願いします」


「ぐっ、大きく出たな。まあいい。こちらも頼みたい事があるしな……」


 もうちょっと盛っても良かったか……


「アルカディアは契約により譲渡したので返す事はできない。返す事は私が取り上げた事と同じだ。何とかアルカディアが国としてやっていけるように知識を渡そう。それとふさわしい人材がいるんだ。辺境地で見つけた未知のレアジョブ 司書の女性だ。ただ、説得は自分で頼むぞ。出来れば必ず役にたつ。もし彼女が説得に応じたら彼女に本を選ばせる。知識の元になる本を持てるだけ持っていけばいい」


 アルカディアを国として考えたらゼロからのスタートだ。何から始めるにしても知識が欲しい。人材も重要だ。


「領主会議だが5日後に開催される。今日ここに来たばかりだが明後日にはここを出発してほしい。王都が戦場になるかも知れない。そんな事にならない様に全力は尽くしているがな。明日は普通に城に客として来てくれ。その時にさっきの説得をする場を設ける」


 ここが戦場に? そんな所に来ているのか! 


 王が死に内戦状態になる可能性がある所で遊んでいる事なんて出来ない。


 なんてことだ……


「すまないと思う。こんな事になるとは思わなかったんだ。私は必ず約束を守る。例え口頭の約束でもだ。君の国を責任を持って支える」


「ありがとうございます。ではこちらも王を支えます。同盟を組みましょう。豆粒のような国ですがあなたの味方です」


 対等でありたい


 国の規模は違いすぎるがこうやって時間を作って援助してくれるのだ。いつかこちらが助ける事ができるかもしれない。


「心強いよ、本心だぞ。私は君の錬金術の才能は本物だと思っている。ここで王の役割などせずに共に研究できたら面白い事になりそうなんだがな」


 来た時と同じ様に城を出るとミルズから顔を上げていいと言われ、馬車の窓から外を見る。城下町は夜なのに昼のような明るさで、人々が大勢行き交っている。アルカディア村なら真っ暗で外に出る者などほとんどいない。


「ミルズさん、魔石を換金してビッケの武器を買いたい。それから先程の方は何か頼みがあるようでしたが口にされませんでした。何かは分からないですが、依頼はなるべく受けます。それと引き換えに魔法のスクロールを頂きたい。今は使える者も居ませんが……今後出てくるかも知れません」


「武器の件はアストレーアに対処してもらいます。魔法の件は……使える者がいない?……まあいいでしょう。それはここでは決めれません。相談して許可が出れば準備しましょう」


 宿に戻るとみんなが部屋で待っていた。


「ナック兄、可愛い格好をしているねー? いい匂いもするねー?」


 うっ……着替えさせてもらえばよかったな。子供には説明できない。

 みんなの視線が痛いけど話さなければならない事がある。


 重要な事だ


 テーブルを囲んで椅子に座り、お茶を飲んで落ち着いてから切り出した。


「これからの予定を話すよ。明日は城に行って騎士団とギルドの見学をする。明後日にはここを出発してアルカディアに帰る」


 特に驚く事では無い。村人が王都に滞在するのは1日か2日だ。今回は領主会議の開催日程次第だったので予定が立てれなかっただけだ。


「ザッジ、お前に聞きたい事があるんだ。ジョブ鑑定の時に何かあったな? もう隠す事は無い。話してくれないか?」


 ザッジは自分にそんな質問が来るとは思っていなかったのだろう。一瞬驚いたが少し俯いて話し始めた。


「俺は戦士のレベル5だった。良くてレベル4だと思っていたが5だった。戦士はレベル5になると一気に強くなると聞いていたので、俺はとても喜んだ。しかし、あそこで言われたのは少し違った。騎士団に入るか金を払わないと強くなれないと言われたんだ」


 ザッジのような男はみんな強くなりたいはずだ。悔しかっただろう。


「その時はよく分からなかったが、みんなで狩りをしていて、何かおかしいと思った。ヒナとルナの矢が驚くほど当たるんだ。カナデも驚いていたが……鑑定する前と、した後では全然違った。俺はほとんど変わっていない。納得出来ずにヒナの鑑定結果を見せてもらったら紙にはスキルが書いてあった。命中率アップと書かれていたんだ」


 紙の質が違うからか……ヒナには上質が使われたな。上質な羊皮紙で鑑定すればスキルが確定して強くなるのか。未鑑定ではあまりスキルの効果が無いということか……


「俺だって強くなりたい。その為に頑張って来たんだ。何かがおかしいとは思うが分からないんだ」


「ザッジ、それは俺が何とか出来る。今は無理だが村に帰ったら出来るはずだ。恐らく羊皮紙の差だ」

 

 ザッジは黙って頷いた。国が騎士団に強い者を引き入れる為にやっているのか?


「カナデにも聞きたい。狩りと裁縫ではどちらを多くやっていた?」


 カナデもそんな事を聞かれると思わなかったのだろう。


「え? どちらか? それは裁縫に決まっているわ。小さい頃からやってるから」


 やはりな。普通の羊皮紙はその人の表面しか鑑定できないのか。上質はスキルまで鑑定できる。金色はさらに深い所にある才能。


 虹色はそのもっと深い所にある才能ってとこか


「ヒナ、ルナ。君達は狩人になる様に言われていたね。たぶん幼い頃からずっとだ。狩人以外に鑑定されない為だね?」


 ヒナとルナは聞かれるのが分かっていた様子だった。かなり動揺しているが。女性は徴兵の対象では無い、だがレアジョブだったら対応は別だ。男性は騎士団に入れられるが、女性は自分の家臣か? 家臣を多く失った王子は女性のレアジョブ狙いで補充しようとしていたのか。美少女騎士達はレアジョブだな。


「ナック……なぜそんな事を今聞くの? 私もルナにも分からない事ばかりなのよ……」


 これからのアルカディアの為に確認して知っておきたいのだ。知らない事ほど恐ろしい事はない。何かあっても対応できないからだ。


「あの村はおかしい。俺の鑑定魔法を除けば村長しか魔法を使えない。いや使わないのか? そこは分からない。君達は魔法適性が高いエルフ族だが、魔法を遠ざけている様に感じる。国の第1王子が田舎の村までわざわざ来てジョブ鑑定をした。その鑑定から君達は守られている。恐らく魔法が使えるレアジョブと鑑定されない様にね。聞いても村長は答えないだろうが……」


 もう留まっている訳にはいかない。アルカディアを取り巻く環境が変化し出している。動くためにはみんなの協力が必要だ。


「持っている才能を活かして村を支えよう。どこかで変わらないといけない時が来る。今がその時だと思っているんだ。みんなに助けてほしい。村の未来を切り開くんだ」


 アルカディアは強くならないといけない。今度、戦争に巻き込まれたらあの村は保たない。若者達が協力して村を変えていくんだ。単純な強さだけじゃない、日々の生活も向上させるんだ。


 王都のようにしたい訳ではない。


「少しずつでいいんだ」 


 少しの事を積み重ねていこう。錬金術師になった事をきっかけにいろんな事を学び始めた。石を金に変える事はできないかもしれないが……



ど田舎村を「最強の国」に変える事はできるかもしれない

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