第18話 未知のレアジョブ
部屋の窓から大通りを行き交う人々が見える。朝日が登ってまだ間もないのに王都の大通りは賑わい始めている。遠方の村に帰る者は早朝に出発するので、大きな荷物を抱えている者も多くいた。
通りの中央を真っ白で豪華な鎧を着て行進する騎士達がいた。全員が揃った防具、立派な槍、飾りの絵が描かれた盾を手に持っている。
「騎士団に入れば俺もああやって歩くのかな。誇らしいだろうな」
ザッジは眩しそうな眼差しで騎士達を眺めている。
「ザッジ、お前に任せるから軍を作ってくれ」
「俺にそんな能力があるだろうか?」
「学べばいいんだ。もちろん俺も協力する。一緒に村を守ろう」
通りに馬の蹄の音が響いてきた。騎馬隊が颯爽と駆けて行く。領主会議が近づき緊張感が増しているのかもしれない。騎馬の数がとても多い様に感じた。それともこの光景は毎日、当たり前の様に繰り返されているのだろうか。通りを歩く人達は誰も兵士達の方を気にかけない。
女性達が部屋にやって来て一緒に朝食を食べた。朝からかなりの量だったけどみんな残さず食べていた。料理の味も村のものとは全然違う。ここはとても良い宿だろうから出てくる料理はどれも自慢の物だろう。
「こんな美味しい料理を毎日食べてたら太りそうね」
ヒナはお腹をポンポンと手で叩いてニコニコ笑っている。
「このお皿の柄も素敵だわ。こんなお皿を村でも使ってみたいな」
カナデは食器の柄をウットリとした目で見ていた。
「このお茶がとても気に入ったわ。上品で香りが豊かだわ」
ルナは深く味わう様にお茶を飲んで香りを楽しんでいる。
「みんながここで見て、やってみたくなったら挑戦してみればいい。一緒に考えるよ。だから今日はみんなでよく見て、学んで、それを村に活かそう」
みんな静かに考え始めた。自分達のやりたい事をやればいいんだ。しばらく考えていたらいろんな意見が出だした。
「お風呂がとても気に入ったわ。村のみんなが入れるようにしましょうよ」
「違う種類の野菜や果物を育ててみたいわ。作れる料理が増えるし」
「この椅子がフワフワした座り心地で家に欲しいわ」
「全部やって見ればいい。簡単に出来ることもあるかもしれない」
何かきっかけがあればいいんだ。それは小さい事でもいい。そこから形を変えていくんだ。
用意してもらった服に着替えて、馬車で城に向かう。昨日見れなかった景色が今日は見れた。城に近づくにつれて建物はどんどん豪華になっていった。城に入り馬車を降りてアストレーアの案内で騎士団の訓練風景を見に行く。練習用の防具ですら豪華に見える。だが……
「あまり強そうじゃないねー」
ビッケは見たまま思った事を言ってしまった。ビッケに喋らないように小声で注意するとアストレーアが教えてくれた。
「確かに弱いんです。質のいい兵士が少ない。少し平和が続くだけで軍は弱くなります。ザッジ殿のような強さの人材はとても貴重なんです」
生産ギルドの集まる区域にやってきた。たくさんの人達が物を作っている。鍛治、裁縫、錬金、木工など大規模なギルドから小さい専門的なギルドまであり、多くの人が働いていた。
「たくさんの仕事があるのね。こんな風に働いているんだ」
カナデは熱心に裁縫作業を見ている。素材も道具も見た事のない物ばかりだ。カナデもここで学ぶ事が可能だったが、もうそれは出来ない。ここはもう他国なんだから。
学びたい者が学べるようにしなければ……
みんなには見学をしてもらい、王から推薦された女性と面会する事になった。部屋の中で2人で話すように言われ、小さな部屋に入るとすでに椅子に座って待っていた。
やっぱり村に来ていた女性だな。金色の真っ直ぐな髪が肩の辺りでクルッと丸まっている。
立ち上がり挨拶をすると可愛いらしい声だ。身長だけみるとビッケと同じくらいで子供のように見えるが、顔に丸い黒縁の眼鏡をかけていたので大人びて見える。
「私はここに残りますから……」
いきなりそう言ってくるのでこちらもさすがに驚いてしまった。
「まあ、まずは自己紹介から……私はナックと言います。ここより南東の村で広く人材を求めています。ある方からあなたを推薦して頂きました。とても才能のある方と聞いています」
こちらは言えないが王なので、言葉使いも丁寧に頑張ってみる。
「私はファリスと申します。あなたがアルカディア国王という事は聞いています。この部屋は声が漏れていようになっているので秘密にする事はありません。私はここに残ります」
全部知っているのか。普通あんな田舎の国に来るのは嫌だろうな。
「なるほど。理由を聞いてもいいかな?」
「王子は私にこの眼鏡をくださいました。この眼鏡は私のために王子ご自身が作ってくれた物です。これのお陰で字がとても良く見える様になりました。その時、この人に一生仕えると決めたのです」
これは頑固そうだな。しかもかなり頭が良さそうだ。どうする……
「アルカディア国には君のような人材はいない。国の中心人物として活躍してみるのはやりがいがありそうだけど、どうだろうか?」
「か、仮に行ったとしてどんな役職につくのですか? わ、私はここに残りますけど」
役職に興味があるのか、意外に揺れているな。
「王の下は大臣だったか? そんな感じでいいよ。好きなのでいい」
「好きなのでいいっていい加減ですね。ここに居れば本を読んでたくさん勉強が出来るのです。あそこでは出来ません。だ、大臣でも行きませんから! 召使いになってでもここに残ります」
勉強がしたいのか? 変わった子だな。ビッケとは合わないだろうな。
「勉強だったら出来るよ。君がアルカディアに来るなら国を作るために必要な本を君に選んでもらい、持てるだけ持って行っていいといわれている。その中に君が欲しい本を混ぜとけばいい」
「持てるだけですって! はい! 行きます! 行かせて頂きます!!」
かなりチョロいな……
「決まりだね。本を選ぶ時に医術の本は入れて欲しい。素人だが医者をやる事になってね。あとは軍の育成、魔法、裁縫、農業、木工なんかも欲しいかな。必要な物がありすぎて困るな」
「辺境地が成り上がるために必要な物、全て選びます!!」
「成り上がるって……大袈裟だな。来た事があるんだから足りない物ばかりなのは分かるだろう。任せるのでよろしく頼むよ。明日出発だから急いでくれ」
そう言った途端に勢いよく出て行ってしまった。変わった子だな。
部屋でそのまま待つ様に言われてしばらくすると、昨日の武器屋にいたドワーフの男とハーフドワーフの女性がアストレーアと一緒に入ってきた。軽く挨拶をして話を聞くと女性がアルカディアに行きたいと言っているそうだ。
「ある程度の事情はアストレーアから聞きました。コイツがどうしても行きたいと言うので預かってもらえてませんか?」
ドワーフの男性がモジャモジャのヒゲを手で触りながらそう言った。
「アオイと申します。東の国から鍛治の腕を試すためにやって来ました。昨晩、私の思い上がりを気付かせて下さったあなた方に着いて行かせて頂きたいのです。武器にお困りとお聞きしました。一から修行をやり直したいのです。よろしくお願いします」
ハーフドワーフの女性はアオイと名乗った。ドワーフというより人に近い姿だ。よく見るとドワーフの血は薄いようだ。人の姿に近い。赤茶色の短い髪をしていて元気のいい職人といった雰囲気だ。
「うーん。構わないのだけど村には鍛治施設どころか店すら一軒もないけどいいのかい?」
「聞きました。いいです。やり直したいんです」
「明日出発は変えれない。一緒に来た方が安全だけど間に合うか?」
「大丈夫です。元々、体ひとつで国を出てきました。すぐにでも行けます」
アストレーアに準備の追加をお願いしてみんなの元に戻った。
仲間が増えたがやる事は同じだ。コツコツと行こう。
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