第5話 鑑定

 今度は美少女騎士が館から出てきて、集まっていた若者達の名前を呼んで整列させている。ザッジは1番前にいて、自分は5番目で、その後ろにはヒナとルナが並んでいた。年齢順なのかも知れない。

 

「ねえ、ナック? 無職になりそうってホントなの?」


 前に並んでいるのは村1番の美人と皆から言われて、お嫁さんにしたい人ナンバー1のカナデだ。そんなお人が後ろを振り向いて真剣な表情で聞いてきた。


「誰がそんな噂を……たぶん大丈夫だよ」


「実は私も怪しいんだって、とても心配で」


 誰だよ! 黒髪の超絶美人にそんな事を吹きこむのは!


 確かにカナデは畑も狩りもそんなにやってないみたいだな。箱入り娘ってヤツだ。


「別にいいじゃないか? 美人で性格もいいんだ。いいお嫁さんになれるよ」


「ありがと。何だか気が楽になったわ」


 ニコッと美人すぎる微笑みをくれて前を向いた。何故か後ろから冷たい視線を感じるが、いいだろうこれくらい!


 館からザッジが鑑定を終えて出て来たが、表情が冴えない。誰とも話さずにこちらに来て鑑定結果を見せてくれた。



 ザッジ  戦士 レベル5



「凄いじゃないか! ザッジおめでとう!」


 村人達が集まってきてビックリしている。レベル5なんて聞いた事が無い。自然に拍手が巻き起こった。皆に囲まれて祝福されている。

 列が少しずつ前に進んでいく。鑑定結果を持った者が出て来て結果を見せるとまた拍手が起こった。


 この流れで無職だと非常にまずいな……


 前に並んでいるカナデは心なしか青ざめているようだ。

 カナデが呼ばれて館に入るとまた1人出てきて拍手が起こった。どうやらみんな拍手を受けるみたいだ。

 

 呼ばれて館に入る。館の内に入ったのは初めてだった。中に入ってすぐの所でカナデがイスに座っていた。両ヒザの上でグッと手を握っていた。大きな机が部屋の中央に置かれ、そこで前の順番の女性が鑑定を受けているのが見えた。

 鑑定をしている領主の後ろにはローブ姿の老人と説明をしていた美人騎士が控えていた。


「はい! 終わったよ。君は狩人でレベルは2です」


 鑑定を受けた女性がほっとした表情で立ち上がり、領主に会釈をして外に出て行くと拍手が聞こえてきた。


「次は、カナデ。席につきなさい」


 後ろに控えていた女性騎士が名簿を見て言った。

カナデが返事をして席に向かった。カナデが座っていたイスに座ると鑑定する様子がよく見えた。


「では今から鑑定するよ」


 領主の机の横には小さな台が置いてあって羊皮紙が「2種類」用意してあった。色は同じだが右側の羊皮紙は品質がいいように感じる。


 領主が右側の羊皮紙を手に取ってカナデの座る前に置く。


「紙の上に手を置いてね。私がそこに魔力を注いで鑑定の魔法を使うからね。手を離さないように」


 カナデと領主が紙に手を置くと紙の上に円形の模様が浮かんだ。例の羊と戦った時に見たのと似てる。


「うおーー!! コイ! コイ!」


 物凄い気合いで領主が叫んでいる。魔法って大変だな。

あんなに頑張っているなんてきっといい領主なんだ


「何かきたぞ! これ! ウヒャーー!!」


 っと叫んだ瞬間にバタンと机に額をつけた。


「はい……君は裁縫師のレベル2……特定生産職だ……」


「え? はい? ありがとうございます?」


「カナデ、そこの騎士について奥の部屋に行きなさい。説明があります」


 領主の後ろに控えていた女性騎士が呆れた顔をして発言した。カナデは何だかわからずに美少女騎士と一緒に奥の部屋へ歩いて行った。


「次はナック、席につきなさい」


 返事をして席に座ったがまだ領主は額を机につけている。


 なんだかガッカリしているみたいだ。


「王子、次の者が待ってます……」


 ローブを着た老人が声をかけたが顔を上げようとしない。

 そのままの格好で右側の羊皮紙を手に取り机に置いた。


「鑑定する……手を置いて……」


 なんか雑だぞ! 


 そんなにさっきの結果がダメなのか?


 いい加減に顔を上げろよっと言いたくなるが相手は王子だ。


「あの? 置きましたけど?」


「王子、次のエルフも待ってます」


「はっ! そうだった!! まだ美人エルフ姉妹がいた!」


 顔を上げて急に張り切り出した。


「君! 早くするよ!」


 何だかとてもこの国の行く末が心配になって来たぞ。


 羊皮紙に円形の模様が浮かび上がる。凄く複雑で綺麗だ。


「んんん? 何か来ちゃったかも? 何でだ?」


 そんな事を言われても全然わからない。


「うう……最悪だ……1番マズイのだ……」


「王子、仕事です。しっかり報告をして下さい」


「ぐっ……君は錬金術師のレベル3だ。特定生産職だ」


「ナック、ここに残りなさい。別室で控えているように」


 錬金術師? 


 しかも居残り?


「緊急事態だ。村長を呼んで来てくれ」


 王子が冷や汗をかきながら小声で呟いた。


 別室で控えていると村長がやってきた。久しぶりに合うけどやはり苦手だ。ヒナとルナの母親だけど滅多に顔を合わせない。

 とても冷静であまり喋らない人だ。聡明で、エルフの中のエルフといった印象だ。

 何も言わずにスッと隣に腰を下ろした。そして沈黙が続いた。


「お待たせしました。全員終わりました」


 ん? なぜか敬語で王子が部屋に入って来た。


 さすがの王子も何歳だかわからない程のエルフ族に対しては敬語なのか?


 ローブの老人と美人騎士も一緒に入って来て着席した王子の後ろに控えた。


「えーー ナックさんは錬金術師と鑑定されまして……」


 村長の方を見ると全く変わらず動かない。


「ええい面倒だ! 大変申し訳ございませんでした!!!」


 思いっきり王子が村長に向かって頭を下げた。


「済んだ事です。これからの事を」


 ようやく村長が喋った。


「はい……ナック、君は2つの道しか選べない。これは国の法で拒否できない。ひとつは錬金術師ギルドに入って王都で研究者になる道。もうひとつは……


 ここの領主になる道だ……」

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