第4話 大事な商談
祭りの準備のためにザッジ達は帰って行った。
やる事の無いビッケと2人で荒らされた薬草畑の片付けをした。かなりやられていたけど全滅は避けられて良かった。
羊の解体作業は今日やっておかないとならない部分は終わっている。残りの作業はまた明日以降にみんなでやる事にした。
肉は塩漬けや燻製の処理をすれば多少は保存ができるし、毛も皮の処理も1人では大変だ。
ジョブ鑑定の後にまた祭りがあり、それが終わればもうやる事はない。多少の後片付けはあるかもしれないがいつもの生活に戻る。明日の夜は祭りの2次会をここでやる予定だ。
「じゃナック兄、また明日の夜に来るね。残念会はやだよ」
「残念会って何のことだい?」
「ナック兄がジョブ鑑定で無職になるかもって村の噂だよ」
「そんな噂があるのか……なったら残念会だよな」
「あんな凄い薬が作れるのにそれはないと思うけどさ」
夕刻になりビッケは帰って行った。そろそろ中央広場に行かないと歓迎の祭りが始まってしまう。
領主御一行が到着したらすぐに商人達が物を売り始める。そして明日の夜には商品を片付けてしまう。
1日しか買い物する時間がないから、のんびりはできない。3日後の朝には領主御一行は次の村へ出発する予定らしい。
とりあえず欲しい物は本だけだったが、ザッジが持っているような剣も欲しい気がした。
あんな戦いがまたあるとは思わないけど護身用のナイフだけで戦うのは辛かった。
護身用のナイフは村人全員に配られていて、いつでも身につけるように言われていた。ナイフ以外の武器は今日のように商人が来た時に手に入れないといけなかった。
ちょっと使ってしまったがあの薬は良い品質の物だ。本と剣が両方交換できれば最高だな。
中央広場は既に沢山の人が来ていた。出迎えには間に合ったようだ。
しばらく待つと広場に馬に乗った兵士達がゆっくり入ってきた。村人達はみんな頭を下げているが目は隊列を眺めている。
こちらに近づいてきたらさすがにビックリした。
兵士達の装備が凄いのもあるが、馬に乗っている騎士が女性ばかりなのだ。しかも美人!
村人達は頭を下げてるのも忘れて呆然と見とれていた。
男性は2名しかいない。豪華で赤い服を着た中年男性が王子で間違いない。王子って聞いて若いと思っていたが40歳位だろうか。もう1人の男性は灰色のローブを着ている老人だった。魔法使いかな。
そんな事より女性騎士達だ!
「凄いな! 来て良かったよ!」
なぜか急に拍手が巻き起こった。たぶん王子では無く女性騎士に対してだ。拍手を必死にしているのは男ばかりだ。
一方で女達はガッカリして冷めた目をしていた。男性達の馬鹿みたいな盛り上がりのせいもあるだろうが、王子が思ったより若くなかったからだろう。
女性騎士ばかり目立つが王子は結構美形だったけどな。
隊列の後ろの方に1人だけ、普通の服を着て眼鏡をかけた女の子がいた。その子が乗った馬をヒナとルナが手で引いて隊列から離して、村長の家の方へ歩いて行った。
御一行は歓迎の祭りまで休息を取るそうだ。
領主御一行の後から商人達が入ってきた。商人達はそのまま中央広場で商売をするために準備を開始した。商人が座る前の敷き物には商品を並べられ、それを村人達が覗き込んで会話をして商談会が始まった。
「本を売っている商人はいなかったかな?」
村人達に聞いたが売っているのを見た者はいなかった。無いなら無いで別にいいので剣を探していろいろ見ていく。
「本など売れないから誰も売ってないんじゃないか?」
商人にも聞いてみたが本は厳しそうだった。しばらく探しているとルナが買い物していたので声をかけたら、本を売っている商人がいたらしく誰か教えてくれた。
「本を売っていると聞いたんですが?」
「ああ、あるよ。こんな本を欲しがるとは思えないがね」
「どんな本なんですか?」
「ジョブの解説本だよ。これだ」
商人は荷物用の箱から本を取り出して見せてくれた。
「ダンジョンマスターになろう! なんですかこれ?」
「ジョブの解説本って言っただろう? 神話の本は結構売れるので何冊か持って出たんだが、間違えて持って来たらしい」
神話の本は売り切れらしい。ガッカリだな。立ち去ろうとすると商人が交渉をしたいと申し出てきた。こんな辺境まで来たんだから持ってきた物を少しでも処分したいみたいだ。
軟膏を木の葉で包んで入れてある木箱を商人に渡す。
「ほう? これを君が……いい品だね」
商人はじっくりと薬を見て言った。
「私の売り物で本以外に欲しい物はあるかい?」
あまり交渉は得意では無いので、素直に神話の本以外なら剣と交換するつもりでいると告げる。ここの売り場には無い物だったが、他の物は要らないのでしょうがない。
「剣か……この本と私の剣。2つと交換でどうだい?」
そう言って荷物から剣を取り出した。剣を見せて貰うと中々の剣のようだ。
「構わないけど、それだとあなたの剣が無くなってしまう」
「ははは! 問題ありません。私は商人なのですから」
「武器が無くてもいいって事ですか?」
「違いますよ。武器はそこらの商人から買います。商人の勘ですよ。この薬はとても良いから手に入れろってね」
「いいですよ。交換しましょう」
交渉が成立して物々交換をした。商人の剣はとても良い物に見える。あの商人には悪いけどかなり得した気分だった。
他も見てまわり、普通の薬と交換で釣り針と糸をもらう。
やがて歓迎の祭りが始まったがルナ達は役目があるので一緒に祭りを楽しむことができない。
ちょっとだけあちこち見てまわり、食事を取ってから家に帰った。
いい剣が手に入って嬉しかったので、ブンブンと剣を振り回しながら家へと続く小道を登っていった。
家に着いてもずっと剣を眺めていた。本棚に例の魔石と一緒に並べて飾って置いた。剣のおまけで手の入れた本も飾って置く。一応、本棚に本が増えたから興味が無い本でもちょっとだけ嬉しかった。
翌朝、ジョブ鑑定を受けるため中央広場にまた行く。既に若者達が集まっていた。
ザッジ、ヒナ、ルナも緊張した面持ちで始まるのを待っていた。今日、鑑定を受けるのは7名。鑑定が終わったら、また祭りが始まるので村人達も大勢集まっている。
領主の館の扉が開かれ、中から美人騎士が出てきた。
「今からジョブ鑑定を執り行います。まず注意点を説明します。国策として今回の鑑定で戦闘職と鑑定されても徴兵は行いません」
それは事前に村人達に周知されていた。
以前、戦争が起きた時に村人全員が再鑑定されて戦士や狩人等の戦闘職と鑑定された人達が徴兵されてしまったらしい。そして生きて帰ったのはわずかで老人と子供ばかりの村になってしまった。
「ただし、本人が希望した場合とレアジョブと鑑定された場合を除きます。未知のレアジョブと鑑定された場合は我々と一緒に王都に来てもらいます」
それも知っていた。ザッジは戦士になってもここに残って村を守ると言っていた。ヒナとルナもだ。
「また、特定の生産職ジョブに鑑定された場合は別途説明があります。例として王都で学ぶ事ができます。これも任意です」
これは自分にも関係がある。薬師ならどうなるか知らないのだ。でも王都で学ぶ必要もないのであまり気にしてない。
「では、ジョブ鑑定を始めます。事前に提出を受けた名簿順に鑑定を行いますので順に館の中に入ってください。なお、今回の鑑定は領主様が自ら行いますので失礼のない様に!」
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