53 準決勝
あれだけ賑わいお祭り騒ぎであった台覧戦も、ほぼ大詰め。
残っているのは四チーム。
学園最高の魔導師が率いる優勝候補、カノン・リーゼンフェルトチーム。
まさかここまで残るとは誰もが思わなかった、ソルと揶揄される第二校舎チーム。
蒼の末裔を自称する落ち目の一族、ダーヴィット・ラクストレームチーム。
蒼き叡智を手にしながらも他人任せで勝ち抜いた大将率いる、煌宮蒼一チーム。
準決勝、一体どのチームが決勝へと上がるのか。
それは賭けにならないほどに決まりきった確定事項。どのチームが勝ち上がるのか、なんて話題にする者は誰もいない。
果たして煌宮蒼一チームが、今度こそ試合時間が五分を切るか。
対戦相手そっちのけで争うカノンとサクラの軍配が、今度はどちらに上がるのか。
ダーヴィットと第二校舎チームを話題にする者は誰もいない。
そういう意味では、誇りある決闘の伝統からくるこの台覧戦。ここまで勝ち抜いておいてそんな扱いを受けるのは屈辱の極みだろう。
先に始まるは、煌宮蒼一チームとダーヴィットチームの試合。
サロゲイトドールにその魂を同調させ、試合はかくして始まった。
ステージは大森林。
探知魔法は高い集中力が必要となる。敵と相対し併用しながら戦うのは高度な技術だ。
無造作に並び立つ大木は、目隠しとなり障害物であり身を守る盾ともなる。
遠距離からの攻撃や支援は難しい。
近中距離戦が主体となるこのステージは、いかに大木を味方につけるかが鍵となっている。
というのも全てはただの定石であり、煌宮蒼一チームがやることはこれまでと変わらない。
水源の確保を終えたユーリアが、瞬く間に森の中へと消えていく。
液体操作により太く長く伸ばされたそれは、うねりながら森の中を駆け抜ける。
その姿は蛟か、はたまた水龍か。
どちらにせよ、水神と崇め奉るのに充分なおどろおどろしさがある。
ユーリアは伸ばされたその先頭、さながら水神の口に当たる場所にその身を沈めていた。水中だというのに苦しそうな姿はない。むしろ気持ちよく泳いでいるようにも見える。
乱雑に並び立つ大木とぶつかることはない。海を泳ぐ海蛇のように不自由なく、辿り着くべき場所に突き進む。
ユーリア自身が敵がどこにいるかをわかっているわけではない。
示されるがままに、
言われるがままに、
自分と相手の位置がわかっている司令塔に導かれるがまま、大雑把に進んでいるのだ。
念話魔法は電話のように、常時互いが繋がっているわけではない。一方的に声を届けるものだ。そうなると当然、使い手によって届く距離が変わってくる。
ユーリアはとっくに佐藤へ語りかけられるその距離から外れていた。
一方的に、敵がいる距離と方角の指示が飛んでくるだけ。それを何度も繰り返し、この準決勝まで辿り着いた。
今更疑う必要などどこにもない。信じるがままに、ユーリアは突き進んでいた。
そして、その信頼は今回も裏切られることはなかった。
ついにそこへ辿り着くが、その光景は前試合までとは違った。
台覧戦は三人一組。
彼らが散る前に、常にユーリアは辿り着き仕掛けていた。
なのに今回はたった一人だけ。
顔を俯向け立ち尽くしている腹違いの兄。
ダーヴィット・ラクストレームの姿だけがそこにはあった。
なぜ一人なのか、などとはユーリアは考えない。
ダーヴィットは大将なのだ。自分が与えられたのはその始末だけ。他の二人がいなくても、大将させ潰せば試合は終わる。
蛇のように伸ばされていたそれは、水球へとその形を変えた。
全ての対戦相手を投獄してきたその水牢。ユーリアをその背に起きながら、生き物のようにゆらゆらと揺れている。
次の瞬間、ダーヴィットへ向かってその触手を伸ばした。まるでカエルの舌のように、獲物を捕らえんとばかりに。
澄んだ純水でありながら、粘性が変質しているそれは樹液のよう粘ついている。それに触れたら最後、樹液に溺れる蟻のように絡みつく。
なんの面白みもない、今までと変わらぬ決着。
試合を覗く者は皆、決着がつくその時間に注目した。
ついに五分を切るのかと。皆が沸き立った。
そう、誰もが思ったその瞬間。
「ふっ」
ダーヴィットが鳴らす鼻の音。それをかき消すほどの轟音が、周囲一体に鳴り響いた。
全てを焼き尽くさんというほどの炎壁が、ダーヴィットの前に現れたのだ。
水牢より伸ばされた触手などひとたまりもなく、一瞬のもと蒸発する。
驚いた様子を見せることなく、ユーリアはすました顔で次の一手を打った。
水牢の両端から伸びた、先程より薄く細いその触手。挟み込むようにそれはしなり、ダーヴィットを打たんとした。
先程の触手がカエルの舌だというのなら、次はカマキリの手といったところか。
ただそれもダーヴィットを挟むかのように現れた、炎壁に阻まれ蒸発した。
一体なにが起こったのかと、試合を覗く者たちは息を飲む。
最初の一手は予め用意し、行使を待機させていた炎壁。そう思っていたが、それと変わらぬ火力を誇るそれは、また瞬時に行使した。
ここまで勝ち上がってきたダーヴィットとはいえ、これほどの芸当はできないと認識されていた。
そう思っていたはずなのに、真の実力を隠していたのか。
ずっと顔を俯かせていたダーヴィット。
「残念だったな、ユーリア」
ようやく覗かせたその顔は、苦しそうでありながら、それでもしたり顔で嗤っていた。
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