第8話 ごく潰しの寄生虫のクローン

 第8話 ごく潰しの寄生虫のクローン

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 ークローンー


 どうも、クローンです。


『行ってこい』


『こくこく』


 ボスに言われるがまま、僕は初めてスライム? の体内から外に出ました。


 右も左もわからない状態ですが、ボスは為せば成るとかなり大雑把なことを言ってきます。

 何の経験もない我が子をいきなり家から放り出す、どんな悪魔の所業でしょうか。


 もしかしたら、ボスは本当に悪魔なのかもしれません。


 種を繁栄させるとか、世界を征服するとか、そんなことばかりぶつぶつつぶやいています。

 意味はよく分かりませんが、よくないことは確かだと思います。


 僕はただ楽しく生きられればいいのですが、そうはいかないみたいです。


 僕以外のクローンはボスに影響されてるのか、ボスの言うことに完全同意みたいです。

 もしかしたら、僕がおかしいだけなのかもしれませんが。


 ボスの考えはこの生物の体内にいる間に構成されたといっていましたが、もしそれが本当ならこの生物は悪魔以上の何かということになります。


 悪魔以上、ボス以上となると……


 想像もつきません。

 ボス以上となると、もしかして同種同士で大規模な虐殺とか?


 同種族を殺し続ける……

 確かにボス以上の悪魔なような気もします。

 ボスは、クローンたちには優しいし。


 でも、そんなもの起こるはずがありません。

 起こす理由がない。


 やっぱり、ボスのあれは、ボス独自のものなんじゃないかなって思います。


 体内に入った僕ですが、ボスの指示によるとはじめは本能のおもむくままに行動しろとのことです。


 本能のおもむくままとは?

 そう疑問に思っていましたが、体内に入ると体が勝手に動き出しました。


 なるほど、これが本能。


 生暖かい血? という液体に乗って、たまに方向を変えて、ずっと真っ暗な中を流れていきます。

 ボスによると、この後硬い何かにぶつかるらしいです。


 そして本能が、その硬い何かにしがみつけと命令するのを無視して、光のある方に進んでそこですべてを学べとのお達しです。


 ……本能に頼った挙句無視しろとは、本能くんも災難です。


 本能に、僕たちみたいな意志があるのかは謎ですが。


 ボスはいろいろと詳しくて、まるでこの世のすべてを知っているんじゃないかって感じなんですが、あんまり教えてくれません。

 いつも一人考え込んでいたり、独り言を言っていたり。


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 ークローンー


 あ、硬いものに当たりました。

 よしあとは……


 ごそごそ


 え?


 何も見えないけど、確実に何か動くものに触れました。

 生き物の中、動くものに触れることなんて当然です。


 でも、何か嫌な予感がします。

 ひどい嫌悪感を感じます。


 硬いそれをつたい、ゆっくりゆっくりと横に移動していきます。


 コツ、ごそごそ


 伝っていたそれとは明らかに違う硬さ、そして触れたそれはごそごそとうごめきました。

 別に僕の目的地はここではありません。

 無視して、前に進んでしまってもいいのですが……


 いずれ僕はここに戻ってきて、この体を乗っ取るのです。

 こいつが何か走りませんが、ここは僕たちが体の乗っ取りに使う場所。

 何かがついてて、いい影響があるはずがありません。


 こいつはごそごそと動くだけで、特に反撃してきたりはしません。


 それに……何となく感触が、自分の体に似ている気がします。

 邪魔、ですね。


 僕は生物の体内に侵入するとき皮膚を食い破ったのと同じように、その何かを食い破った。

 一瞬ビクンと震えたそれは、驚くほどあっさりと息絶えました。


 これはなんだったのでしょうか?


 形は似ていますが、まず同種ではない。

 それに操る能力があるからこそわかりますが、これはこの生物を操っているわけではなかったですね。


 そんなことを考えながら、ふと今の行動を振り返る。


 ああ、僕も立派な悪魔ですね。


 僕は、ボスに言われた通り、細い道をゆっくりと進んでいきます。

 今の僕ならギリギリ通れるぐらい。

 成長すれば、きっとここを通るときにあたりを傷つけることになるのでしょう。


 それでどんなダメージを負うのかは、ボスも試したことがないので知らないといっていましたが。


 でも、生物を操ることができる情報の中心部の結晶と、眼球という視界をつかさどる間の場所。

 少なくとも、片目は使い物にならなくなりそうな気がしますね。


 そんなこんなで、光が見えてきました。

 ここが、眼球という場所なのでしょう。


 確かに、スライムの中に似ています。

 結構居心地がいい。


 外の様子も見れて、音も聞こえます。

 いまだなにも理解できませんが。


 さて、言いつけ通り勉強しますか。


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 ー幼馴染ー


 遊び疲れてしまったのでしょうか?

 まだお昼だというのに、ぐっすりです。


 目のごみは結局見つかりませんでしたけど、いったい何だったのでしょうか?


 疲れると視界がぼやけるといいますし、ただ単にそれならいいのですが……

 視力のなくなる前兆だったりしたら、どうしましょう。


 この子には、あの人に似て弓の才能があるというのに。


「え?」


 見間違いでしょうか?

 一瞬、視界に影が見えたような……


「ボーっとしてどうした? まだ、トーニのこと引きずってるのか?」


「あ、あなた」


 後ろから、ベスタさんに抱きしめられます。


 吹っ切れたつもりでしたが、どこかでストレスがかかっていたのでしょうか?


「この子が起きてしまいます」


「起きた頃には、お兄ちゃんだな」


「あっ……」


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 ークローンー


 そうか、見えるんですか。

 位置、気を付けないとですね。


 ……それにしても、これは何なのでしょう?


 激しく動いて、声を荒げて……体温も大きく上昇してますね。


 これが、この世界の支配者の姿。

 これが、僕たちの敵。


 何事も、勉強あるのみですね。


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