第7話 ごく潰しの寄生虫のはじめの一歩

 第7話 ごく潰しの寄生虫のはじめの一歩

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「あ、スライムだ!」


 村の近くまで這って近づいていくと、子供が俺の操るスライムを見つけたらしく駆け寄ってくる。

 何となく、見覚えのある顔立ちだ。

 まぁ、同じ村で暮らしていれば、見覚えぐらいあって当たり前だ。


 なぜ同じ村で暮らしていたのにその程度の認識なのかと聞かれれば、それほどひきこもっていたからとしか言いようがない。


 ……俺は、果たしてほんとに人間として生活できていたのか?


 今更ながら、少し疑問に思う。

 俺の主観としては、完全に洗脳され人として暮らしてたわけだが、同じ村の人の顔すらわからないひきこもりが、人として暮らしているといえるのか……


 俺の常識がノーと言っている。

 が、この常識は俺が人間時代のものであって、俺はこれを持ったうえで生きていて……


 ま、どうでもいい。


 ただ、クローンだけじゃなくて、俺も少し人について学びなおした方がいいかもしれないな。

 俺の人生経験は、人の経験値として微妙らしい。


「つーかまーえた!」


 思考の海につかりスライムの操作を放棄して硬直していると、子供にがっしりとつかまれ持ち上げられた。


 そうだよな。

 スライムなら、特に何の警戒をするでもなく触るよな。


 俺たちは、スライムの外に出ることができない。

 正確には、生物の体外に出ることができない。


 理由は不明だ。

 ただ、耐えがたい激痛に襲われる。


 痛みは警告だ。

 無理して長時間外にいればどうなるか、簡単に想像がつく。


 だから、触れた瞬間がチャンスだ。


 1人の体に全員で入ってもいいが、それだと万が一という可能性がある。

 絶滅という終わりを、迎えるわけにはいかない。

 それに、俺は最後まで残って、ほかのクローンに指示だしするという役割がある。


 と、いうわけで。


『お前、行ってこい』


『こくこく』


 クローンのうちの一匹をこの子供の体に送り込む。


 どこから入るのかって?


 普通に、手から入る。

 外には出れないが、接触さえしていればよほど固くない限り簡単に潜入できる。


 言っておくが、別にこの子供を操ったりはしない。

 本能に逆らう行動をとる意味を教え込むのに、案外苦労した。


 まぁ、言ってしまえば俺も、意識がはっきりするより前に本能で体の乗っ取りを行っていたので、ほかのやつのことをとやかく言えないんだが。

 あれは、赤ん坊だったからうまくいっただけだ。


 突然ある程度成長した人間が、すべての記憶を失ってしゃべることも出来なくなったらどうなると思う?


 そういうことだ。

 何も乗っ取る必要はない。

 人の中から、人についてよく学べばそれでいいのだ。


『どこに行けばいいかはわかってるな?』


『こくこく』


 そこに最適なのは、操るために最適な場所とは全く異なる。

 よく聞き、よく見て学べる、そういう場所が理想だ。


 あそこは、乗っ取らない限り視界も聴覚もない。


 向かうべき場所。

 そこは、眼球だ。


 外との距離が近く声が聞こえる。

 そして言うまでもなく、外の景色が見える。

 学ぶのにこれほど適した場所も珍しい。


 それに、内部がスライムの感覚に近くて、生まれ直したばかりの幼体でも居心地いいこと間違いなしだ。


『よし。学んで来い』


『こくこく』


 十分に学んだその時は……何の違和感もなくその人を乗っ取れる。


 文字通り肌身はなれずずっと一緒にいた、その人物自身の次にその人物について詳しい存在になるのだ。


 体を乗っ取るだけじゃない、社会的地位も、人間関係もすべて……


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 無事、クローンを送り込んだわけだが、操ったりするわけじゃない以上そのまま子供に運ばれていく。

 スライムを抱えたまま、とてとてと村の方に走っていく。


 昨日追放された村に、こんな形で帰ってくることになるとは。


 見覚えを感じはするが、特に懐かしさは感じない。

 これは俺が人じゃないからとかじゃなく、単純に最近ほとんどこの景色を見ていないからだろう。


 村人たちは子供がスライムを運んでいるのを見はするが、特に何も言うことはない。

 そのまま、とある家に……


「ねぇ、ママ見て見て。じゃぁーん、スライム!」


 え?


 ……そこには、幼馴染の姿があった。


 ママ?


 そうか、そうだよな。

 俺が二十歳ってことは、幼馴染も二十歳。

 子供の一人や二人、いて当然だよな。


 俺にもついさっき、クローンという名の子供が出来たわけだし。


 きっと、あいつと幼馴染の子なんだろうな。

 確かに、どこか面影がある。

 はじめこの子に見覚えを感じたのはそういう……


 というか、子供の存在知らないとか……俺はほんとにこの村で暮らしてたのか疑問に思うレベルだわ。

 これは追放されても仕方ないね。


「あんまり触っていると、手が痛くなっちゃいますよ」


 幼馴染がスライムに手を触れた瞬間、


『行ってこい』


『こくこく』


 クローンを一体送り込んだ。


 人間だったころの知識は有用だ、有効活用させてもらう。

 人間関係だってうまく使うかもしれない。


 でも、それはすべて目的の達成のための手段だ。

 その過程で感情という異物が邪魔をするなら、種としての命題により動く俺は当然無視できる。


 ……そう、無視できる。


 ……


「ママ、目にゴミが入って取れないの」


「どれどれ、見せてください」


 そう、種の繁栄のため。

 世界征服のために……


 それが俺という存在の意義であり、生きる意味であり、生まれた理由であるのだから。

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