第5話 ごく潰しの寄生虫の野望

 第5話 ごく潰しの寄生虫の野望

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 俺は幼体に戻り、スライムゼリーに包まれ孵化した。


 周りには、俺自身が10匹……


 正確には、俺自身ではなかった。

 俺が若返る過程で俺と全く同じ固体が生成されたわけだが、知識までコピーされているわけではないらしい。


 本能で刻み込まれた、本来の結果と違う。

 外見上俺と全く区別はつかないし、感じる魔力も全く同じだが、明らかに俺とは違うと理解できる。

 それにこいつらも、俺のことを親として認識している。


 今思い返してみれば、本能というのも怪しいものだ。

 俺はこの世界に俺しか、今は10匹増えて11匹だが。

 それなのにどんな生物でも操れるとは、いったいどういう了見か?


 俺が操ったことがあるのは、『人間』『スライム』『ウルフ』以上。

 それ以外は経験ないし、本能の言う俺しかいないが正しいなら、俺の経験のないものは操れるかどうかわからないはず。

 もし俺以外にいるならそもそも破綻するわけで、結果本能は参考にはなるが信用は出来ない。


 所詮、直感でしかないということだろう。


 本能のまま生きることがどれだけ危険か。

 偽物の経験は存外役に立つ。


 いや、ちょっと老化で思考が凝り固まった老がいになっていたのかもしれない。


 偽物なんかじゃない。

 あれは、確かに俺が経験してきたホンモノだ。


 まぁだからと言って、特に思い入れがあるかと言われれば……

 なのだが、経験は柔軟に取り入れようという話だ。


『さて、俺のクローンたちよ俺たちの目的はわかるな?』


 声は出せない。

 そもそも声帯機能自体ないし、魔力でゼリー振動させてもいいが、クローンたちは言葉を理解できないので意味はない。

 だから、意志だけ伝える。


 それで伝わるのかって?


 当然、


『こくこく』


 自分自身だ。

 伝わるに決まっている。


 というか、これが本来の俺たちの意思疎通方法なのだろう。

 言葉なんてのは俺が後天的に勝手に覚えた、人間たちの意思疎通方法だ。


 便利というか、目的達成のために必要なのであとでクローンたちにも覚えてもらうが。


『よろしい』


 俺たちの目的は、生物として極めて自然なものだ。

 子孫の繁栄、種の存続。


 だが、人の経験が少しだけ余計なものを混ぜてしまったかもしれない。

 世界を解明する。

 世界の支配者としてふるまう。


 何と魅力的で、種として上位的ふるまいか。


 俺は知ってしまった。

 理解してしまった。

 これは後天的に得た植え付けられた価値観であると同時に、俺の本心でもあるのだ。


 俺という種族そのものが、他種族に見下されるなんて不快でたまらない。


 以上を合わせて、俺たちの最終目標それは……


『世界征服』


 世界を、俺たちのものにすること。


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 スライムを操り、村に近づく。


 スライムは基本的に有用な魔物であり、よっぽどのことがない限り無害だ。

 子供であっても簡単に逃げ出せる。


 身動きの取れない落とし穴の底に詰まってでもない限り、まず人間に害を与えることはない。


 だから、安全に近づける。


 何をするにしても、準備というものは必要不可欠だ。

 俺とクローンたちでは、根本的なレベルが、経験が違い過ぎる。


 このまま数を増やしていけば、種としての繁栄は可能ではあるだろうが。

 それじゃ、だめだ。

 満足できない。


 だからこその準備だ。


 クローンたちには、人の体に入ってもらう。

 そう、入ってもらうだけだ。

 決して操ったりはしない。


 ただそこで、今世界の支配者としてふるまっている人を、目下最大の障害であり敵を知ってもらわなければならない。

 この世界が、いかに人という種族の元で動いているのかを、人の文化を、俺たちが目指す最終目標を。


 理解したその時は……


 何、人は一枚岩じゃない。

 今だって人間と魔族は戦争中だし、細かく見れば人間同士魔族同士でも争いが起こっている。


 わかりさえすれば、この力の使い方を間違えなければ、簡単だ。


 そして、これこそが俺という種族の生まれた意味であろう。

 そう確信できる。


 なぁ、そうだろ?


 人から信仰を集めるのに、障害は必要だもんな神様。

 もっとも、障害を人類が乗り越えられるかは甚だ疑問ではあるが。


「あ、スライムだ!」


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 ー進化ー


 進化とは成長や進歩といったものを意味すわけではなく、ただ単に変化を意味する。


 生物は同種であっても同一固体でない限り、個体間に様々な違いがある。

 生物の繁殖力は、世界の器より巨大であり生まれたものがすべて収まるほどの容量はない。

 で、ある以上どれかが死ぬのは必然である。


 自然選択、適者生存により、環境に適応した変化を起こしたものが今の今まで生き残っている。

 それの積み重ねにより、目に見える大きな変化、種族の変わる進化へとつながる。


 変化は機械的にランダムであり、それ自体に進化の方向性を決める力は存在しない。

 偶然の連続、その積み重ねである。

 で、ある以上過程をすべて無視した進化は起きえない。


『特殊な生物が、一代でその形になるはずがない』


 ー有神論的進化論ー

 神が生物の進化に……


 ー跳躍論ー

 跳躍的な進化を排除して考えるべきでは……


 ー突然変異説ー

 ……


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