第3話 ごく潰しの寄生虫の能力発動条件
第3話 ごく潰しの寄生虫の能力発動条件
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何発も矢を打ち込まれ、ついに倒れ伏した。
そして、耐えがたい苦痛が消え去り、視界が真っ暗になった。
「死んだ、死んだ」
少し遠くから、あいつの声が聞こえる。
……あれ?
いつものが来ない。
体が勝手に動き出す、本能のままに……
??
動けよ、動いてくれよ。
「いっちょ上がり」
足音が聞こえる。
あいつらが、ゆっくりと去っていく。
クソ、俺を殺したやつの体を乗っ取る力があるんじゃないのかよ?
なんで、なんで……
動いてくれよ。
もちろんただ動かすだけなら、やろうと思えば動かせる。
でも、これじゃない。
これは自分の体を自分で動かしてるだけで……
ん?
ちょっと待て、自分の体ってなんだ?
手探りで辺りをまさぐる。
俺は、硬い何かにしがみついている状態だ。
そして、周りは生暖かくぶよぶよして湿ったものに覆われている。
ウルフになる直前のことを思い出す。
ウルフをフェンリルに見まごうほどに、あの時の俺の体は小さなものだった。
あの時は深く考える暇もなく、ウルフになっていたわけだが……
あの時と今の状況は、何となく近い気がする。
スライムに、コアを破壊されても生き続ける不死性があるとは思えないし、あの時の俺はスライムでもウルフでもない状態だった。
ウルフも、これだけ矢をくらえばさすがに死ぬだろう。
今の俺も、ウルフではない何かだ。
そんな状態で、はっきりと意識がある。
俺は、なんだ?
思考をめぐらす。
しかし、答えなど全く持って得られない。
硬い何かから離れる。
ゆっくりと、生暖かい何かによって流されていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
流されて、流されて……
色々考えたが、ここはあの世とこの世の境目なんじゃないかって思うんだ。
そして、この俺を流して運んでるのが三途の川。
なんでかって言われても、何となくとしか言いようがない。
ただ、そういう不思議な場所なんじゃないかなって。
俺はたまたまそんな場所でも意識を保っていて、生きたいって本能のおもむくままもがいた結果、近くにいる生物の体を乗っ取ったんじゃないかなって。
簡単にのっとれたのは、普通の生き物にそういうことに対する体制がないからで、あの固いのが魂みたいなものなんだと思う。
あいつを乗っ取れなかったのは、物理的に距離が遠いから。
うーん、自分で考えておいてあれだが、やっぱり違う気がする。
だんだんと流れが緩やかになり、流れる道も狭くなっていく。
そしてついに引っかかった。
これ以上先は、俺の体が突っかかって進めない。
先の方に、うっすらと光が見える。
光!?
道をはそれほど硬いものじゃない。
破壊しながら、前に進む。
そして、光のありかまでやってきた。
少し開けた? 場所に出た。
かなりの広さがゼリー状の何かに覆われている。
何となく懐かしい、スライムに近い感じがする。
そして奥に光が、外の景色が見える。
外とここは、ゼリーとは違う硬い透明な何かで分けられてる。
透明な何かに穴をあけ外に出る。
痛!! 痛!!
これまで感じたことのない激痛が体を襲う。
急いで中に……
振り返った俺の目の前には、巨大な眼球が……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー村ー
「どうじゃった?」
「村長、ウルフは追っ払ったぞ」
「そうか。ところでトーニのやつは?」
「知らん。少なくとも、死体は落ちていなかった」
「……そうか」
「なぁ、村長よぉ。追放しておいて心配してますって、そりゃねぇんじゃねぇか?」
「そう、じゃな」
「村から能力のない人間を追い出す、これは言い訳のしようのない殺人行為だ。村のために死んでくれって、あいつは俺たちが殺したんだよ」
「わかってはいるのじゃがな。歳は取りたくない、昔の姿を思い出すとどうしても感情的に」
「あのままだったら、あいつじゃなく別のやつが。いや、誰も死なずに済んだかもしれないな」
「……」
「だが、今回あいつが追放されたのは全部あいつの責任だ。働きもせず、村に寄生しやがって」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー魔力の抑制症状についての調査書類ー
〇症状
魔法系のスキルを有しながら、魔法の使用ができない。
または、魔力に対して一段階低下した程度のレベルの魔法しか使えない。
〇感染
感染の経路は不明。
生まれつきのものもいれば、ある日突然発症する者もいる。
サンプル数が少なく真偽不明だが、上位冒険者に症状は確認できていない。
この症状を発症しなかったため上位に為れたという見方もできるため、関連性は不明。
〇原因
便宜上病となっているが、精神的なものではないかという見方が強い。
魔力が精神と密接にかかわっているからというのも一因だが、それ以外だとした場合原因が完全に不明なためというのが主な理由。
ただ、精神に問題のないものがこの症状を発症する例を多数確認できているため、私としては精神説に対しては懐疑的に見ている。
〇進展
私の教鞭をとる学園に、この症状とは全く逆の生徒が入学。
魔力系のスキルを一切持たず、微弱ながら魔法が使える生徒だった。
しかし原因究明にはつながらず、また魔法スキルがないせいで周囲においていかれ成績不振。
自主退学して学園を去ってしまった。
引き留めたかったが、私が知ったのはすべて終わった後だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます