第2話 ごく潰しの寄生虫の絶体絶命
第2話 ごく潰しの寄生虫の絶体絶命
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一瞬の沈黙……
ゆっくりと体を動かす。
ウルフは、じっと俺のことを見つめている。
おそらく、血の匂いに引き寄せられてきたのだろう。
本来ウルフはスライムを食べたりしないが、今の俺は人間を消化したばかり。
ウルフからしたら、おいしそうなにおいのする不思議なスライムということだ。
いつ食べられても不思議ではない。
せっかく、新たな人生をやり直す機会を得たのだ。
それが、一瞬で終わるなんて言うのはさすがにごめんこおむる。
ウルフが目をそらした!!
瞬間、一刻も早く逃げようと体を波打つように大きく動かす。
が、その行動が余計にウルフを刺激したのだろう。
ウルフが地面を蹴る。
スライムがウルフから逃げきれるはずもなく、鋭い牙に俺の体がかみちぎられる。
逆に飲み込んでしまおうと、俺の人間の体と同じように溶かしてしまおうと、ウルフを体内に取り込む。
が、力が村人とは比べ物にならない。
ウルフに体を突き抜けられ、プルプルとしゼリー状の体が当たりにはじけ飛ぶ。
ウルフが低い警戒音を発する。
いい匂いのする変なスライムから、敵に認識が変わったらしい。
なすすべがなかった。
体は見る見るうちに、ボロボロになっていく。
ウルフはスライムコアをくわえ、かみ砕く。
スライムは、魔力で液体の体に膜を張り生きている魔物だ。
その動力となるコアが砕ければどうなるか、スライムの体は形を保てなくなってベターっと地面に広がっている。
ウルフは満足したのだろうか?
遠吠えを上げ、その声に警戒しているのか村の方が騒がしくなる。
……あれ?
スライムは死んだ。
確かに、ウルフに殺された。
じゃぁ、俺は、俺の意識は……なんでこんなにはっきりしているんだ?
俺はなんなんだ?
スライムに転生したわけじゃ……なかったのか?
俺の方に、ゆっくりとウルフが歩いてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと……
で、デカい!!
ウルフこんなにデカかったっけ?
話でしか聞いたことがないが、この大きさはまるで神獣フェンリルのような……
ち、違う。
俺が、ありえないほど小さくなってるんだ。
もしかしてスライムって、コアが破壊されてもその一粒一粒に意志があったりとかするの?
そんな話、聞いたことないんだが。
ウルフの足が、俺の上に。
今度こそ、ガチで死ぬ!!
え?
痛みどころか、踏みつぶされた感覚もない。
体が、自分の意志とは無関係に動く。
この感覚は覚えがある。
スライムに喰われたとき、あの時と同じだ。
視界がない、真っ暗だ。
あの時と同じ、生暖かい何かに包まれ流されていく。
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しばらく流された。
そして、硬い何かに当たりまた体が勝手に動く。
そして、視界が真っ白になり、ゆっくりと視界が戻る。
自分の口から、低いうなり声が漏れる。
足元を見る。
立派な爪が生え、毛に覆われた、たくましい前足が見える。
何となく予想していたから、驚きはそれほどない。
俺、ウルフになってるな。
辺りを見回すと、少し離れた場所にスライムの無残な残骸がある。
よく見れば、足の毛にもスライムゼリーが付着している。
さっき俺のことを殺した? ウルフで間違いない。
どういうことだ?
なぜ、こんなことが起こってるんだ?
自分のことを殺した相手の体を乗っ取るスキル?
いや、そもそも俺には、特別なスキルなんて何もなかった。
それこそ魔法関連のスキルも。
魔法のスキルがないのに、なぜ魔法が使えるのかって一瞬注目されたけど、結局大した出力も出なければ成長することもなく……
嫌なことを思い出した。
足を上げ、口を開け、
飛び跳ねてみたり、走ってみたり、
うん。
きちんと体を動かせる。
ただ、スライムの時ほどの一体感はないし、懐かしさも感じない。
何が違うのだろうか?
どっちも魔物でしかないのでは?
やっぱり、俺の前世がスライムだったりするのだろうか?
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風を切る音が聞こえた。
まずい!!
そう思った時には、完全に手遅れだ。
殴られたような衝撃と、すさまじい激痛が走る。
「よし、命中だ」
俺の体から、矢が生えている。
撃たれた……のか?
「おお~~!!」
「さっすが、村一番の弓の名手」
「よせやい。照れるだろ」
あいつらは、確か村の……
そうか、そうだよな。
村の近くにウルフがいたら、普通追い払うよな。
ぐっ、ダメだ。
まともに立っていられない。
とにかく逃げないと。
何で死んでも体をのとって生きながらえてるのか、仕組みが何もわかってないんだ。
今度こそ本当に死んでもおかしくない。
あいつに、殺されるのだけは死んでも嫌だ。
幼馴染と約束したんだ。
魔法学院から帰ってきたら付き合おうって。
それなのにあいつは彼女を……
足を引きずり、少しでも村から離れる。
深追いはされない。
ウルフは筋肉質で骨ばかり、食料には不向きだ。
それに、手負いにしたウルフを生き残らせることに意味がある。
人は危険だと、近づくべきじゃないと、理解させるため。
人に負けたウルフは人を襲わず、その子供や周辺のウルフもそれに習うようになる。
だから、
「おいおい、どこに逃げる気だよ」
風を切る音が聞こえ、衝撃と激痛が走る。
撃たれた。
何となく悟った。
これは逃げられないと。
どうやらあいつは、村が生き残るための知恵とか、昔ながらの言い伝えとか、無視するタイプらしい。
もし俺に、自分のことを殺した相手のことを乗っ取る力が本当にあるのならあるのなら、あいつのことを……
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