『寄生虫にもできる世界征服』~ごく潰し呼ばわりされ村を追放→即死亡……あれ!?生きてる!!~

アレン

第一章 俺はごく潰しの寄生虫

第1話 ごく潰しの寄生虫は追放される

 第1話 ごく潰しの寄生虫は追放される

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 キヒ・トーニ、二十歳。


 幼いころ魔術の才能が有り、村に高い金を払ってもらい魔術学院へ入学。

 そして中退し、村に帰ってきた。

 以後、ヒキニートをやっていたわけだが、


「トーニ、お前は今日限りで、この村から追放する」


「……え!?」


 ついさっき、本日付けでホームレスとなることが確定した。


 口答えなんてできなかった。

 村人たちのごみを見るような視線、村の期待を一身に背負い魔術学園へと向かった頃とは大違いだ。

 村の総意なんだと、そう理解した。


 今年は不作だったらしい、俺みたいなごく潰しを養い冬を越す余裕はないということだろう。

 まさに絵にかいたような転落人生、地の底の底まで落ち切った。


 ……そう思っていた。


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 村を追い出され、行く当てもなくとぼとぼと歩いていたせいだろう。

 村の子供たちが作ったであろう落とし穴に気づかず、足を滑らせ落下した。


「最悪だ……」


 まさに、踏んだり蹴ったり。

 なんてみじめで、情けない……


 幼いころ俺は間違いなく天才だった。

 村で一番運動神経がよくって、簡単な魔法が使えて、村の人気者ヒーローだった。

 でも、学園に行っていくら努力しても、魔力量は上がらず……


 本当に、なんでこんなことになってしまったんだろうか?


 ……ヌチャ

 下の方から聞き覚えのある音が。

 足が、何かプルプルとした水っぽいものに包み込まれている。


 どうやらこの穴にはスライムが住み着いていたらしい。


 慌てて足を引き抜こうとするも、力を入れれば入れるほどずぶずぶと沈みこんでいく。

 もがけばもがくほど、まるで流砂かのように体が沈みこんでいく。


 このスライム、かなりデカい!


 スライムの中に沈みこんだ部分に、徐々に鈍いしびれを感じる。

 スライムの感触とは別の、ぬめぬめとした感触が……


 これ、溶かされてる!?

 スライムに……喰われる!!


「誰か!! 助けてくれ!!」


 秋の終わり、寒くなり始め澄んだ空気の中、俺の叫び声がむなしく響く。

 村からそう離れてはいない、きっと聞こえてはいるはずだ。

 でも、誰も来ることはない。


 ……当然か。

 口減らしに追放したでくの坊を、誰が助けに来るんだって話だ。


 ずぶずぶとスライムの中に沈みこんでゆく。


 全身がスライムに包まれ、はじめに飲み込まれた足はもう原型をとどめていない。

 皮膚は溶け、肉がむき出しになり、血がスライムの体を真っ赤に染める。


 これが、俺の最後なのか。

 俺は、スライムなんかに溶かされて殺されるのか。


 どれだけもがこうとスライムの中から出ることはかなわず、もう空気に触れることすらできない。

 視界がない、真っ暗だ。

 さっきまで耐えがたい激痛に襲われていたのに、今では何も感じない。


 体が、生きるのをあきらめたのだろうか?


 生暖かい何かに包まれ、体が流されていく。

 初めての感覚、気持ち悪い感覚のはずなのに、どこか懐かしく安心する。


 どこまでも流されて、そのまま……


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 どれだけ流されただろうか?

 ゆっくりと流されたからだが、硬い何かに当たった。


 体が自分の意志とは無関係に動く。

 こうしなければならない、こうすることが正解だ。

 理性ではなく、本能で理解している。


 そして、ずっと真っ暗だった視界が突然真っ白に、フラッシュの魔法をくらったかのような感覚に襲われる。

 そして、視界がゆっくりと戻ってくる。


 ……ちょっと待て、戻ってくる!?


 そこは先ほど落ちた穴の中だった。

 何も変わらない。

 いや、気持ち視線が低いだろうか?


 慌てて下を見ると、そこにはボロボロに溶かされてる俺の肉片が……


 !?


 思わずのけぞるように動くと、それと連動して俺の肉片を包むスライムボディーも大きく揺れた。


 は!?


 体を動かそうとすると、プルプル、プルプルとスライムボディーが大きく揺れる。


 ど、どういうことだ?

 この肉片は、間違いなく俺のものだ。

 人がこんな無残な姿になって生きているなんて、そんなことはあり得ない。


 でも、俺には意識がある。


 プルプル、プルプル


 ……もしかして、俺スライムになってる??


 プルプル、プルプル


 体が、思い通りに動く。

 え?

 マジで!?


 俺、ほんとにスライムになってるのか……


 なぜ?

 魔物に喰われた人間が、魔物になるなんてそんなの物語の中でしか聞いたことない。

 そんなの現実的に考えて、ありえない。


 ……でも、現にそうなっている。


 ぷくぷくと泡を立てながらゆっくりと溶けていく、俺だったモノを見つめる。

 味はしない、食べているという実感も特にない。


 でも……これ、俺が溶かしてるんだよね?

 俺が、食べてるんだよね?


 なんで、何も感じないんだろう。

 気持ち悪くもならなければ、特に感慨も沸いてこない。

 ただの餌にしか見えない。


 それどころか、スライムになっているという事実に、安心感と懐かしさすら感じている自分がいる。

 俺の前世は、スライムだったりするのだろうか?


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 消化が完了し、ゆっくりと穴から這い出る。

 初めてのはずなのに、なぜか思い通りに体を操れる。


 穴から出ると、少し離れた場所に村が見える。

 俺が追放された、俺が生まれた村だ。

 きっと、これまでと変わらない日常が流れていることだろう。


 なってしまったものは仕方がない。

 俺はこれから、スライムとして生きていこう。


 人間の俺は死んだ。

 そのうえで、新しく人生をやり直す機会を得た。

 だから……


 体がビクっと震える。

 嫌な予感を感じ、ゆっくりと振り返ると……


 低いうなり声を口から漏らし、俺のことをじっと見つめるウルフの姿が。


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