第五十二話 仲間と共に
エジプトの首都カイロ。
警察の車で首相官邸にやってきた私は、政府の高官たちに囲まれてご挨拶をした。
「ようこそエジプトへ。ギザの町はいかがでしたかな」
「とても賑やかでした。ただ、魔石と名をつけて石を売る人たちがいまして……」
「それは申し訳ない。詐欺まがいの商売がなくなるよう、徹底しましょう」
首相はしっかりとお約束してくれたので、まあ大丈夫かな。
会談が終わると、私はいつものようにホテルのスイートルームに泊まる事になった。
ふわふわのベッドに飛び込み、テレビをつける。
するとやはりというか、今日の事がニュースになっていた。
「こちらが現地の住人が撮影した映像です。
ご覧ください。魔法の力で、潰れかけていた家が元通りになっていきます」
私が三軒の家を修復した場面が、VTRで流れている。
アナウンサーの興奮した声に、スーツ姿の女性も前のめりに頷いた。
「エジプトでこのような奇跡が見れた事を嬉しく思いますね」
「ええ。リナ・マルデリタさんの来訪は、いつも人類の心を明るくしてくれます。
現地の子どもたちも、彼女への感謝を告げていました」
映像の最後には、アリーシャたちがカメラの前で「リナ、ありがとう!」と叫んでいた。
その無邪気さに、私もニヤニヤしながらテレビを見てしまった。
SNSを見ると、この件について議論がなされていた。
xxxxx@xxxxx
「家の修復もできるのか。凄いなリナは」
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「私の家もだいぶ古いのよねえ。ちょっと来てくれないかしら」
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「リフォーム屋じゃないんだから……」
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「それより、エジプトの子どもがリナ・マルデリタを召喚したと言ってるな」
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「ほんとなの?」
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「ただの偶然だろう。リナはちゃんと訪問国を国連に伝えた上で、大使として来ているんだ。
こっちから呼び出すなんて、国連あたりじゃないと無理だろう」
xxxxx@xxxxx
「そうね。リナに来てほしいと思ってる人は世界中にいるから、たまたまそういう人の所に降りたんでしょう」
xxxxx@xxxxx
「本気で彼女を召喚しようとしてる怪しい組織もいるが、そいつらの所には行ってないからな」
ネットでは、子どもたちの言葉は冗談のように受け取られていた。
怪しい組織というのは、生前にも見たオカルト集団みたいなものだろうか。
ツイットを眺めながら、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
翌日。
午前中は、エジプトの観光ツアーだった。
ギザの西部まで車を飛ばすと、砂漠地帯にピラミッドが見えてくる。
三角形の巨大な遺跡……、と呼んでいいのだろうか。
その近くに鎮座する巨大なニャンコちゃんは、スフィンクスだね。
「ピラミッドはエジプト王家の墓であり、スフィンクスはその偉大さを示すために建造されたものです。ギザには三つのピラミッドがあり、こちらはカフラー王のものです」
案内人は丁寧にお墓の詳細について教えてくれた。
王とは言え人の墓にここまでするなんて、ちょっと想像もつかないね。
紀元前2500年代。
今から4500年以上も前に建てられた古代の象徴を、私はぼんやりと眺めていた。
観光を終えた私は、すぐにチャーター機でエジプトを発つ。
ニューヨークに降りた私は、いつものように国連本部のビルを訪れた。
倉庫で魔石を渡した後は、会議室でいつものメンツと向かい合う。
「マルデリタ嬢。少し聞いてもいいかね」
「はあ、なんでしょう」
正面に腰かけたスカール氏は、少し改まったように問いかけてきた。
「エジプトで家を直したそうだが。魔石による修復というのは、建物以外にもできるのかね」
「ええ、魔石の量に応じて大抵の事は出来ます。
朽ちてから期間が開いたものはかなり難しいですが、それでも出来なくはありません」
「なるほど。ならば、死者についてはどうかね」
彼は少し神妙な調子でこちらを見やる。
確かに、死んだ人間が修復できるとなると話が大きくなる。
ただ、答えは明白だ。
「マルデアにおいて死者の扱いは、地球と一緒です。
死んだ生き物の魂を戻す事だけは出来ません。お墓を作って祈るだけです」
「ふむ。やはり魔法でもそこは難しいか」
スカール氏は深い息を吐いた。
「マルデアでも、死者の蘇生は古くから研究されていました。
ですが、現在では禁呪として扱われています。
成功事例がほぼない上に、術者が命を落とす事が多いからです」
「ふむ……、わかった。魔石にも限度があるという事を、各所にも伝えておこう」
まあ、色んな要望が来るんだろうな。
スカール氏も頭が痛そうだ。
魔法にも、できない事はある。
神様が本当にいるのかはわからないけど、生死だけはしっかりしたルールがあるんだろう。
さて、話し合いを終えたら国連での仕事は終わり。
私はその足ですぐに日本へと飛んだ。
羽田空港に降りて、車で永田町へと向かう。
政府との挨拶を済ませた後は、RPGメーカーへ直行だ。
いよいよ、今回の旅のメインだね。
本社ビルを訪ねて会議室に入ると、スーツ姿の面々が顔をそろえて待ってくれていた。
「ついに完成ですね」
「はい」
ドラゴンクアスト11のパッケージが完成し、机の上に置かれている。
そのイラストをぱっと見ただけで、これまで出してきたゲームと決定的に違う部分がある。
それは、主人公を助ける仲間たちの存在だ。
今までのゲームは基本的に主人公にフォーカスしたもので、仲間は臨時のお助けキャラくらいのものだった。
ドラクアは個性豊かなキャラクターたちが物語を彩り、主人公の支えとなる。
これぞ和製RPGといった感じだね。
「ソフトの初期出荷は一万五千本です。販売状況によっては、すぐに追加生産も予定しております」
「ありがとうございます。しっかりRPGと言うものをマルデアに伝えられるよう、頑張ります」
話し合いを終えた後、営業さんから販売促進用のグッズを沢山受け取った。
マスコットであるスレイムのぬいぐるみや、有名な漫画家先生のイラストが映えるポスター。
さすがは国民的作品といった所で、目を引く華やかな見栄えが魅力たっぷりだ。
ディレクターやプロデューサーたちと握手をし、私は本社のビルを出た。
「リナちゃーん! ドラクアを頼むぞー!」
「マルデアにRPGを伝えてくれー!」
外で出待ちをしていたのは、ドラクアファンなのだろうか。
警察に抑えられながらも熱狂的に叫ぶ彼らに、私は笑顔で手を振った。
それから車に乗り込み、私は郊外の倉庫へと向かう。
旅の終わりの入荷タイムだ。
かなり量が多くなってきたので、作業員に手伝ってもらって荷物を輸送機に詰め込んでいく。
ドラクアのソフトやスウィッツ本体。周辺機器など、扱う商品は来るたびに増えていく。
今回はなんと本体が一気に三万台だ。
ドラクアの発売に合わせて、またスウィッツの販売を拡大する戦略を用意している。
うまくいけば、一気に普及速度を速める事が出来ると思う。
輸送機に荷物を詰め込み、私は挨拶をして地球を後にした。
マルデア星。
ワープルームに戻った私は、研究所を出てガレリーナ社のビルへ向かう。
二階に上がると、いつものようにフィオさんの通話対応の声が聞こえてきた。
「いえ、うちでは『食べたら大きくなるキノコ』は販売致しておりません。
体を巨大化する魔術製品でしたら、百貨店などでお求めください」
何の話だ。
まあ、マルデアのメーカーならでかくなるキノコくらい作れるだろうけどね。
子どもにそういうのをプレゼントしたら喜ぶのかな。
「ただいま戻りました」
オフィスに入っていくと、サニアさんが待ってましたとばかりに立ち上がる。
「お帰りなさい。ドラクアはどうだった?」
「はい、しっかりもらってきました!」
私は輸送機から段ボールを取り出し、ソフトを一つテーブルに置いた。
「おっ、これは良いイラストではないか」
ガレナさんがパッケージの絵に食いつくと、フィオさんもこちらに顔を覗かせる。
「メインキャラたちのデザインが素晴らしいです」
「やっぱ冒険に仲間がいると、賑わうっすね」
メソラさんも、パッケージの見栄えに好感触だ。
ドラクアが提示する、冒険と仲間たち。
それは、今のガレリーナ社と重なる部分がある。
うちも既に私とガレナさんだけではない。
サニアさん。フィオさん、メソラさん。そして、ローカライズ担当の二人。
少し変わってるけど、ちゃんと支えになってくれる仲間たちがいる。
みんなで頑張れば、何だって乗り切れるはずだ。
さあ、ここからはロールプレイング・ゲームをマルデアに届けるお仕事だ。
まずは、販売店へ売り込んでいこう。
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