第12話 にゃんにゃん大捜査!?

「さて、そうとわかれば長居は無用。ヤツを刺激しないように帰るとしよう」


「あ!そう言えば、今日は暴れないね?」


初日は画廊内を歩きまって、挙げ句、叫んだりしたのに。

今夜はやけに静かなのだ。


「おおよそ、願いを叶えてくれそうな存在を見つけたからではないか?」


「それ、ひょっとしてヨキと私のこと?」


問うとヨキは軽く首を振った。


「私は問題外だな。人は人に願いを届けたがるものだ。芙蓉がお人好しそうなのを見て心を許したのかもな?」


「お人好し……」


いつもながら、誉めてるのか貶しているのかわからない。

これが、ヨキのなんだとすれば、年季の入ったドSだと認定していいと思う。

ヨキは頭の天辺から肩へと移動し、諦め顔の私に前足を差し出した。


「さ、行くぞ」


「う、うん」


前足を握り、私は真を振り返った。

近くにいたはずの彼はもうどこにもおらず、無機質なモニターが夏海を映し出しているだけである。

でも……どこかで真が見ている気がして、世界が歪む瞬間、私は真に向かって叫んだ。


「悪霊になんてさせないから!なんとかするからっ!」


真の世界が次第に消えていく中、私は何となく……何となくだけど、彼の暖かい想いを感じていた。

きっと託してくれたのだ、そう思うと、視界は徐々に画廊内へと戻ってきた。


帰ってくると、思ったより時間は過ぎていた。

体感ではわからなかったけど、向こうにいたのはざっと二時間ほどで、画廊の時計は現在午後九時を指していた。


「これからどうするか、だが……」


「うん……」


ヨキと私は応接セットに座り直し、今後の作戦を練る。

最後に見た映像に何かしらの秘密があるとして、それには夏海の協力が不可欠だ。


「夏海さんにもう一度話を聞くしかないけど……話してくれるかなぁ」


そう呟くと、ヨキはソファーの手摺に上半身を掛け自画像を見つめながら言った。


「今、ふと考えたのだが……夏海が言い淀んだこと、それは、先程の映像に関係していると思わないか?」


「あ……そっか。自分のせいで真が死んだと思っているなら絶対に言いたくないだろうし、責めてるって言ったのも理解出来るわ!さすがヨキ!」


「……馬鹿め。少し考えれば簡単にわかること。それよりも、問題は真が誰に何をわからせたくて、何を……もしくは誰を許せないと思っているかだな」


結局そこに戻ってきてしまうのだ。

真が明確に提示した手掛かりは最後の映像のみ。

とすると、やっぱりまだその中に何かが隠れていそうだ。


「ねぇ。もう一度、最後の映像を検証してみない?」


「検証?」


「えーっと、思い出してみるね?」


最初の方を知らないヨキのために、私は思い出しつつ、情景を口に出した。


「まず、リビングで揉める夏海と真。夏海の手にはスマホが握られていて、それを指しながら真を怒鳴っている」


「ふむ。夏海に誰かから連絡があって、それを真が咎めたとか、又は勝手に見たのが気に入らないとか……そんなところか?」


「えー?それだけであんなに怒るかなぁ。すごく大切な人からの連絡とかならわかるけど……あ」


その時私は、ある光景を思い出していた。

午後のファミレス。

突然鳴ったスマホの音。

スマホを見て微笑む夏海。

それを見て、直感で「男」からだと思ったことを。


「なんだ?馬鹿みたいな顔をして」


「馬鹿は余計です……あのさ、ファミレスで話してた時、夏海さんのスマホにメッセージが入ったのよ!」


「ほう、それで?」


ヨキは急に上半身を起こし、前のめりになった。


「なんだかとても嬉しそうだったから、これは絶対好きな人に間違いないって思ったのよねー」


「お前は、夏海が惚れている男が、双子の言い争いの原因だと言うのか?」


「かもしれないってこと!残念ながら、私の直感が外れる可能性もあるからね」


「芙蓉の直感はそうそう外れんだろう」


「えっ!」


思わぬ嬉しい言葉を聞いて、私は舞い上がった。

ヨキが……ヨキが初めてちゃんと誉めている!?

雹が降るのか嵐がくるのか。

いや、例え天変地異が来たとしても、これ程嬉しいことはない!


「なんせ直感だけで生きているからな。直感がなくなったら何も残るまい」


一気に天にも登った気持ちは、ヨキによって真っ逆さまに叩き落とされた。


「何も……残らない」


私は呆然と呟いた。

今まで、熟慮に欠けるだの豪胆だのと散々言われたけど、これが一番ショックかもしれない。

直感以外取り柄がないなんて……生きている意味ある!?


「どうした?顔が変だぞ?」


「……そりゃあ、変にもなるわよ。直感以外、取り柄無しなんて言われたら!」


「まぁ、そう拗ねるな。直感が冴えているお陰で、私の姿を見れるのかもしれないんだぞ?」


……それは、いいことなのだろうか?

と、私は自問自答した。

どうも面倒事を背負いこんでるとしか思えない。

見えなければ、オカルトの世界に踏み込むこともなかったろうに。

いまいち、機嫌が良くならない私に、ヨキは奥の手を使った。

前のソファーから、ぴょーんと跳躍して私の膝に着地すると、ゴロンゴロンと体をくねらせる。

いつものアレ「思う存分、撫でても良いぞ?」である。


「ほれ、芙蓉。どうだ?一つこの毛並みを愛でてみないか?ささくれだった心も一瞬で癒される、魔法の毛並みだ!今夜は、ヨキ様を独り占めさせてやるぞ?」


さぁ、どうだ!と言わんばかりのモフモフローリングが、ひざの上で炸裂する。

……不本意だけど、やっぱりこの気持ち良さには抗えない!


「それじゃあお言葉に甘えて、モフらせてもらいます」


ワシャワシャと揉みし抱くと、ヨキがふにゃーんと、可愛い声を上げる。

いつもこうだと可愛いのになぁ、なんて思いながら、話を元に戻した。


「それで。夏海さんの好きな人の件だけど……」


「うにゃーん……う、うむ。その謎の人物を探さねばならんな!」


「どうやって?夏海さんが言うとは思えないけど……あっ!じゃあ、尾行する?」


私は鼻息を荒くして言った!

実は一度やってみたかったのだ。

刑事モノのドラマで定番の「尾行」に私は憧れを抱いていた。


「尾行……かなり効率が悪いぞ。それにお前の尾行などすぐにバレる」


「えー、そうかなぁ……」


ヨキに一刀両断され、私は項垂れた。


「まぁ、待て。それに関しては私にアテがある」


「えっ!?本当!?」


ヨキのアテってなんだろう。

もしかして、猫又仲間を呼び集め、人探しをするのかな?

にゃんにゃん大捜査!?

私の妄想は爆発寸前だ。


「任せておけ。明日、呼び出そう」


呼び出す……ということは猫又仲間と考えて良さそうだ。

にんまりとする私の顔を、気持ち悪そうに眺めるヨキ。

そんな視線にもめげず、私はにゃんにゃん大捜査の妄想を繰り広げるのである。

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