第3話 呪われた絵
「は?呪われてる?あはは、そんな。このご時世に呪いなんて……」
そう言いかけて私はハッとした。
それに近いもの、いや、もっと信じられないようなことを体験してるじゃない!?
絵に残った想いを叶えたり、大妖怪や退治屋と共に漆原さんを救ったり。
そんな不思議ワールドを体験しているのに、よくも「呪いなんて……」と言えたものだわ。
「そうだよな……呪いなんて言われても……」
「いや!ごめん!不思議なことは世の中たくさんあるからね。うん、常識では説明つかないことも、ね!」
取り繕うように言った私に、研吾は目を丸くしていた。
意見を翻したのを怪しんだのか……または、私の顔が面白かったのか。
それはさておき、我に返った研吾は気を取り直して話を続けた。
「美術館に行った理由を話す前に、絵の
「亡くなって……そんな、まだ若いのに……」
「……ああ。それで、坂上の残した最後の絵がこの自画像。彼は絵を双子の姉、夏海にあげてくれと言ったんだ。それが最後の……唯一の遺言だった」
研吾はそう言うと目を伏せた。
美術部員だったということは、担当教師である研吾ともかなりの交流があったはず。
まだ亡くなって時間も経っていないし、彼も心の整理がつかないのかもしれない。
私は気を遣って黙っていた。
しかし研吾は、すぐに目を開けて訥々と続きを語り出した。
「……夏海と真は、すごく仲のいい姉弟だったんだけど、何故か夏海が真の絵を貰うのを嫌がって……それで、両親が居間に飾っておいたようだ。でもな、それから家の中で異変が起こり始めたらしい」
「異変?それって、どんなの?」
私は身を乗り出した。
「何もしないのに物が割れたり、テレビが勝手に付いたり消えたり。いわゆる心霊現象だよ」
「よくある話だ。それが絵のせいだとは言えまい?」
腕を組んで聞いていたヨキは、事も無げに言った。
でも、それは一般的にはよくある話ではない。
何もないのに物が倒れたり、割れたりしたら、普通の人は怖がるし、現に祖父
「だけど、絵を飾ってから始まってる……可能性はあるんじゃないかな?」
「ま、可能性はな?」
研吾は食い下がり、ヨキは仏頂面で聞き流す。
それは、人から見れば普通の会話だろうけど、私はヨキの様子がいつもと違うのを怪訝に思っていた。
研吾に冷たすぎる、のだ。
日に何度も来る漆原さんにはフレンドリーなのに、この違いは何なのだろう!?
不穏な気配を感じて、私は話を進めることにした。
「絵のせい、とも言いきれないけど、そうじゃない、とも言えないよね?……それで?この遺品の絵を研吾が持ってる理由は?」
「あ、ああ。あんまり変なことが起こるもんだから、ご両親が学校に持ってきたんだ。《どうか、部室に置いてください。その方が真も喜びます》ってな。遺品だからな……処分しづらくて持ってきたんだと思う」
「ふぅん。で、心霊現象は部室でも続き……それで今度は困ったお前が、美術館にこの絵を預けに行った……そんなとこか」
また横柄に口を挟んだヨキ。
「……概ね、そうです」
研吾も負けずに横柄に答えた。
「お、概ねってことは、少し違うの?」
「うん。困ったのは本当で、どこかに預けたいと思ったのも本当だよ。でも、藤山美術館に行ったのはこんな現象に詳しい人はいないか?って聞きに言ったんだ」
「こんな現象って……心霊現象のこと?」
「そう」
研吾はあっけらかんとして頷いた。
しかし、私は困惑した。
藤山美術館で尋ねて、今、ここにいるってことは、円山画廊を薦められたということじゃない?
ちょっと意味がわからないわ。
何で、心霊現象に詳しいのが円山画廊……いや、私なのよ!?
「ど、どうしてかなぁ?館長、理由言ってた?」
「理由……いや、何も。この話をした時、最初は困っててね。でも、それからどこかに電話して……すぐ後、円山画廊に行けって言われたんだ」
「電話?館長が……電話……」
困ってどこかに指示を仰いだ?
とすると、相手は館長より権限を持った誰かだ。
思い浮かべてみると、そんな人は二、三人しかいない。
困惑顔の私を申し訳なさそうに見つめ、研吾が言った。
「薦められはしたけど、一応迷ったんだ……なんていうか……俺になんて会いたくないかなって……」
「そう思うなら、なんで来た?いや、今からでも遅くない。絵を持って帰れ」
「よ、ヨキ!?」
私は隣に座って顰めっ面をするヨキを凝視した。
あきらかな敵意が見えたからだ。
今までは、嫌悪だけだったのにそれがエスカレートした状態である。
一体何がヨキをそうさせるのか……私は不穏が加速する室内で、ただ唖然としていた。
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