第20話 エピローグ

それから、長義さんの妖怪退治図と山吹さんの始末記は、鑑定に出されることになった。

もともと一つの絵であったのではないか?という私の意見を館長が聞き入れてくれたのだ。

いや……厳密に言うと、扇町画廊の東さんとギャラリー湯川のオーナー町子さん、この二人の力添えの賜物である。

東さんに事の次第を聞いた町子さんは館長に二つの絵の鑑定を進言してくれた。

最高齢である湯川町子さんは、この辺りの美術商協同組合の理事で、言うならばドンである。

館長もさすがにドンの意向を聞かないわけにはいかないので、渋々了承してくれたのだ。


そうして鑑定が行われると、二つの絵は元は一つであったことがすぐに判明。

絵は修復されることになった。

古いものなので、修復には時間がかかるらしい。

だけど数ヵ月後には、一枚絵となった「妖怪始末記、吉良長義、山吹の方」と名を変えた絵を私達は目にすることになるだろう。


私は受付台の台帳を閉じて、頬杖をついた。

もう二人だけの世界を邪魔されることはないんだよね。

なんとか約束を果たせて良かった。

そう思うと次第に顔が綻んだ。

すると、緩んで締まりのなくなった頬に、何かがぐいぐいとめり込んできた。


「おい、芙蓉よ」


「に!?にゃによ?ヨキ?」


何よ?と言いたかったの!

頬が押されて「にゃ」になってしまっただけ!

ぐいぐいと私の頬にめり込んでいるのは、ヨキの肉球だ。


「例の物はどうなっているんだ?ん?」


「れ、礼のもにょ?」


ヨキは遠慮なく肉球を押し込んでくる。

きっと私の頬には、肉球の可愛い跡がついているはずだ。


「《これぞ究極!天然のどぐろ!いいとこ取り!》の件だ!」


「あーー思い出した!」


私がぽんと手を打つと、ヨキはやっと肉球をめり込ませるのをやめた。

擦ってみると、やはり肉球の後がついているようで、これから人に会う予定がなくて良かったと、心底ホッとした。


「そういえば、今回はお籠りが長かったね?やっぱり妖力使いすぎたのが原因?」


大乱闘のあの日、絵に籠ったヨキが再び現れたのは今日の早朝で、実に二週間が経過していた。


「そうだ。些か頑張りすぎた。そんなことより!頑張った私に褒美をごっそり買っておいたのだろうな!」


「もちろん!」


「にゃおおー!本当か!やるではないか!ささ、早く出してくれ!」


ヨキはスタッと床に着地すると、私のふくらはぎを両前足で掴み、一生懸命じゃれてくる。

辛抱たまらーん!という必死な様子は妖怪猫又じゃなくて、ただの猫のようだ。


しかし、こんな時、いつも決まって私は思う。


人間の姿になって自分で開けた方が早いのに、と。

それとも、一応家主の私に気を使っているのだろうか?

勝手に食べちゃダメ!と思っていたりするのかな?

……いやまさか、ヨキがそんなに謙虚なはずがない。


そう思い直すと、私はじゃれつくヨキを抱き上げた。

そして、裏の戸棚からご褒美の品、高級猫缶『これぞ究極!天然のどぐろ!いいとこ取り!』を取り出したのである。

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