第19話 恐ろしい精神力?
ヨキが絵に戻ってから暫くして、漆原さんから電話がかかってきた。
「芙蓉さん!?ああ、良かった、ちゃんと帰ってたんですね」
「え、ええ。漆原さんが突然いなくなったから自力で……」
これは真実である。
昨日のことを思い出して、私は少しイラッとした。
「漆原さんこそ大丈夫でしたか?何かあったかと心配しましたが……」
「いや、あの……すみませんっ!何だか車で寝てたようなんです」
「ええっ?どうして車で?」
私の嘘くさいセリフを疑いもせず、漆原さんは言った。
「良くわからないんです……その辺記憶がぼんやりしてて。疲れてたのかなぁ」
疲労で一昼夜寝落ちするような人は、もう精神が限界だと思うので、早く病院で見てもらった方がいいですよ?
と、本来なら病院をお勧めするところだけど、これは超常現象が原因だとわかっている。
心配そうに話す漆原さんに、私は出来るだけ優しく言っておいた。
「お疲れ様です。働きすぎは駄目ですよ?」
「はい。本当に申し訳ないです……」
「あの……他には特に何も覚えてませんよねぇ?」
もしかしたら、絵の中の出来事を覚えていたりするかもしれない。
そう思い聞いてみたのだけど、すぐに取り越し苦労だと気付いた。
助けた時意識はなかったし、恐らく何も見てないはず。
しかし、胸を撫で下ろした私は、漆原さんの回答に蒼白になったのだ。
「おかしな夢を見たんです。たくさんの幽霊みたいなものに追いかけられて何処かに押し込められて……それから暫くして、大きな蜘蛛と光源氏みたいな人とヨキさんが、幽霊と戦っているのが見えたんです」
「……あ……はは……変な……夢ですね……」
私は笑ったけど、実際全く笑えなかった。
意識のない状態でやけにリアルな夢を見ているのね!?
五感以外の何かを持ってるの!?第六感?シックスセンス?
私は心の中で捲し立て、ゴクリと息を呑んだ。
でも、夢だと思っているならまだ大丈夫、バレてない。
うん、バレてない。
そう思い気持ちを立て直した。
「その後……」
「は?はい?」
まだ何かあるの?と、相づちを打つと、なぜか漆原さんは言うのを躊躇った。
……まさか、山吹さんに糸でグルグル巻きにされて、飛んで帰ったのを覚えているのでは!?
焦った私が尋ねようとした瞬間、漆原さんはボソボソと語り始めた。
「辺りが静かになった後……ふ、芙蓉さんがやって来て、僕の手を取って……ああ、良かった……って、素敵な笑顔で……言って……」
「あー……」
そ、そんなところまで覚えているなんて……。
山吹さんが言った「凄い精神力」って、実はこのシックスセンスのことなのかも。
大妖怪すら唸らせる精神力を持つ男、漆原八雲。
彼は、全てを語った後「おかしいですよね?」と照れ笑いをした。
「あ、あの、えっと、秘書の大崎さんが心配してましたよ?連絡しておいて下さいね!」
「ああ、大崎くんね!え?芙蓉さん何で彼女を知って……まぁいいか。では、一度会社に帰ります。また改めてお伺いしますね!」
いや、ゆっくりじっくり静養してくれていいんですよ?
と言う言葉を飲み込んで、私は「はい。ではまた」と明るく言って電話を切った。
余計なことを言って、話が長くなるのを避けたいからだ。
悪いけど今は、漆原さんに構っている暇はない。
私は振り返って「妖怪退治図」と「山吹の方始末記」を見た。
そして、今一度気合いを入れ直し、藤山美術館の電話番号を押したのである。
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