第9話 四宮さん探し

次の日。


私とヨキは、昨日舘野社長から聞いた情報を元に、朝からパソコンと睨み合っている。

例の『元華族の四宮しのみやさん』探しだ。

本当なら昨日探すはずだったのに、どうしてしなかったのかというと……答えは疲れたから、である。

ヨキは長い時間人の形をとると、妖力の消耗が激しく、絵の中に戻り力を回復させなければならない。

私は私で、精神的疲労が酷かった。

これは絶対、漆原さんのせいだと思う。

車の中で延々と、お気に入りのバンドのうんちくを聞かされれば、誰だって嫌になるはずだ!と、私は声を大にして言いたい!


……さて、それはさておき。

問題の四宮さんの件だけど、結論から言うと、それはすぐに見つかったのである。


四宮子爵家は明治後期、隣県にて知事を勤めたり、その後は市長や助役といった要職を占める地位にいた。

いわゆる名家である。

しかし現在、子爵家の直系は誰もおらず、住んでいた邸宅は県の重要文化財として保存されていた。

その重要文化財である現在の邸宅の写真の下に、少し古い家族写真を見つけ、私は声を上げた。


「あ、ほら、見てこれっ!写真のこの人!!」


写真には、当時の四宮邸とその玄関口で並ぶ四宮家族が写っている。

そして、私が指したのはある若い女だ。


「似ているな」


「でしょ?」


似ている、とは、例のひと、樫村八重さんにだった。

写真の女は、白いワンピースに水色のリボン。

色白で瞳の大きな姿は、あの絵の中で見た女そっくりだったのである。


「絵のモデルは、樫村八重本人か。すると、やはり池も子爵邸の近くにある可能性が高いか……」


「行ってみようよ!考えても仕方ないじゃない。そんなに遠くもないでしょ?」


「お前は……豪胆だな……」


「ご、ごうたん?って?」


私が問いかけると、ヨキはのっそりと立ち上がった。

そして、パソコンと私の間にスルッと体を滑り込ませ、姿勢を正し凄く真面目に言ったのだ。


「例えばな?お前の前に未知の食べ物があるとしよう。それには毒があるかもしれない。不味いかもしれない。食ったら腹を下したり、最悪死ぬかもしれない。それをだな、取りあえず食べてから考えよう!と、言ってるようなものだぞ?」


……あれ?

なにこれ?

すごくムカつくんですけど!?

めちゃくちゃ礼儀正しく馬鹿にされている!と感じるのは気のせいじゃないよね?


「それ、馬鹿にしてるよね?」


「ある意味な。だが、今はお前の言うことに従うのが良さそうだ」


ヨキはパソコンに向かうと、器用に前足でキーボードを押し『四宮子爵邸 池』で検索を始めた。

でも、出てくるのは重要文化財の邸宅ばかりで、他には何も出てこない。

振り返ったヨキは「な?」と一言言った。


……な?ではない。

つまり、当てがないから行くしかない、と言いたいんでしょう?

それなら「イエス」と言えばいいだけなのに、なんだかんだで私を馬鹿にしないと気がすまないのよね!

ルーティンワークか!?

習性か!?

目を吊り上げる私の前で、ヨキは飄々と尻尾を振っている。

まぁ、いつものことか……と私はいろいろ諦めた。


「……じゃあ、行く?」


「そうしよう。私はこの姿で行くからな」


「うん、交通費払わなくていいからお得だもんね!」


こういう時、姿を変えられるヨキが羨ましいと思う。

猫又の姿なら人には見られないし、無賃乗車し放題よね……って、犯罪、ダメ、絶対!

目の前でコロコロ表情を変える私を見て、ヨキは盛大にため息をついた。


「……金銭の問題ではない……あ、思い出したんだが、あいつ、来るんじゃないか?」


「あいつ?」


「不動産屋だ」


……忘れてた。

どうしよう、としばらく考えて、すぐに答えは出た。


「放っておいてもいいでしょ?定休日の看板掛けとけば」


「……悪い女だな」


ヨキは含み笑いをした。

個人経営の店舗は、やむ終えず店主の都合で休んでもいいんですー!と、私は悪い女返上の言い訳をする。

それを、ケラケラと笑って聞き流しながら、ヨキは後ろの絵画へと消えていった。


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