第41話、水沝㴇淼㵘
「ビッチよ。以前に解読した石板の中から、新たな禁断の業が見つかったとは真か?」
「お待ちしておりました魔王殿。まさか石板の中に石板と二重の封印が施されていたとは、この石板の解読者、ルルルールル・ルルルルルヴィッチことルルの一生の不覚でするる」
「……ヨがみつけた!」
腰に手を当てて胸を張るミャオウだが、普段は片付いている魔術工房の散らかり具合を見る限り、また退屈だと喚いて暴れまわっていたのだろう。
「見つけたではなく、破壊したの間違いるる! ミャオウの奴めの不届きの処罰は、この責任感の権化、ルルルールル・ルルルルルヴィッチことルルが受けまするる」
「余の遺伝子を使って生み出した以上、しっかりとコントロールしておくことだ。今回は新たな発見に繋がった功績を称え、不問にしておいてやろう」
「ありがたき幸せでございまするる。石板の方は準備万端となっておりまするる」
「…………これか」
更なる力を求めし闇の者よ。
汝が手に入れたであろう『火炎㷋焱燚』と対になる禁断の業を、この石板に記す。
世界を包みし全ての源は、消えることのない火ですら鎮めるであろう。
邪神ビーフストロガノフの力に値するならば、この名を叫び操ってみるがいい。
『水沝㴇淼㵘』……と。
「………………」
「ささ、魔王殿。あちらに実験用のゴーレムを用意しておきましたるる。暗黒の炎と対になる業を、このルルルールル・ルルルルルヴィッチことルルにお見せくださいませるる」
「……マオウ。これ、なんてよむ?」
「読み方が知りたいのであれば、暴れ回っている暇に勉強の一つでもするのだな」
ミャオウが不満そうに頬をぷくーっと膨らませる。読み方が分かれば苦労しとらんわ。
この邪神の技は前回同様ビッチに譲り、一応見るだけ見ておくことにするか。
「ビッチよ。既に邪神ビーフストロガノフの力を手に入れている貴様に、対となるこの業も授けよう。試してみるがいい」
「何とっ! 魔王殿の寛大なお心遣い、感謝いたしまするる」
「……マオウ、読めない?」
「余に読めない業などないわ。いいから黙って見ておれ」
「では、行きまするる…………我が言霊に従い、我が手に集うべし。太古の地下に眠りし邪神、ビーフストロガノフより生まれし鎮魂の水よ――――」
言うまでもないが、そんな詠唱はどこにも書かれていない。
魔法の杖を振りかざしつつポーズを決めた魔女は、石板に刻まれし名を唱えた。
「――――
「!」
意外にも火炎なんたらの時とは異なり、今回はちゃんと聞こえた。
聞こえたが、魔法の杖の先から何かが放たれる気配はない。
「……ルル、かっこわる」
「ミャオウは分かってないるるね。魔王殿は理解しているようで、流石でするる」
「当然だ」
「しかしこういう魔法だったとは……ミャオウ。外を見るる」
どうやら力不足だったようだな……と格好つけて言うつもりだったが、ビッチの言葉に従ってミャオウと共に魔術工房の外へ出たところで思わず呆然とする。
遥か彼方に出現していたのは、海水を吸い上げるように渦巻く竜巻。杖に合わせて巨大な水流は自在に動き、天高く上った後で海に突っ込むと、周囲一帯にスコールの如く海水が降り注いだ。
「……すごい! ルル、すごい!」
「ちょっとは見直したるるか? 少し魔力の消費が激しいるるが、これは戦力になるるね」
流石は禁断の石板の業だけあって、今回も相当な威力だ。
インパクトのある技名を含めて、これ以上ないくらい魔王に相応しい奥義だと思う。
(ちょっと余の奥義にしたかったとか、今更言えぬな)
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