第33話、我倭話和羽輪環剣

「そなた、生者であろう? 死者が住まう冥府になんのようじゃ?」

「む? 誰だ貴様は?」

「妾はカンナ。この辺り一帯は妾の縄張りじゃ。妾の庭に勝手に立ち入るでない」

「それは失礼した。庭ということは、先程の豹は番犬といったところか?」

「無論じゃ。そういえば妾が愛するボンレスハムの姿が見えぬな。ボンレスハム? ボンレスハムや? 一体どこに行ったのじゃ?」


 愛する割に酷い名前だな。

 センスはない割に勘は良いのか、カンナはこちらをギロリと睨む。


「そこの生者! 妾のボンレスハムに何をしたのじゃっ? 言っておくが返答次第ではただでは済まぬぞっ! 妾の妾におる妾のための屈辱を味わわせてくれるっ!」

「ワーワーと五月蠅い奴だ。庭にも拘らず部下を躾けなかった貴様にも非はある」

「ムキーッ!」


 話を聞く耳を持たない冥府の住人は、ワーワー嬌声を上げつつ突っ込んでくる。恐らくコイツも怪物の部類だろうし、倒してしまっても問題ないだろう。


「出でよ四十七剣! 今宵選ばれし剣は、対話による平和の剣が通じぬ際の剣だ!」


 詠唱によって生じた暗黒空間に『話』『和』という言霊が吸い込まれる。

 闇から生まれ掌に収まった武器は、ラクダのような武骨な形の物体。剣というより鎌に近い四十七剣は、その名の宣言と共に振り下ろされた。






我倭話和羽輪環剣かながわけん!」






「神奈川県は日本の関東地方に位置する県。県庁所在地は横浜市。都道府県別人口は東京に次ぐ二位であり、政令指定都市は横浜市・川崎市・相模原市と全国で唯一の3市。面積は第43位だが、駅伝や温泉で有名な箱根など観光地が多く村は清川村1村のみ。県の木はイチョウ。県の花はヤマユリ。県の鳥はカモメえええええ!」


 冥府に響く断末魔を叫びながら、カンナの身体は消滅する。

 静かになった紫色をした空の下で、余は大きく息を吐いた後で呟くのだった。






「今日のところは、これくらいにしておくか」

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