第26話、空蛇剣

 突如現れた謎の男、反逆のシリアス。

 奴のペースに呑まれてはならぬ。


「………………ファッファッファ。反逆のシリアスよ、余に傷を付けるとは驚いたぞ」


 落ち着け。

 初心に戻るのだ。


「余は待っておった。貴様のような若者がやってくるのを」


 一生懸命覚えようとした戦闘前の口上は、一体いつから言わなくなったのか。

 平穏な日々を過ごしながら、適度に侵入者をやっつける。

 それで良いではないか。

 例え余の戦闘が道楽であったとしても、それを望み慕う者がいるのだ。




『魔王様。如何なされました?』


『クックック……これはこれは魔王殿』


『我が主よっ!』


『オーちゃんオーちゃん!』




「ここまで来た褒美として、冥土の土産に見せてやろう。これぞ必勝不敗である魔王の究極奥義。出でよ四十七剣! 今宵選ばれし剣は、虚空より舞い降りし蛇の剣だっ!」


 詠唱によって生じた暗黒空間に『空』『蛇』という言霊が吸い込まれる。

 闇から生まれ掌に収まった武器は、欠伸をしている人のような武骨な形の物体。剣というより鈍器に近い四十七剣は、その名の宣言と共に振り下ろされた。




空蛇剣あきたけん!」




「くだらんっ!」


 反逆のシリアスは狙いを定めるように、剣を水平にして構える。

 そして勢いよく突進すると、四十七剣の斬撃ごと余の腹部を突き刺した。


「ぐはあああっ!」

「何が空蛇剣だ。秋田県は日本の東北地方に位置する県で、県庁所在地は秋田市。県の木は秋田杉。県の花はフキノトウ。県の鳥はヤマドリ。断じて剣などではない」


 反逆のシリアスの言葉に物足りなさを感じてしまったが、余が四十七剣の力を引き出していなかった頃の断末魔はこんなものだったかもしれない。

 そうだ。

 思い出せ。

 四十七剣の力は、こんなものではない筈だ。


「今のアンタの剣は秋田じゃなく、ただの飽きた剣だ」


 反逆のシリアスが剣を引き抜く。

 腹部から流れ出た血が垂れていく中、残された力を振り絞り手を掲げた。


「…………今宵……選ばれし剣は…………余の意志を…………剣だ……」


 詠唱によって生じた暗黒空間に『意』『志』という言霊が吸い込まれる。

 闇から生まれ掌に収まった武器は、何かを摘む手のような武骨な形の物体。先端がフックのようになっている四十七剣は、その名の宣言と共に振り下ろされた。




意志火環いしかわ――――!」




「終わりだ」




 反逆のシリアスの言葉が耳に残る。

 視界に映ったのは、真っ二つに折られた四十七剣の姿だった。

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