第22話、クリアウォーター

「――――ということで、北国の調査をよろしく頼むぞ」

「我が主の四十七剣を四本も抜かせるほどの猛者……心して掛かるであります!」

「ヒルっちもいるし、危なくなったらワープクーヘンで即逃げすれば何とかなるっしょ! アタシ北国って行ったことないから、ぶっちゃけチョ~楽しみ~」


 ヒルとスイーツ、魔王軍四天王である二人は玉座の間を後にして北国へと出発する。元々西国には四天王を一人向かわせていたものの、連絡は一切ないままだ。

 仮にその理由が前回現れた脅威、チート能力を手にした転生者によるものだとしたら、事態は一刻を争う。既に制圧済みである西国と南国の可能性は低いため、奴らが転生して現れた場所の候補は北国か東国だろう。


「ヒル様とスイーツ様の二人で向かわせるほどに、注意すべき相手なのですね」

「その通りだ。奴らはこの魔王城へ来る可能性こそ極端に低いが、仮に相対した場合にはこれまでの襲撃者とは比べ物にならぬほど恐ろしい相手となる。不死の者もいるくらいだ」

「かしこまりました。心しておきます」


 コマは小さく答えた後で「塩……ニンニク……聖水…………ペペロンチーノにしましょう」と呟く。いや不死って言っても吸血鬼じゃないし、そこから料理を考えないでほしい。

 今回の相手は間抜けだったから対処できたが、これからは余の四十七剣だけでは対処できないケースも出てくる可能性は0じゃない。一度は諦めたが、やはり新技習得をする必要がありそうだ。


「………………」

「難しく考えても始まりませんし、今はお二人の報告を待っては如何でしょうか?」

「む……? うむ。そうだな」


 少し考え事をしていただけのつもりだったが、気を遣ったコマがグラスを差し出してくる。一瞬にして上司の気配を察し、気を利かせて飲み物まで用意するとは流石だ。


「美味い。おかわりだ」

「かしこまりました。クリアウォーター!」


 いきなりのことに驚くが、コマの詠唱と共に激しい水流が…………流れない。

 まるでお茶を注ぐようなパントマイムをしながら、少女は魔法陣から生み出した水と思わしき液体をグラスへ注いだ。


「…………何だこれは?」

「はい。クリアウォーターでございます」

「………………そうか」




 …………クリアウィンドの例もあるし、何も言わないでおくか。

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