第19話、始まりの四十七剣

「何故余が魔王になったか……だと?」

「そ~そ~。オーちゃんって見た目は魔王っぽいけど、性格は魔王っぽくなくない?」

「当然だ。元はと言えば余が自ら魔王を名乗ったのではなく、この島へ来た連中が勝手にそう名付けただけなのだからな。余はそれに合わせて魔王らしさを追及しているに過ぎぬ」

「へ~。そういえばこの島って、どうして人間に狙われてるの?」

「さあな」


 単なる領土狙いか、はたまた連中にとって珍しい物でもあるのか。

 いずれにせよこの島には、褒美が貰えるほどの何かがあるというのは確かだ。








「くっ……このっ!」

「そぉらぁっ!」

「なっ――――」


 その日は激しい雨が降っていたのを覚えている。

 甲高い音を立てて折られた銀色の刀身は、天から降り注ぐ雫と共に地面へ突き刺さった。


「へへ。勝負あったな。あんたに恨みはねぇが、邪魔者は排除しろってのがボスの命令だ」

「…………何故だ」

「ぁん?」

「私が一体何をした? 何故貴様は私を殺そうとする?」

「さぁな。俺ぁ何も知らねぇが、思うがままの褒美を出すってくらいとなると、この島に想像もつかねぇようなどでけぇ宝でも眠ってんじゃねぇのか?」

「そんなものはない」

「それを決めるのはあんたじゃなく、うちのボスだ」


 勇者なんて呼ぶに値しない、単なる傭兵……いや、ごろつきの男が剣を振り上げた。

 ――――瞬間、空が光り輝く。

 激しい雷鳴が轟くと共に、目の前を閃光が走り抜けた。


「うおっ?」


 驚いた男が慌てて飛び退く。

 まるで稲妻によって運ばれたかの如く、目の前には墓石のような石板が転がっていた。




 力を求めし闇の者よ。

 汝が欲するであろう禁断の業を、この石板に記す。

 偉大なる大地より生まれし剣は、消壊の断末魔を響き渡らせるであろう。

 邪神ニッポニアニッポンの力に値するならば、この名を叫び手に取るがいい。

『四十七剣』……と。




「じゃあな」

「っ!」


 迷っている暇などない。

 藁にもすがる思いで、石板に綴られていた名を叫んだ。


「四十七剣!」


 再び雷鳴が激しく鳴り響く。

 脳内を情報が駆け巡り、一瞬にして全てを理解した。


「四十七剣だぁ?」

「そうだ。これは決して折れることのない、貴様を葬る新しい剣だ」


 詠唱によって生じた暗黒空間に『新』という言霊が吸い込まれる。

 闇から生まれ掌に収まった武器は、カンガルーのような武骨な形の物体。通常の剣よりも少し刃が太い四十七剣は、その名の宣言と共に振り下ろされた。






新型剣にいがたけん!」






「新潟県は日本の中部地方に位置する県。県庁所在地は本州日本海側唯一の政令指定都市でもある新潟市。47都道府県で第5位の面積を誇り、海岸線の長さは634㎞。コシヒカリの最大産地であり、作付面積と収穫量は全国一。県の木はユキツバキ。県の花はチューリップ。県の鳥はトキいいいいい!」


 とてつもなく長い断末魔を叫びながら、男の身体は消滅する。

 降り続けていた雨が次第に弱くなっていく中で、余は手にしていた四十七剣を黙って握り締めるのだった。

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