第17話、転移䭄
「我が主よっ! ご無事ですかっ?」
「ヒルか。安心せよ。既に敵は片付けた後だ」
コマの淹れた紅茶と一緒にのんびりとババロアもといババロラを食べていると、タイミング良く戻ってきたヒルが周辺の惨状を見て驚いたのか、慌てて城内へと駆け込んできた。
「お帰りなさいませヒル様。南国の空襲により散らかっていて申し訳ございません」
「左様でしたか……もう少し早く戻っていれば自分もお役に立てたものを……」
「気にするでない。あの程度の攻撃、ヒルの力を借りずとも結界だけで充分だ。それより西国はどうなっておる?」
「はっ! 魔王様のご命令通り、魔王像改め魔王遊園地を設立して参りましたっ! 評判は大変好評で、西国の民は心の底より魔王様を崇拝しておりますっ!」
「そ、そうか。ご苦労だった」
何か少し違う気もするが、まあ崇拝されているならいいだろう。
片膝をつき深々と頭を下げつつ報告を終えたヒルは立ち上がると、玉座の間の隅にあるスイーツが生み出した樹木の年輪のようなリング状に開かれたゲートを見る。
「転移䭄があるということは、スイーツ嬢もお戻りなのですか?」
「うむ。じきに帰ってくる頃だ。そこのババロガには手を出さぬようにな」
「はっ!」
「たっだいま~って、ヒルっちじゃん! お久~」
「ご無沙汰しておりますっ! 敵を甘味へと変化させる妖術、流石でありますっ!」
「でしょでしょ~? ヒルっちも食べたいなら何か作ろっか~?」
「いえっ! 自分はコマ嬢の指示の元、魔王城周辺の片付けを手伝うでありますっ! つきましては、スイーツ嬢の転移䭄をお借りしてもよろしいでしょうかっ?」
「転移…………? あ~、ワープクーヘンのことね~。オッケ~オッケ~。ヒルっちってば、変な呼び方するの止めてって言ってるじゃ~ん」
「失礼致しましたっ!」
久々に四天王のうち二人が揃った訳だが、東国と北国に向かった残り二人からは未だに一切連絡がない。周辺の片付けが一段落ついたら、ヒルに様子見に行かせるか。
「しかしこの『わあぷくうへん』といい、スイーツ嬢の妖術は便利な物が多くて羨ましい限りでありますっ!」
「ま~ね~。カロリーマジックがなかったら、今頃アタシってば絶対に餓死してたし」
スイーツが指をパチンと弾くと、戻ってくる際に生み出したワープクーヘンがポンっと音を立てて消える。
久々に襲撃もなく平和な日を過ごせている気がするが、こんな日がいつまでも続いてくれないものだろうか。
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