第10話、ザッハトルテ

「魔王様。パターン青。勇者です」

「他にどんなパターンがあるというのだ?」

「宅配だと虹色になります」


 …………目玉コウモリにそんな機能があるなんて、初めて知ったんだが?


「わかった。玉座の間に案内せよ」

「承知いたしました」


 余の優秀な小間使い、コマ。

 最近になって気付いたことだが、彼女は全ての侵入者を報告している訳ではない。

 時には余に告げることなく、勝手に敵を片付けているケースがある。


『ようこそお越しくださいました。私は魔王様の小間使い、コマと…………失礼ながらお尋ねしますが、貴方は先日破壊の限りを尽くしていった勇者様ではありませんか?』


 その条件は魔王城を貶したり、荒らしたりすること。

 いくら余が罵られようとも決して怒りを露わにしないクールな部下は、自分の息子のように管理している城に害を為す者と判断した瞬間、我を忘れて謎の力を発揮する。


『またお見えになる日を心よりお待ちしておりました…………クリアウィンド』


 目玉コウモリが映し出していたコマの唇が小さく動く。

 一瞬にして天窓……もとい勇者の頭上へテレポートした少女は、落下しながら黒色の魔法陣を展開。そのまま勇者の脳天目掛けて必殺の奥義を叩き込んだ。




『ザッハトルテ!』




 断末魔どころか、声の一つすら上げさせない一撃。

 コマは倒れた勇者を踏みつけつつ、持っていた暗器をゴスロリメイド服のスカートの中へ戻す。

 こんな風に報告した後にやらかした場合、彼女が取る行動は決まっていた。






「大変申し訳ありません魔王様。報告とは異なり取るに足らない相手でしたので、僭越ながらこちらで処理をしておきました」


 玉座の間へ戻ってきたコマは、三つ指をつきつつ丁寧に頭を下げる。

 先日の甲冑の騎士達の時にも同じことを言っていたが、決して相手が弱い訳ではない。どれだけ強い侵入者だろうと、彼女の技は一撃で確実に息の根を止めていた。


「…………ザッハトルテ、良い技ではないか」

「見てらっしゃったのですか?」

「うむ。映像越しで完全には見えなかったがな。どうやっているのだ?」


 名前は少し微妙かもしれないが、威力と魔法陣が展開される点に関しては申し分ない。

 クアトロフォルマッジの時は聞き損なったが、今回は素直に教えを請うことにしよう。


「はい。使うのはHPを80、MPを40、血液を少々、それとMPが2個となっております」

「待て。MPが二つあったぞ?」

「失礼致しました。2個用意する方はMPメイドポイントですね。魔法陣にHP、MPを入れてよく混ぜたら、血液を加え――――」




 ………………どうやら余には扱えぬ技だったようだ。

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