第5話、クリアウィンド

「技……技………………」


 頼みの綱だった禁断の石板の技も、名前が読めないなんて言えず「その魔法はくれてやる。更なる禁術を探すのだ」とビッチに提供。結局また元通りになってしまった。


「技がどうかなされましたか?」

「む……コマか。聞かれてしまったのなら仕方ない。実は少し悩んでおってな」


 コマを含めた配下の魔物達は『魔王には四十七剣という奥義がある』ことだけを知っており、その詳細までを見た者は誰一人としていない。


「――――無論、余の四十七剣さえあれば有象無象の勇者なぞ事足りる話だが、やはり魔の君主である魔王たるもの他にも技があった方が良いとは思わぬか?」

「左様でしたら、配下の魔物の技を参考にするのは如何でしょう?」

「配下の?」

「はい。部下が使っている技を魔王様も使われるのは至極普通の話。更に魔王様であれば、技と技を複合させて新たな技を生み出すこともできるのではないでしょうか」

「うむ、名案だな。では記念すべき最初の技は、発案者であるお主の技にしよう」

「私ですか? 魔王様のお目に留まるような技はないと思いますが」

「案ずるな。余に不可能はない」

「それでは、クリアウィンドなぞ如何でしょう?」


 名前からして初級の風魔法といったところか。まあ覚えておくに越したことはないだろう。


「構わぬ。見せてみよ」

「では僭越ながら失礼致します。クリアウィンド!」


 コマの詠唱と共に激しい風が…………巻き起こらない。

 目の前から姿を消した少女は、一瞬にして魔王城の窓をピカピカに拭き終えていた。


「窓拭きではないか!」


 …………と声を大にして言いたい気持ちをグッと堪える。ウィンドではなくウィンドウだったらしいが、一体どうやって窓拭きを魔王の技にしろというのか。


「成程……他にもあるのか?」

「そうですね。私はあまり使いませんがジェットサイクロンが――――」

「いや、止めておこう。聞いておいて何だが、余の配下は他にも沢山いることを忘れておった。いくら側近であるお主とはいえ、二つも技を採用する訳にはいかぬ」

「左様ですか」


 もっとも配下が多くいたところで、魔王たるもの長く城を空ける訳にもいかず技を見る機会は限られている。近場となるとビッチだが、アイツは厨二めいた詠唱をするからな。

 通常業務に戻ったコマを横目で見つつ、どうしたものかと頬杖をつく。ジェットサイクロン……名前の響きだけなら間違いなく高威力の風魔法に違いない。








 …………でも、絶対に掃除機だろそれ。

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