第4話、火炎㷋焱燚

「魔王様。外出なさるのですか?」

「うむ。ついに禁断の石板の修復が終わったらしいのでな。留守は預けたぞ」

「全力で玉座をお掃除まもり致します。行ってらっしゃいませ」






「クックック……これはこれは魔王殿。この結界の管理人、ルルルールル・ルルルルルヴィッチことルルの管理する魔術工房へお越しいただきありがとうございまするる」


 額と片目を塞ぐように包帯を巻き、頭には魔法使いのトレードマークである三角帽子をかぶった若き魔女は、身の丈に合っていない大きなマントを翻しつつ頭を垂れる。


「ビッチよ。ここのところ勇者の侵入が多いが、結界の方はどうなっている?」

「何を仰りまするる。この悪魔すら恐れる暗黒の大魔女、ルルルールル・ルルルルルヴィッチことルルの結界でしたら……結界が決壊しとるるるっ?」

「結界の管理人を名乗るのであれば、しっかりとコントロールしておくことだ。今回は石板を修復した貴様の功績を称え、不問にしておいてやろう」

「ありがたき幸せでございまするる。そちらの件は準備万端となっておりまするる」

「…………これか」




 力を求めし闇の者よ。

 汝が欲するであろう禁断の業を、この石板に記す。

 混沌より生まれし暗黒の炎は、相手の命を奪うまで消えることはないだろう。

 邪神ビーフストロガノフの力に値するならば、この名を叫び操ってみるがいい。

『火炎㷋焱燚』……と。




「………………」

「ささ、魔王殿。あちらに実験用の勇者を用意しておきましたるる。混沌より生まれし暗黒の炎を、このルルルールル・ルルルルルヴィッチことルルにお見せくださいませるる」

「……………………やってみろ」

「へ?」

「余の配下である貴様も、それ相応の力を備わっていなければ笑止千万。この禁断の業を扱うに相応しい魔力を持っているか、試してみるがいい」

「何とっ! 魔王殿の寛大なお心遣い、感謝いたしまするる。ささ、こちらへ」




「…………ったくレアの野郎、後で助けに来るとか言っておきながら全然来やしねえ。人を囮にしやがって…………ん? なっ! テメェが魔王かっ!」

「威勢が良いな。燃やすには丁度良さそうだ」

「あん? 燃やすだと? この炎の精霊の加護が付いてるブルー様に、火なんか通じるかっての! それよりここから出しやがれゴルァ!」

「やれ」

「では、行きまするる…………我が言霊に従い、我が手に集うべし。太古の地下に眠りし邪神、ビーフストロガノフより生まれし暗黒の炎よ――――」


 言うまでもないが、そんな詠唱はどこにも書かれていない。

 魔法の杖を振りかざしつつポーズを決めた魔女は、石板に刻まれし名を唱えた。








「――――火炎かえん㷋焱燚――――」








 あまりの轟音で声がかき消される。

 放たれた暗黒の炎はメタル勇者の身体を包み、一瞬にして蒸発させていた。


「こ、これは……予想以上に恐ろしい威力ですな、魔王殿」

「………………もう一度だ。今度は余に向けて撃ってみるがいい」

「ま、魔王殿にっ? よ、良いのですか……?」

「余の力を疑っておるのか?」

「し、失礼致しましたっ! で、では、参りまするる! 闇より深き黒、太陽より高き灼熱。燃え上がり・焼き尽くし・消滅させる。混沌と破壊、我が力を知れ――――」








「――――火炎かえん㷋焱燚――――」








(あっつううううううううううううううううう!)


 流石は禁断の石板の業だけあって、声には出さないものの相当な威力だ。

 インパクトのある技名を含めて、これ以上ないくらい魔王に相応しい奥義だと思う。

 しかし問題が一つだけあった。






(唱えてる声が聞こえなくて、火炎までしか名前がわからぬうううううううう!)

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