第3話、十凶刀
「…………はあ」
「魔王様。如何なされました?」
「いや、大したことではない。余を討とうなどと馬鹿げた妄想を抱いている、鬱陶しい勇者共に呆れて果てていただけだ」
「左様でございましたか。心なしか落ち込んでおられるように見えましたが、私の勘違いだったようですね。魔王様が落胆などと身の程知らずな憶測、大変失礼致しました」
「よい。気にするな」
コマがペコリと頭を下げる一方で、心を見透かされたような発言にヒヤリとさせられる。
前回は怒りのあまり使ってしまったが、余の必殺技がアレしかないのは流石にまずい。何とかして魔王らしい新たな奥義を身につけなければ――――。
「見つけたわよ魔王!」
「…………誰だ貴様は? どこから来た?」
「アタシは女勇者レア! 自称勇者のウェルダンパパやミディアム兄とは違う、女神様の加護を受けた正真正銘の勇者よ!」
「魔王様。どうやら前回の襲撃時に、結界が破られていたようです。階下にいた魔物達からの報告がなかった点を踏まえても、あの勇者は相当な手練かと」
「そうか。下がっていろ」
「御武運を」
「さて……勇者レアよ、よくぞここまでやってきた」
「御託はいいわ! さっさと死になさい!」
「血気盛んなところは勇者ウェルダンにそっくりだな。貴様にも見せてやろう。出でよ四十七剣! 今宵選ばれし剣は、幾多の十字架を刻んだ元凶たる刀剣だ!」
詠唱によって生じた暗黒空間に『十』『凶』という言霊が吸い込まれる。
闇から生まれ掌に収まった武器は、三日月のような武骨な形の物体。剣というより鈍器に近い四十七剣は、その名の宣言と共に振り下ろされた。
「
「くっ! セイントバリアーっ!」
「何だと……? 貴様、我が四十七剣を耐えるとは、ただの勇者じゃないな?」
「言ったでしょ? アタシは女神様の加護を受けてるの。ってゆーか、それが魔王の必殺技なわけ? トウキョウトウとか言ってたけど、その変な塊のどこが刀なのよ?」
「…………」
「アンタ、ちゃんと剣を見たことある? 剣っていうのはそんなゴツゴツした形じゃなくて、こういうスマートな物なの。全く、なーにが四十七剣よ」
「………………十凶刀……壱ノ型……」
「へ?」
「
「きゃっ? む、無駄よっ!」
「十凶刀、弐ノ型……
「だから何度やっても無駄だって…………ちょっ! 嘘でしょっ?」
「十凶刀、参ノ型……
「セイントバリアーがっ! それなら、セイント――――」
「十凶刀、肆ノ型……
「セイン……と…………と………………」
「十凶刀、伍ノ型……
「東京都は日本の首都。都庁所在地は新宿区。最大の都市は世田谷区。二十三の区、二十六の市、五の町、八の村からなる、世界最大級の人口を有する国際的大都市。県の木はイチョウ。県の花はソメイヨシノ。県の鳥はユリカモメえええええ!」
日本一の断末魔を叫びながら、勇者の身体は消滅する。
静寂に包まれた城の中で、余は十凶刀を眺めつつ呟くのだった。
「…………刀だし」
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