第6話、ジェットサイクロン

「魔王様。緊急事態につき、湯浴みの最中失礼致します」

「何事だ?」

「結界の管理人、ルルルールル・ルルルルルヴィッチ様が破れ、侵入者が玉座の間へと向かっております。こちらの映像をご覧くださいませ」


 コマが持ってきた監視用モンスター、目玉コウモリの眼球が水晶玉のように光り出す。

 そこに映し出されたのはビッチと、甲冑に身を包んだ四人の騎士達だった。




『クックック……これはこれはお揃いでようこそ。お集まりのところ悪いですが、この先に進みたいのならばこの邪神の力を従えし煉獄の使い手、ルルルールル・ルルルルルヴィッチことルルがお相手いたしまするる。さあ、刮目せよ愚か者共め! 天を焼き、地を燃やし、世界を破滅へと導く我が轟炎! 肉体はおろか、血の一滴すら残さず蒸発させてくれる! 火えぼばぁっ!』

『やかましい!』

『何だったんだコイツ?』

『放っておけ。行くぞ』




「…………わかった。コマよ、余が支度するまで時間を稼げ」

「承知いたしました」


 感情の起伏が少なく淡々とした口調の小間使いは、深々と一礼をした後で去っていく。

 せっかく禁断の石板の力を授けたというのに、アイツに与えたのは失敗だっただろうか。やられるにしても、せめて名前を最後まで言ってほしかったところだ。






『ようこそお越しくださいました。私は魔王様の小間使い、コマと申します』


 湯船から上がり準備を整えつつ目玉コウモリに命令すると、甲冑の騎士達と対峙するコマの姿が映し出される。


『ご安心くださいませ。私に敵意はございません。こうしてノコノコと現れたのは、単なるガイド役。魔王様の命により、皆様を魔王様の元へと案内させていただきます』

『…………いいだろう。案内しろ』

『罠かもしれないぞ?』

『安心しろって。こんな雑魚ばっかりの城なんだ。魔王の強さも知れてるぜ』

『それもそうだな』

『では、こちらへどうぞ』


 進行方向は玉座の間とは正反対。遠回りさせて時間を稼ぐ作戦だろう。

 しかし黙って聞いておれば調子に乗りおって。使うのは気が乗らぬが、余だけではなく部下までをも侮辱したことを魔王最強の四十七剣で後悔させてくれるわ。


『しかし侵略されたっていう西国は、こんな奴らに負けたのか?』

『東国も次々と勇者を送り出してはやられてるって噂だけどな』

『まあ魔王なんて、俺達南国に掛かれば余裕ってこった』

『どうせ名前だけの見かけ倒し野郎なんだろうな』

『命乞いしてきたらどうするよ?』

『『『ギャハハハハハハ!』』』

『……………………』


 主を侮辱する言葉の数々にも涼しい顔をして、眉一つ動かすことなく案内を続けるコマ。己の感情を殺してまで使命を全うする姿は、余の部下として賞賛に値する。


『それにしても魔王ってのは悪趣味だな』

『ああ。こんな汚くて薄気味悪い城、さっさとおさらばしようぜ』

『!』

『何つーか、空気が濁ってるっつーか、居心地悪いんだよな』

『よくこんな所に住んでられるよな』

『…………』


「む?」


 心なしかコマが拳を握り締め、プルプルと震えている気がする。

 不思議に思っていた瞬間、その姿がフッと消えた。


『ん? おい、どうしたんだ?』


 いきなり甲冑の騎士の一人が倒れる。

 瞬く間にコマは元の位置へと戻っていたが、この魔王の目は欺けはしない。まさかテレポートを使っての暗殺術とは、小間使いながら中々にやるではないか。


『――――』


 今度は別の場所にいた甲冑の騎士が倒れる。

 よく注意して見ると、コマはテレポートする直前に何かを呟いているようだ。






『…………クリアウィンド』






「嘘ぉっ!?」


 彼女がしていたのはテレポートなどではない。

 単に窓から窓へ、まるで掃除をするように素早く移動していただけだった。


『お前っ! 何をしたっ?』


 騎士の一人が異変を察知して叫ぶ。

 その背後に窓がある時点で、既に勝敗は決まっていた。


『クリアウィンド』

『なっ?』

『ジェットサイクロン!』

『うおおおおおおおおおおっ?』


「うそおおおおおおおおおっ?」


 コマの手から放たれた激しい竜巻が、倒れていた甲冑の騎士もろとも吹き飛ばす。

 三人の騎士はそのままダストシュートの中へと呑み込まれ、最後の一人も反撃の隙すら与えない閃光の一撃によって処理された。






『クアトロフォルマッジ!』






「何か普通に凄い技っぽいの出たぁっ!」

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