第153話 天に還る

 〜 レザムールズ領 東砦 〜


 もう夜だと言うのに東の空が真っ赤に染まっている。太陽が東の空に沈んで行くかの様だ。


 エドワード領が燃えている。


「急報!!エドワード領から救援要請! モンスターが領内に溢れ、住民達が逃げ惑っています!!」


 以前、東砦の防衛を担当していたフェンが駆けつけた。


「慌てないで! 砦の防衛を固めるのよ!!」


 スノウがフェンの元に駆けつけて来る。


「行くわよ! スノウ!」


 フェンはスノウに乗ると一気に東へ向かって行った。


 ギルド レザムールズのメンバーが東砦に集結した。


「門は開放維持! 緊急事態宣言! 総員配置につけ!!」


 ミンフィーが最大限の警戒を宣言した!!


「何が起こっているのかしら……」


「フェンとスノウが東へ急行しました!!」


「住民達を避難誘導してくるはず……」


「僕が救援に向かうよ」


「モッシュ……危険な任務よ」


「僕がレザムールズの盾役だよ。必ず守り切ってみせるさ」


「ペガサスで向かって……危なかったら逃げてね!」


「うん! 行ってくるよ!」


 僕はギルドハウスへ戻ってペガサスに乗った。そして、東に向かって飛び立った。

 すぐにフェンとスノウの姿を発見した。数十名がフェンとスノウに先導されて西へと走っている。


「フェン! 助けに来たよ!」


 スノウの横をペガサスが並走してくれている。


「敵は巨人族のサイクロプスよ! 普通のじゃないわ! アンデッド化していて倒せないわ!」


「試したのかい?」


「ええ! ダイヤモンドスターも倒せずに苦戦しているわ」


「とにかくこの人達だけでも助けないと……僕が最後尾を守るよ」


「分かった! 気をつけて!」


 ペガサスを降りて住民達の最後尾へついた。


「ペガサス、ミンフィーの所へ戻って」


 ペガサスは西へと飛んでいったよ。


「さてと……」


 全身が真っ黒で巨大な棍棒を持っている単眼の巨人がこちらに走ってくる。物凄い地響きだね。


「はーい! ここは僕が守るので慌てず避難して下さいね」


 一気に駆け出してサイクロプスゾンビをぶっ叩いた!


 サイクロプスゾンビは仰向けに倒れて動けなくなった。


「うーむ。本当に倒せないか…。まあいいや!」


 普通のサイクロプスならスペシャルダンジョンで何度も倒しているからね。


 コイツはBランクでは強い方だけど、もう楽勝さ!!


 サイクロプスゾンビを楽々とぶっ倒したのを見た住民達は落ち着きを取り戻した様だ。


 サイクロプスゾンビが起き上がってくるのでその度にぶっ叩いてあげた。


 他の所からドンドンとサイクロプスゾンビが集まってきたけど……


 相手にならないんだよね! バッタバッタと倒していく。


 少しずつ後退しながら倒していると……


「モッシュ!」


「ミンフィー! コイツは無敵状態だよ!」


 ペガサスに乗って駆けつけてくれたミンフィーが上空から僕が戦っている様子を見ている。


「モッシュ! ゆっくり砦まで退いて」


「何か手があるの?」


「ええ! 準備の時間を稼いで!」


「分かった!」


 サイクロプスゾンビ5体に囲まれながら、少しずつ後退する。どれだけ倒しても再生して起き上がるから厄介だ。


「武器だけでも壊しちゃおうか……」


 体は無理でも武器は壊せるはず! 武器に狙いを定めてカウンターで武器破壊を試みる。

 馬鹿みたいに振り回している棍棒をしっかりと見切ってぶっ叩いた! 棍棒に爆雷が炸裂して粉々になった!

 サイクロプスゾンビは武器での攻撃から足で踏みつける攻撃へと切り替えた。


 動きが読みやすくて単純だ。デカイだけだね!


 踏みつけようとする足の裏へカウンターをぶち込む!


 次々にサイクロプスゾンビは吹っ飛んでひっくり返る!


 パワーも僕の方が上。素早さは圧倒的に僕が上。


「話にならないけど無敵はズルいな……」


 東砦が近づいてきた。


 

 〜 レザムールズ領 東砦 〜


 東砦には魔力が高い者達が集められていた。


 東砦に居る者達からモッシュが1人で5体のサイクロプスゾンビをぶっ倒しまくっているのが見える。


「何だアレ! つえぇーーーー!!」


「嘘だろ? サイクロプス5体を1人で止めるか?」


 モッシュの現在の実力を知る者は少ない。戦う光景を呆然と眺めている。


「アレが同じBランクの冒険者か?」


 全てのスキルを鍛え抜いているモッシュはAランク相当の力を有しているようだ。

 

「ただのサイクロプスではないわ。死霊使いね」

 

 ミンフィーは栞にそう告げた。


「では……あれは……」


「死んだ人間の魂を魔石に憑依させるのが死霊使い。あのサイクロプスは元人間の可能性が高いわ」


「死霊使いなら術者を倒すまでゾンビは倒せません」


「ええ。通常の方法ならね。一気に浄化して再生の暇を与えない方法なら可能性はあるわ」


 モンスターは死んだら魔石になる。魔石なったモンスターを蘇らせる事は出来ない。それを死者の霊を用いる事で可能にするのが死霊使いだ。

 その手法から最悪の部類の敵とされる。使う魔石は人型のモンスターの物の方が霊との融合がさせやすく、死霊化の成功率を高めるとされている。



「これより浄化の儀を行います」


 栞は司祭の服を纏って正装している。アイリスが精霊の笛を構えた。


 ギルド レザムールズのメンバーや冒険者だけではなくダークエルフ族を筆頭に魔力が高い者達が配置についている。

 ミシェル、スカーレットの姿もある。


「モッシュは私よりかなり強そうね」


 隣りにいるミシェルにスカーレットが話しかけた。


「あの動きはBランクを軽く超えていますね……Aランク上位くらいに見えます」


 まだ余力がある様にも見える。Aランクも超えているのかもしれないとミシェルは思った。


「おこぼれでBランクになった訳では無かったのね」


 スカーレットは初心者の頃のモッシュしか知らない。


「モッシュさんはひたすら研鑽を積んでいます。見ての通りですね」


「一流の武人の動きね。でもリュックサックを背負っている意味が分からない」


「トレードマークですから」


 栞の舞が始まった。巨大な魔法陣が展開され、幻想的な雰囲気に周囲が包まれていく。

 アイリスの笛の音が響き渡り、皆の精神を集中させ高めていく。


 暴れ回っていたサイクロプスゾンビの動きが鈍くなってきた。立ち止まっている敵もいる。


 サイクロプスゾンビ達から白く光り輝く粒子が夜空に向かって登っていく。


 舞は続く。


 やがてサイクロプスゾンビは浄化されその姿を消した。


 それを確認した栞は舞を終了した。


「安らかに眠って下さい……」


 全ての者が栞と共に死者の霊を弔った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る