第152話 増し増しに挑戦するお嬢様

 〜 小都市 シャングリラ 居住区 〜


 都市開発が進み人々暮らしが安定し始めると、みんな娯楽を求める様になった。本屋やパクパクグルメランドは辺境地で暮らす者にとって数少ない楽しみである。


 そこに大人の楽しみが増える。


 シャバニのカジノがオープンの日を迎えた。


 このカジノは王都や大都市の様に24時間営業ではない。


 夕方5時から夜11時までの営業時間だ。



 さっそく僕も行ってみたけどボロ負けした……

 一緒に行ったミンフィーはボロ儲け……


 やったのはポーカーって種類のトランプゲームだ。


 どうも僕は顔に出るらしくバレバレなんだってさ


「もう行かないよ……」


「楽しかったわ。そんな事言わないでまた行きましょうよ」


 ミンフィーはかなりご機嫌みたいだよ。パクパクグルメランドでラーメンを奢ってくれた。


「はい! 塩バターラーメンのトッピング全部乗せね!」


 店員が元気一杯にラーメンを渡してくる……何でこんなに元気があるのか分からない。


 作る時も無駄に気合いを入れているし……


「ヤァーーーー!!」


 あんな掛け声いるのかな……


 負けると何もかも嫌な気分になるんだね……


「はい! 豚骨醤油ラーメンの野菜増し増しね!」


 ミンフィーの頼んだラーメン、野菜の量が多すぎ!!


「コレ多すぎない? 山みたいになっているよ?」


「これくらい余裕よ? 10倍増しまであるんですって」


 とか言いつつ食べ終わったミンフィーは苦しそうだ。


「大丈夫? 苦しそうだけど?」


「美味しくて、つい汁まで飲んじゃったわ……」


「ははは! 確かに美味しかったね!」


 美味しい物は人を笑顔するね!!


「明日はダンジョンに行ってダイエットしないと……」


「いいね! 久しぶりに2人で挑戦してみようよ!」


 聖心教会がエドワード領に来る事をずっと気にして悩んでいたミンフィー。らしくない言動もあったけど今なら納得できる気がする。


 大丈夫! 僕がついているよ!!




 小都市シャングリラが明るい希望の満ちた都市へと発展していく一方で……



 どこまでも暗い闇の中を1匹の猫が歩いていく。スルスルと障害物をすり抜ける様にその猫は進む。そして、何かを探す様にキョロキョロと目を動かし、進む方向を変えた。


 たどり着いたのは豪華な屋敷の前。


 以前は多くの人が出入りしていたその屋敷。


 今、住んでいるのは2人だけ。


 厳重に警備されていても猫は容易く中に入る事が出来た。


 理由は簡単。


 招かれているから。


 この建物に暮らす者が猫を呼んでいる。


「何で私達がこんな目に合わないければならないの!」


 決して乱れる事のなかった自慢のドリルはボサボサだ。


「娘よ……あのSクラスギルドが負けたらこうなった。しかも、今度は王命を受けて狂信者共と乗り込んで来たのだ!」


「わざと負けたのね……私達の領地を乗っ取る為に!!」


 猫は何事も無い様に屋敷の中に入っていく。


「次に来たギルドは楽々とダンジョンを攻略しましたわ。罠よ! これは絶対に罠よ! お父様! 国に訴え出ましょう!」


「もう遅いのだ……実権は全て狂信者共に奪われた。聞けば隣りのレザムールズ領も似た様に住む所を奪われて移り住んで来たそうだ」


 猫は音も立てずに部屋の中へ入っていく。


「私達も何処かに飛ばされるのですか! 嫌ですわ! ここより田舎なんて!!」


「何処にも行けないのだ……一生この屋敷から出れないと言う事だ……」


「嫌よ! 誰か! 誰か居ないの?」




「  ニャー   」




 灰色の猫がテーブルの上で優雅に座っている。


 特徴的な『カギシッポ』を自慢する様に振っていた。


「な! コイツ! 何処から入って来たんだ!」


「チカラヲ アゲヨウカ?」


「ま、魔猫ね……力をくれるの?」


 猫がスッと手を前に伸ばした……


「チカラヲ アゲヨウカ?」


「だ、駄目だ! エリザベート! その魔猫はゴラスの魔猫だぞ! 誘惑に乗るな!」


「ゴラス帝国の魔猫は黒猫のはず。この魔猫は違うわ」


「チカラハ イラナイ?」


「欲しいわ! 誰にも邪魔されない力が欲しいわ!」


 エリザベートが猫に額を差し出した。


『 死へのいざない 』


 猫がペタッとエリザベートの額に触れた。


 大量の魔力がエリザベートの体へと流れ混んでいく。


 エリザベートの額に小さな赤い肉球マークが刻まれた。


 その手には禍々しい大鎌が握られている。


「これでアイツらを倒せるのね?」


「ムリ モット チカラヲ アゲヨウカ?」


「エリザベート!! やめるのだ! 人ではなくなるぞ!」


 父親の必死の呼びかけに娘は……


 シュッ……


 エドワード伯爵は無言になった。もう喋る事は出来ない。


「欲しい……欲しい! もっと欲しいぃぃぃ!!!」


「ドレクライ?」


「倍! 倍! もっともっとよ!」


「シヌカモ」


「いいわ! 死んでもいいわ! 欲しい! 欲しいぃぃ!」


 猫は知っている。


 人の欲望に際限が無い事を。


「10バイ タエタラ ムリョウ」


「10倍でいいぃぃ! 10倍欲しいぃぃぃぃ!!!」


 猫が再びエリザベートの額にペタッと触れた。


『 死界へのいざない 』


「ウギャャャャャャャャーーーーーー!!」


 エリザベートは頭を抱えて転げ回っている。


 猫はその様子には無関心で自分の手をペロペロ舐める。


 やがてエリザベートは何事も無かった様に立ち上がった。


 エリザベートの額に黒い肉球マークが刻まれた。


「力が溢れている。最高の気分ね」


「ヒメサマ キュウデンニ キテ」


 猫はスッと立ち上がってゆっくりと伸びをした。


 すると猫の目の前に不思議な水の塊が浮かんだ。


「姫? 行ってもいいけど皆殺しが先よ」


「マダムリ キタエル」


「聞きましたお父様?」


「…………」


「行きたくない様ですわね。ではここを守って頂きますわ」


 エドワード伯爵だった体が起き上がった。


「死霊騎士デュラハン、ここを任せるわ。でも……1人で大丈夫かしら?」


「コノチデ クルシンデ シンダモノガ カレヲマモル」


「あら大変ですお父様! とても数えきれませんわ!」


 猫は床に転がっている頭の額にペタッと触れた。


『 冥界へのいざない 』


 猫がそう口にした瞬間に宙に浮かんでいた水の塊が変化し始め、何も言わなくなった伯爵の口に流れ込んでいく。


 その時エドワード領に新たなダンジョンが発生した。

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