第148話 もう遅い

 〜 ギルド インスパイア ハウス 〜


 新加入の2人は仲が良いみたい。ちょっとホッとしたよ。ミンフィーとスカーレットの間にはずっと微妙な空気が漂っているんだよね……


 シャバニさんから女同士の争いには巻き込まれるなってアドバイスを貰った。関わらない方が無難かな。


 僕はギルド運営に関して重要な判断が求められていた。


『 初心者にいつまで素材を無料提供するか 』


 僕は出来る限り無料で材料を提供したいと考えていた。


 でも、ミンフィーに止められた。


「それでは本人の為にならないわ」


「うーん……素材の調達も職人にとって大事だしね」


「そう。明確な期限を設けるべきよ」


「スカーレットとミーシャにも相談して決めるよ」


 スカーレットは冒険者としてお金を得る事が出来る。一方でミーシャはそれが出来ない。


 人によってルールを変えるのもおかしいな……


 ミーシャは大人に負けたくないという想いが強そうだ。スカーレットと同じでいいと言うだろう。


 スカーレットはすぐにでも自力で調達すると言いそうだ。


 1年……長いか……半年位かな……


 2人と相談して見習い期間は3ヶ月。半年まで延長出来るけど延長期間は素材は有料と決めた。


 ミンフィーは甘いと言うけど了承してくれた。


「生産ギルドの弟子達は無給が当たり前よ。ギルドマスターとして赤字にならない様に考えてね」


 スカーレットは屋上で薬草栽培を始めた。自宅から通っているミーシャは家で栽培を始めたそうだ。



「見習い期間中に出来るだけ色んな事をやってみて」


「うん! 分かってるって。私はね〜 ちょ〜可愛い物を作っていこうと思っているの」


「可愛い物?」


「そう! これを見て」


 ミーシャは骨の指輪を嬉しそうに渡してきた。


「可愛いらしい猫が彫ってあるね」


「そう! お洒落なのはあるけど可愛いのは無いから」


 確かに……でも買う人いるかなコレ……


「売れる物を作るのも大事だからね」


「そう! このまま売るのは無理! だからもっともっと可愛いくする技術がいるの!」


 もっと可愛いくしちゃうの? もっと売れないよ……


「スカーレットさんは? 何の職人になるんですか?」


 いつの間にかスカーレットだけ「さん」付けになってる。


「私はこの銅の延棒を正しく作る職人」


 堅実過ぎる……とてもとても堅実だよ。


「もう! それじゃあ生活できないですよ〜 消耗品や需要の高い物を作っていかないと!」


「ミーシャは良く考えている。覚えておくよ。ありがとね」


「ちゃんとギルド協会に行って調べてあるんだ〜」


 ミーシャはとても得意げに言っているけど、スカーレットもその事は当然分かっている。


『 ミーシャを見守っているんだ 』


 スカーレットは色んな面でミーシャに良い影響を与えて始めている。


 2人は夕方になると1日の作業を終え、作業場をきっちりと清掃し、作業道具や設備もピカピカにする。

 

 これだけでも整理整頓や物を大事にする大切さが自然と身に付いてきた。それが素材を丁寧に扱う事、節約する事にまで考えが至る様になってきたんだ。


 スカーレットが当たり前にやるからミーシャも一緒にやる様になったみたいだ。

 僕もその様子を見て影響を受けている。以前よりいろんな事を丁寧にやる様になってきたんだよね。


 ちょっと時間は掛かるけどなんかいいんだ。


 彼女を利用するのは無理だ。


 自分をしっかりと持っている。


 ここに来た時とは明らかに違う。


 日毎に自分を取り戻しているようだ。


 スカーレットは大丈夫だろうな。


 逆に心配なのはミンフィーの方だ。あんな事を言うなんてなんだかミンフィーらしくない。

 領地運営で悩みがあるのかな。何か上手くいかない事があるなら相談してくれればいいのに。

 

 多分、僕では力になれない事なんだろうな……


 もっともっと頑張ってミンフィーを助けないと!


 

 〜 聖都 セントフォース 〜


 大聖女を擁するギルド ダイヤモンドスターの敗走は聖都に大きな衝撃を与えた。

 都市で暮らす人々の間で様々な憶測が飛び交っていた。ギルドマスターの交代やエリートばかり寄せ集めたから連携不足だと嘲笑混じりで好き勝手に言う者が大勢いた。

 そんな中、火に油を注ぐ様なニュースが飛び込んできた。


 辺境領 エドワード領において、西の魔女のダンジョンをギルド フラッグシップが半日で壊滅させた。


「おい、聞いたか例の話」


「ああ……楽勝だったって話だぜ?」


「らしいな。おかしくないか?」


「何がだよ?」


「これは噂なんだが……大聖女は偽者だって話だぜ?」


「おい……ヤバいって……」


「本当に大聖女が居るギルドなら簡単に負けないだろう?」


「まあ確かにな……」


 聖都を蝕む様に噂は広まっていった。すぐにその噂は周辺都市へ様々な誇張が付け加わえられて伝播していく。


 王都に噂が流れた時には聞くに耐えない話になっていた。


 急速に力を増した聖心教会はたった1度の敗戦によって窮地に追い込まれたのである。

 聖心教会はエドワード領の荒廃が原因で苦戦したが大半の魔物は駆除したと主張した。


『ギルドフラッグシップは漁夫の利を得ただけ』


 そう主張したのだ。


 ギルド フラッグシップはその主張に対して否定も肯定もしなかった。全くの無言を貫いた。


 国の命令に従って実績を残したギルドまで巻き込み、自らの正当性ばかりを主張する教会の話を聞く者は居なかった。



『 大聖女は実績を残す必要がある 』



 聖都セントフォース及び聖心教会に西の魔女討伐の密命が下されたのだった。

 

 表向きの命令は……


『 荒廃したエドワード領を復興・発展させよ 』


 

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