第147話 初めの一歩

 〜 ギルド インスパイア ハウス 〜


 やっと職人として最初の一歩を踏み出す日がきたわ!


「ミーシャで〜す。よろしくお願いしま〜す」


 交流施設とは比べ物にならない最新設備がここにはある。


 超興奮しちゃう〜


「ギルドマスターのモッシュです。一緒に頑張ろうね」


 おサボりのモッシュがマスターだからあっという間に追い抜いて、私がここのギルドマスターになっちゃうかも!


「スカーレットよ。生産職は経験が無いから今日から頑張るわ。職人としてはあなたの方が先輩って事。よろしくね」


 中々の美人だわ。多分、メンバーを美人ばかりにするつもりね。『ハーレム』とかいうらしいわ。


「それとミンフィーが事務員をしているよ」


 事務員のミンフィーは領主様だから態度に注意する様に耳が痛くなるくらい言われた。今日は居ないみたいね。


「ちょうど昨日、初心者向けの素材を集めてきたんだ。遠慮なく使ってくれていいよ」


 作業場の隅にある材料置き場に様々な素材が置いてある。


 これを自由に使えるなんて凄いわ!!


「僕は骨細工が得意だよ。ミンフィーは裁縫、錬金、調理、園芸が出来るから質問していいってさ」


 ムム……事務員、女子力高いじゃん!!


「質問! モッシュは今、何に取り組んでいるの?」


「ここの家具に取り付ける装飾品を作っているよ」


 テーブルとかの飾りか〜 お洒落ね!


「質問! 2人は付き合っているの?」


「え!? 僕とスカーレットがかい?」


「誰も入会しないから彼女を入会させたんじゃないかなと思って」


「ち、違うよ。募集を見て応募してくれたんだよ。知り合いだけどさ……」


「でも、そうならないとは限らないわよ。フフフ」


 大人の余裕ってヤツね! 負けないんだから!


「って事はギルド内恋愛OKって事ね?」


 これはちゃんと確認しておかないとね!!


「も、もちろんだよ。逆に駄目な所ってあるのかな……」


「結構あるわよ? トラブルの原因になるから。前の所は禁止だったわ」


 スカーレットは元冒険者みたいね。しかし、モッシュは何も知らないのね。こんなの常識よ? お子様なんだから!


「最初は練習するついでに簡単なクエストを消化したらいいかな。お金も入ってくるよ」


 職人は自分で稼がないとね! 私はギルド協会から生産者カードが支給されたから、ちゃんとした職人として活動出来るのよ。


「私はポーションを作る事にしているの。職人訓練学校で習ったから作れるし」


 下調べもバッチリなんだから! 初心者向けなのに報酬もいいの!


「いいね。移住者が増えて需要が高まっているよ。薬草は屋上にあるから。ミンフィーが育ててくれているよ。分からない事は本を見るといいかな」


 バンバン作って、ガンガン儲けて、ドンドン上手くなるんだから!!


「私はまず本を読むわ」


 ふーん……スカーレットは本当に出来ないんだ。


「談話室の本は自由に見ていいよ。でも書き込みとかはしないでね」


「そうよね……書き込みたいから、この誰でもシリーズを買ってくるわ」


「本屋に売っているよ。もっと高度な本はギルド協会の図書室にあるから」


 本なんかより実際やってみた方がいいのに。


 結局、スカーレットは何にも作らないで3日も本を読んでいたわ。頭がガチガチみたいね! 


 3日目で私と同じポーションをやっと作ったわ。


「どうもこの本とやってみた感じが違うわ」


「うん。誰でもシリーズは要点だけを分かりやすく書いてあるんだ。ギルド協会の本は逆に細かい部分まで詳しく書かれているよ。でも高度過ぎて理解するのが難しいんだ」


「中間は無いのね?」


「ここの本屋には無いよ。僕は誰でもシリーズで学んで、後は実践しながら修正しているよ」


 スカーレットはギルド協会へ行ってしまったわ。


「モッシュあれじゃあ全然進まないわよ?」


「学び方は人それぞれさ。彼女は伸びるよ。大丈夫」


「そうかな〜 まあいいけど〜」


「それより君のポーションは品質が安定していないよ?」


「う〜ん。ちゃんとやってるのに何でだろう?」


「自分で考えみて。一流の職人は良い品質で安定した生産するって訓練学校でも習ったよね?」


 そんなの分かってるんだけどさ〜 何個も同じポーションを作っていると飽きちゃうんだよね〜 多分、集中が切れちゃうのかなってね。


 1週間後、私はスカーレットに完全抜かれてしまった……


 彼女は完璧な品質のポーションを私よりも素早く作れる。


 私の作るポーションはまだ品質が安定しない。


「どうして……全然分からないよ……」


 超一流を目指していたのにポーションもまともに作れないなんて……


「私の本を見せてあげようか?」


「うん……」


 スカーレットが誰でもシリーズのポーションの作り方のページを見せてくれた。ぎっしりと書き込みがしてある。

 作っている時に自分が感じた事とか設備の事、材料の事まで書いてある。


「ポーションだけでこんなに書く事があるなんて……」


「フフフ。真面目過ぎると昔から言われているから。ポーションは錬金術の基本が詰まっている」


 ずっと書き込み読んでいくと……


「材料かしら……計量が雑なのかも、それか加工時間……」


「その辺ね。ミンフィーの薬草は品質が揃えてあるわ。私達が訓練しやすい様にしてあるのよ。だからバラツキは私達の何かに原因があると考えた方がいいわ」


 みんな鑑定スキルを持っているのに私には無い……


 ポーションの品質がバラついているのが分からないよ。


 それも悔しい……


 丁寧に時間をかけて材料を計量して、時間も正確に作業して10個、ポーションを作った。


 スカーレットが鑑定してくれる。


「全部ノーマル品質ね。出来たじゃない」


「私……早くやろうと思って雑に作業してたのね」


「それに気付いて修正したならあなたは成長したと言う事」


「成長?」


「みんな失敗しながら成長していくわ。私も同じよ」


 私は訓練学校でいろんな先生から学んだのに実践で活かす事が出来なかった。

 

 みんな基本を大事にって言っていたわ……


 次に同じミスをしない事! それが大事だわ!!


「スカーレットさん、ありがとうございました!」


「フフフ。お互い助け合っていい職人になりましょう」


「はい! 頑張ります!!」


 私! 頑張れそうだよ!!

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