第146話 祈らなかった日

 〜 ギルド インスパイア ハウス 〜


 ここはどこ? なぜこんな所に居るの?


 ……そうだ……そうだった……もう何も無いんだ。


 何時だろう……窓から外を眺めると日が高い。


 寝坊なんて初めてした。


 朝起きて、掃除をし、身を清め、神に祈る。


 物心ついた時からずっとやってきた。やるのが当たり前だと思っていた。


 水を飲みにキッチンに行くとテーブルの上にサンドイッチが置いてあった。



 よかったら食べて下さい。今日はダンジョンに行ってききます。    モッシュ




 小さな書き置きがあった。ちょうどお腹が減っていた。


「美味しいな……」


 とびきり美味しいサーモンと野菜のサンドイッチだった。

 

 とりあえず教会に行こう。教会の有無は何処に行く時でも確認する。辺境地なので心配したけど小さな教会があって少しホッとした。

 教会に行くと隣りの病院で治療師達が慌しく走り回っていた。


「どうかしたの?」


「今日は治療師の数が少なくて。栞さんも居ないので」


 あのヒーラーはここでも働いているのか。今日はモッシュと一緒にダンジョンに行って居ないのか。


「私もやろう。Bランクまでの治療魔法が使える」


「あ、ありがとうございます! 助かります!」


 次々に患者が来る。どんどん治療していく。


「んん? 会計はいいのかしら?」


「え!? ああ! ここはタダです」


 ここは聖心教会の横にある。どう考えても聖心病院だ。


 高額の請求しているのを見るのが嫌だった。


「薬だけはお金を貰っていました。今はタダです。移住者の方はお金を持っていないので」


 ここの治療師はみんな冒険者でクエストを受け、ここに来たそうだ。


「ボランティアは認められないので後で報酬をお渡ししますね」


「ボランティアは駄目なの?」


「はい。お金を貰って、使って欲しいそうです」


 経済の為って事か……領主があのミンフィーだからな。


 聖心教の崇高な考えを理解していない。


 これだから現実主義は嫌いだ……


 でも、今の聖心教は……治療師はボランティアだけど教会は多額の報酬を受け取っている……


「こっちの方がマシか……」


 ミンフィーらしい現実的な政策だ。ここで働いている者達は聖心教徒にも見えない。冒険者の装備で治療している。

 

 司祭のローブを着た女性が走ってきた。


「あら? 片付いているわね?」


「はい。こちらの方が手伝ってくれましたので」


「ありがとうございます。あれ? スカーレットさん?」


「お久しぶりね。パーティーは終わった?」


「パーティー? もうほとんどパーティーは行けて無いんです。孤児院の方が大変で」


 孤児の数が急増したらしい。聞けば聞くほど酷い話だ。スラム街に居た孤児を貧民の家族と偽らせて無理矢理、移民させたみたいだ。


 栞さんと話した事はあまり無いけど教会でよく見かけた。


「栞さん、今日の報酬です。貴女も。助かりました」


 短時間のクエストにしては多いな……袋に見るからに多いゴールドが入っていた。


「パーティー参加を中止している補償が含まれているので多めです。お金を受け取るのは嫌ですか?」


 どうも栞さんもお金を受け取るのは嫌みたいだ。


「ええ……でもここのルールに従うわ」


「簡単な解決策があるんですよ。ふふふ」


 そう言ってパクパクグルメランドへ連れて来られた。


 ここで全部使ってしまうつもりか……まあ悪くないけど。


「お! 栞ちゃん、もう出来ているよ!」


 パクパクグルメランドの入口に荷車が置いてあり大量の料理が載せてあった。

 出迎えた男に栞さんが代金を払っている。


「毎度あり〜〜!!」


「明日もよろしくお願いしますね」


「はいよ!!」


「ここでテイクアウトしてみんなで食事会をするんですよ」


 向かった先は孤児院だった。子供達が集まって来て食事を受け取っている。


「いただきま〜す」


「貰ったお金をどう使うかは自由です」


 美味しそうに子供達が食事しているけど……


「お祈りはしないのね」


「私は祈ります。子供達は自由です」


 子供達に強要はしないという事か。


「……私のお金も使って下さい」


 ここに寄付すれば少しは足しになる。


 しかし、彼女は首を横に振った。


「寄付は受け付けていません。ここは私の自由です。それは貴女の自由の為のお金です。貴女が貴女の自由の為に使って下さい」


 私の自由? 私は何をすればいい?


 今は何も思い付かない。


「……では、せめてお手伝いだけでも……」


「ええ、それは自由です。いつでもいらして下さい」


 しばらく子供達と栞さんを眺めていた。


 とても輝いていて眩しいくらい……


 私もあんな風に輝く事が出来るのだろうか?


 私の自由……私は私の道を進む。


 もう決して道を間違わない。


 もう決して自分を偽らない。


 もう決して人々を苦しめない。


 『 私の正義を生きよう 』


 心を静めて神に誓いを立てた。



 まずレザムールズ領を、小都市シャングリラをもっとよく知らないと……

 モッシュに見に行く様に進められた生産ギルドを見学した。あまり生産職の事は知らないけど皆、真剣に作業している。かなり活気があるみたいね。


 それから、交流施設を訪れた。様々な職人達が情報交換したり作業をする場所らしい。子供まで作業している。


「作業は楽しい?」


「…………」


 もの凄い集中! 全く聞こえてないみたい。

 骨の指輪を上手に削っている。大したものね。感心して眺めていると……出来上がったみたい。


「職人を目指しているの?」


「うん! 私はギルド インスパイアに入るの!」


「え!? あそこは誰でも入れるわよ?」


 年齢制限は無かったはず。


「親の承認がいるのよね〜 大人がハウスにほとんど居ないから駄目だって反対なの。モッシュがサボりすぎ!」


「それなら私がメンバーになったから大丈夫よ」


「本当!? キターーー!!」

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