第145話 可能性

 〜 ギルド インスパイア ハウス 〜


 厨房の使い方をスカーレットに説明した。


「厨房も本格的」


「調理師を目指す人が来るかもしれないからね」


 ここで昼食を作る時もあるから道具や調味料は揃っている。本に書いてあるレシピを作っているよ。


 ハウスは2階建て。お風呂、トイレ、キッチン完備だ。屋上は物干し場と園芸スペースになっている。

 その他に事務所と談話室がある。


 最新設備の整った作業場が1番の自慢だね!


 作業場を説明していたら玄関からシャバニさんが入って来た。


「確認しに来た」


「確認? 何をですか?」


「お前じゃない。スカーレットだ」


 シャバニさんの雰囲気がいつもと違う。どこか冷たい感じがする……


「何かしら?」


「セントフォースの店は何が問題だ?」


 あの店に問題なんてあるの? ちゃんとやってるよ?


 恐ろしく長い沈黙が続く。


「……あなた、転生者だったわね」


 2人の間に物凄い緊張感が漂う……息が詰まりそうだ。


「…………経営者よ。知ってるのでしょ?」


「お前を確認したんだ。……頑張れよ」


 それだけ言ってシャバニさんは帰っていった。


「僕は健全な経営をしているよ!? 絶対に!」


「……問題はあなたが聖心教徒では無いという事。さっきの男はそれを知っている。多分、私があなたの店を守っていたのも」


「え……そんな……」


「経営者を店員の誰かに変える。それが唯一の存続方法」


 あの店は僕にとって大事な店。その経営権を手放す?


 考えられないよ……


「とても良い店員達だわ。もう守れないけど……」


 あの店はそんなに危険な状況だったのか……スカーレットの話や表情を見ていると本当みたいだ。


「僕は何も知らなかった……経営者失格だね」


「知らない方がいい事もある」


 僕は物事の裏側が見えないみたいだ。なぜ僕の店を問題視するのか全く分からない。

 店員達も問題があるなんて思っていないはず。分かっていれば必ず相談してくるはずだ。

 

 なぜ自分達と違うからと排除するのだろう?


 なにも迷惑をかけていないよ?


 納得するのは無理だ。


 でも……僕には店員達の生活を守る責任がある。僕の意地で店員達を苦しめるわけにはいかない。

 僕はもう知ってしまったのだから。


 動かなないと……


「ギルド協会に行ってくるよ……何かあったらミンフィーに聞いてね……」


「すまない……」


 スカーレットは本当に申し訳なさそうだ。その顔からは悔しさが滲み出ている。


「君は悪くないよ。教えてくれてありがとう」


 スカーレットがあの店を守ってくれていた。それだけが僕には救いだった。


 ギルド協会に行って経営者の変更手続きをした。


 これであの店が存続出来ればいいのだけど……


 今から修羅場の食事会だと思うと足取りは更に重くなる。


 帰ると2人は談話室で楽しそうに談笑していた。


 あれ? 案外、仲がいいのかな?


「楽しそうだね」


「「 全然 」」


 ううう……確かに楽しそうだったのに……


 パクパクグルメランドに行き、スカーレットのオススメ店をはしごして行く。

 

「ミンフィー、もっと飲みなさい!」


 スカーレットは結構、酔っている。

 パクパクグルメランドには顔見知りの冒険者たちが沢山遊びに来ていた。一緒になって楽しく食事が出来たよ。


 クルミがあちこちで食べ歩いている姿もあった。ポラリスカンパニーの従業員達も来ていた。


「ここは賑やかだな〜 スカーレットがこんな所が好きなんてね」


「う〜ん……今日だけ……今日だけもっと飲ませて……」


 スカーレットは酔い潰れて寝てしまった。


「飲み過ぎね……送ってあげて」


 スカーレットを背負ってギルドハウスに戻り、ベットに寝かせてあげた。


「パクパクグルメランドを侮っていたよ。レストランの強力なライバルだね。あんなに人がいるなんて」


「そうでもないわ。しっかり棲み分けすればいいのよ。ちょっと贅沢なレストラン。安くて楽しいパクパクグルメランドって感じね」


 楽しかったな〜 また行きたくなるのは重要だ。さすがシャバニさんのプロデュースだ。

 

「モッシュ、スカーレットの加入はとても大きな事よ」


「うん。1人増えただけでも嬉しいよ」


「そう言う意味ではないわ。彼女は幹部候補生よ」


「でも、戦う気はあまり無いみたいだけど?」


「幹部候補生にはギルドを率いていく何かがあるわ」


「ミンフィーの『酔拳』みたいに?」


「そう。決して隠されたスキル内容は明かさないけど色んな人がスキルの恩恵を受けているのよ」


 じゃあ僕達もミンフィーの影響化にあったって事か……


「彼女のスキル名は『正義の守り』よ」


「どう考えても盾役だね」


「表向きはね。でも隠し効果は必ずあるわ」


 ミンフィーは酔う事で効果が出るなら、スカーレットは守る事かな?


「普通に考えれば守ると効果を発揮するって事だね」


「そうね。彼女が守った者に良い影響が出ている可能性が高いわ。正義の方にも何かありそうだわ」


「それなら何でダイヤモンドスターはスカーレットをクビにしたんだろう? 必要じゃない?」


 良い影響があるなら居てくれた方がいいよね。


「長く一緒にいるとどんなスキルなのか分かってしまう事があるわ。もう必要無いと思われたのね」


「スキルを隠すのは色んな意味があったんだね」


「彼女を利用して」


 そう言われてもな……何か嫌な感じだよね。


「彼女は明らかにドン底よ。このギルドに再起を賭けている。あなたが彼女の力を引き出す事で彼女は輝くわ」


 スカーレットは僕のギルドを選んでくれた。彼女はこのギルドに活路を求めているって事か……

 

「スカーレットを輝かせるのは僕の責任って事だね」


「もっと大きく考えて。今のあなたなら分かるはず」


 もっと大きく……スカーレットを輝かせ、ギルドを発展させ、レザムールズ領に貢献する……


「ここで暮らす全ての人達の為に! エストアール王国、更に世界の為!!」


「そうよ! あなたは大きな責任を負ったわ! スカーレットだけじゃなく、みんなの才能を活かして未来を築くの。それが私とあなたの為になる。本当の最強ギルドが完成するの! スカーレットにレザムールズ領を守ってもらう様に導くのはあなたにしか出来無いわ」


 スカーレットがレザムールズ領を守ってくれたら……


 レザムールズ領が素晴らしい領地だとみんながミンフィーを褒め称えたら……


 とんでもない可能性を秘めている事になる!!

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