第142話 謀略の極み

 〜 小都市 シャングリラ レストラン 〜


 レストラン ポラリスで懇親会が行われていた。


 アイリスが紹介されてピアノの演奏が始まった。今日は立食形式でのパーティーだ。

 気軽に話せるからいいな。さすがポンテ君だ。


「素晴らしい演奏ね。それに凄い美人だわ」


「初めてピアノを聴いたけどいいね」


 アイリスは素敵な赤色のドレスを着て演奏している。シャバニさんがくれたそうだ。


 演奏がパーティーに彩りを添える。


 一旦、演奏が止まって表彰式の時間だ。


 ポンテ君が仮設の舞台に上がった。


「この場を借りまして最優秀店舗の表彰を行います」


 みんな知らさせていない事だ。僕とポンテ君だけが知っている。


 僕も舞台に上がったよ。


「最優秀店舗は女騎士専用装備で圧倒的な実績を叩き出したレザムールズ アンテナショップの皆さんです」


 盛大な拍手が起こった。あの売れないと思われた女騎士専用装備を売った店員達に注目が集まった。


「凄いよな」


「どんな人達なんだろう?」


 レザムールズ領で働いている人達はほとんどアンテナショップの店員達を知らないからね。


「さあアンテナショップの皆さん舞台の上へ」


 店員達が恥ずかしそうに舞台へ上がってきた。


「今日は遠くから来てくれてありがとう。正直に言うとアレが売れるとは思っていなかったんだ。開発者の熱意を君達がしっかりとお客様に伝えてくれたから売れたのだと思う。各員に表彰状と特別ボーナスを授与します。これからもポラリスカンパニーの為に頑張って下さい」


 アイリスの演奏と共に授与が行われた。


「さあ、今日は楽しもう。そしてまた頑張ろう!!」


 パーティーが再開された。表彰された店員達はどうやって売ったのか質問攻めにされている。


「どんな風に販売したんですか?」


「まず、聖都でも指折りの美人騎士に装備してもらったの」


「「おお! それで?」」


「その人が装備して戦ってくれるだけで、あの人と同じ鎧が欲しいって問い合わせが殺到したんです」


「「なるほど!その人の名前は?」」


「スカーレットさんと言う常連さんです」


 むむ。そうだったのか……それは知らなかった。


 スカーレットさんのおかげなのか。


「ポンテ君は知ってた?」


「知りませんでした。でもありそうなパターンです。憧れの人と同じ物を使いたい気持ちは分かります」


 本当はポンテ君も表彰したかったんだけど、裏方に徹したいと辞退されたんだ。熱い男は違うよね。


「モッシュ、笛も演っていいかしら?」


「いいよ。どうしたの?」


「何故か笛を吹いてみたくなったのよ……不思議ね」


 アイリスはそんなに練習していないと言いながら素敵な演奏をしてくれた。


「何だろう……この笛の音色は……」


「素敵……」


 そよ風が吹いて森の香りする。


 演奏が終わるとしばらくみんな呆然としていた。


「アイリスさんと言いましたね。素晴らしい逸材です」


 ポンテ君が熱く語りかけてきた。


 専属契約をしてあるからね。


 ここで演奏会メインでやるのもいいな。


 もうポンテ君に任せちゃおう!



 〜 王都 ギルド フラッグシップ ハウス 〜


 勇者オルフレッドの元に冒険者ギルド協会からクエストの依頼があった。辺境領 エドワード領内のダンジョン攻略の依頼だった。


「どうしたものかな……」


 レザムールズが何かの形で絡んでいる気がする。関わらない方が無難だが……


「ダイヤモンドスターがクエストを受けたそうだ」


 シーフ ルイーズがそう言うとオルフレッドは即決した。


「受けない。他に任せる」


 ギルド協会からの直接依頼を断ると印象が悪くなる。Sランクギルドに頼るのは余程の案件だから尚更だ。


「死地に向かう必要は無い」


 ルイーズは消えそうな声で呟いた。



 〜 レザムールズ領 南砦 〜


 エリザベートが各地から集まった貧民達をレザムールズ領までようやく連れてきた。

 エドワード領が危険な為、大きく南に迂回するしかなかったのだ。


「エリザベート様。わざわざのお越し感謝致します」


 ミンフィーが南砦でエリザベートを出迎えた。別にこんなヤツを出迎える必要なんて無いのにさ!

 僕はミンフィーの従者役だよ。


 こちらが宿泊を進めるとエリザベートは食事だけして帰ると言う。

 ちゃんと準備しているのにさ!!


 ホクトさんのホテルでミンフィーと会食するとエリザベートは大人しく帰っていった。


「何だか拍子抜けしたよ」


「分かったのよ。実力の差が」


「それであんなに大人しかったの?」


「アレでも多少は頭が切れるのよ」


 まだ何かやってこないか心配だよ。


「ミンフィー、このホテルは凄いよね」


「ホクトさんはこういう会食を想定していたのよ。全くケチの付け所がなかったわ」


「ここに勉強しに来させてもらおっと」


「いい教材になるわね」


 みんなこんな事まで想定して動いているんだね。それに比べたら僕はほとんど貢献出来ていないや……


「ミンフィーさん、大変です!」


 ティアナが慌てた様子で駆け寄ってくる。


「どうしたの? 人数が多いのでしょ?」


「ご存知でしたか……」


「あの逃げっぷりは何かあると思っただけよ。何人なの?」


「2499人もいます……」


「2000人位と言えなくもないわね」


 言えないよ……かなり無理がある。


「中には親の居ない孤児まで含まれています。健康状態が悪い人も多数いる様です……」


「やってくれたわね。ミッション発令! 治癒魔法が使える者は病院に向かう様に。その他の者は移民の受け入れを補佐する事!」


「了解しました!」


 ミンフィーと僕も状況を確認しに行く。


 すると……


 みんなボロボロじゃないか……


 話を聞いたらロクな食事も貰えずにここまで来たらしい。


 僕はポラリスカンパニーに行って全員で支援へ回る様に指示をした。


「とにかく食料が必要だ! 厨房を全部使って食事と飲み物を提供してくれ!」


 クソ!! 貴族だったら何をやっても許されるのか!


 こんな酷い事をして!!


 結局、移民達のテントを建てて、食事を行き渡らせたら真夜中になっていた。

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