第143話 異世界からの挨拶
〜 聖都 セントフォース 〜
とても楽しい旅行だった。いや、クエストだ。これでしばらくは落ち込まずに済む。
ギルドハウスに戻るとメンバー達はほとんど居なかった。
そしてギルドマスターから呼び出された。
「スカーレットさん、あなたを除名しました」
何を言っているのか分からない……
私を?
除名?
と言ったのか?
「なぜ? ちゃんとクエストに行くと連絡したはず!」
「ギルドの規定が変わりました。Sクラスギルド ダイヤモンドスターの冒険者はAランク以上の冒険者のみが所属出来るのです」
コイツもBランクだったはず。 まさか!!
「Aランクに上がったのか……」
「これは神のお告げなのです。選ばれし者達が集うダイヤモンドスターにはBランクの者は必要無いの」
「くっ、コイツ言わせておけば!!」
「もう私の方が力は上よ。親の七光りで威張っていた貴女に従う者は1人も居ないわ」
周りを白いローブを着た者達が取り囲んでいる。
「今日中に荷物をまとめて出て行く様に。Bランク相当の退職金は部屋に置いてあるわ」
ここまでか……いずれ辞めようとは思っていた。
まさかクビになるとはね……
〜 エドワード領 郊外 〜
モンスターの襲撃に苦しむエドワード領に救世主達がやって来た。Sクラスギルド ダイヤモンドスターだ。
「2499人分の金を払ったんだ。しっかり働けよ」
冒険者ギルド協会から全額前払いを求められたのだ。それは領主としての信頼を失っている事を意味する。
「協会のヤツらはその内、全員入れ替えてやる」
エドワード伯爵の怒りは頂点に達している。しかし、今は目の前の敵を倒す事が先決だ。
白い装備で統一されたダイヤモンドスターは見るからに屈強ですぐにでもダンジョンは消えてしまいそうだ。
「お父様に挨拶もしないで素通りするなんて!」
「エリザベート……声が大きいぞ……ヤツらは危険だ」
「レザムールズを見て以来ムカムカして!!」
ダイヤモンドスターの登場で事態は沈静化するかに思えたのだが……
小高い山の上に1人の男がいた。
「来たな……」
黒くて長い棒の様な物をその男は持っていた。それを遥か遠くでモンスターと戦う準備をしている者達に向けた。
「殺しはしない」
その男の腕には殺しが出来ない腕輪が嵌められている。
モンスターと戦闘が始まると指を動かした。
するとダイヤモンドスターの冒険者が1人倒れた。
慣れた感じで黒い棒に何かを詰めた。そして指を動かすとまた1人倒れた。
「これは魔力弾だ。証拠は残らない。いい世界だな」
最初はモンスターを好きな様に駆逐していた冒険者達が徐々に劣勢になっていく。
攻撃したはずの冒険者が何故か倒れていく。
回復魔法を受け、また敵に向かって行くが……
結果は同じだ。
冒険者達の必死の頑張りでダンジョンの入口付近まで近づいた。
「頑張ったな。でもワザとだ」
入口付近は酷い泥沼状態だ。泥だらけになった冒険者達は次々に倒れていく。
「もっと頑張らんと死ぬぞ」
そう言って今度はモンスターを攻撃した。
「今のは危なかったぞ。礼を貰わんとな」
泥沼に足を取られモンスターに襲われそうだった冒険者は必死に逃げた。
大混乱のダイヤモンドスターは退却を余儀なくされた。
翌日も、その翌日もダイヤモンドスターは惨敗した。
そして聖都へと帰還したのだった。
〜 王都 ギルド フラッグシップ ハウス 〜
ギルド ダイヤモンドスターが惨敗して退却した事はすぐにオルフレッドの知る所となった。
「まさか負けるとはな……」
「見るも無残な状況だったそうだ」
シーフ ルイーズは冷静にそう言う。
「だがこれで行くしか無くなった」
強制ミッションが発令されたのだ。これは絶対に従わないといけない。国から破格の成功報酬も出る。
「問題無い。ちゃんと行くさ」
ルイーズは当たり前だと言っている。
「いいのか? 嫌なら留守でもいいが?」
「冗談言うな。俺無しで魔女のダンジョンはクリア出来ん。ヤツの狙いは俺達では無いからな」
「これで終わりだろうか……」
「冗談だろう? こんなの挨拶だ。誰も死んで無いぜ」
ルイーズはただ笑っている。敵があの男でなければ何でもいいのだろう。
西の魔女のダンジョンはこれまで幾つも潰してきた。
「ついでにレザムールズに行ってみるかな」
ルイーズは少しだけ表情を雲らせた。
「堂々と行けばいい。そうすれば何もしないさ」
「良くわかるな?」
「分かるさ。プロだからな。行くと言っておけば良い。ギルド協会を通せば間違いなく安全だ」
オルフレッドはしばらく考えた。
「逆につまらん。行くのはやめる」
「面白いのは聖都の方だろうな。絶対に俺は行かんがね」
そう言ってルイーズは遠征の準備に向かった。
「スカーレット……早くこっちに来い……」
何度も手紙を送っているのに全く返事が無い同期を心配するオルフレッドだったが……
その手紙は全く届いていなかった。
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