第138話 予測困難

 〜 ギルド レザムールズ ハウス ロビー 〜


 世界樹の苗木を急いで持ち帰った。ミンフィーが自分の畑から土を持ってきて鉢に入れて苗木を植え、水を沢山かけている。


「後はザリウスに任せるわ。もう2度と手に入らないかもしれないわよ」


「ああ。分かっている。みんなありがとう」


「まだお礼は早いわ」


 これを育てて立派な木にしないといけない。


「植樹予定地を強固にする必要があります」


「大地に根を張るまで守ればいいのよ」


「はい。決して抜けないとされています」


 ギルドハウスと同様の防衛態勢を整える事になった。ここは城塞レベルらしい。


「ただの木にしか見えんがな」


 シャバニさんは興味がないみたい。僕もイマイチ凄いのか分からない。


 天と地を結ぶ木なんだってさ


 全ての生命の源って言う人もいる


 でも無くてもみんな生きているからね。


「育て方とかあるのかな?」


「人が存在する前からあったと言われているからな」


「それじゃあ誰も知らないね」


 今回は他にも収穫があった。宝石ザクザクだからね。


「宝石はどうしよう?」


「売るのは惜しいわ。彫金師に依頼して加工したいわね」


「ホクトさんは?」


「私は駄目です。これ程の物はお手上げですね」


「彫金師はほとんど居ないわ。宝石が高価で訓練出来ないのが原因ね」


 ふーむ。ちょっと調べてみよっと。


 翌日も古代迷宮第2層へ行った。第3層への階段はそのままで同じ様にドラゴンを倒しても何の変化無かった。


「もう手に入らないって事か……」


「時間が経てば戻るかもね」


 まあ無理っぽいけどね。そんなに貴重な物がポロポロ出るはず無いからね。


 探索は早々に切り上げたよ。


 僕はギルド協会にある図書室で彫金師の事を調べた。それから砂漠のモンスターとギガアトラスも調べたよ。


 うーん。本が自分の部屋にも欲しいな。この都市には本屋がないじゃないか!

 ちょっとミシェルさんに聞いてみる。


「ミシェルさん、セントフォースには本屋はありますか?」


「上流階級の人が住む辺りにありますよ」


「ありがとうございます」


 あったのか……知らなかったよ。


 本屋を作っちゃおう。もう一軒くらいで敷地がちょうど埋まるからね。

 これは自分の為だから私財を投入してもいいよね。

 ポラリスカンパニーに行きスタッフを集めた。


「誰でも本が買える本屋を作るよ。私的な理由だからお金は僕が出すよ。スタッフの手配と店の運営は頼むね。儲からなくても維持出来ればいいから」


 余っている敷地にちょうどいい位の本屋を木工ギルドに依頼した。


 ちょっとペガサスを借りて南の中都市に行き、本屋を覗いてみた。


 以外に安い本も多い。ギルド協会の図書室の本は高級なやつみたいだ。ここにもあるけど高くて買う気がしない。高いのは図書室で見ればいいや。

 試しに誰でも出来る骨細工と誰でも出来る彫金師って本を買ってみた。

 

 ふーむ。安い割にいい内容だ。本当に誰でも出来そうな気がしてきた。実際やったらこんなには上手くいかないよ。

 でも要点はしっかり押さえているんだよね!


 ポラリスカンパニーと提携している商会に行き、本が安く買えないか聞いてみた。


「本屋を開業するので本を仕入れたいんですが?」


「扱ってますよ。得意分野です」


「こういう安いヤツがいいんですよ。サクサク読めるライトな感じのね」


「ターゲットの世代はありますか?」


「大人から子供まで楽しめるのがいいですね」


「エッチなのはどうしますか? 売れますよ?」


「え!? 売れるのか……」


 うーむ……欲しい……


「な、無しでいいです」


「本当に?」


「ほ、本当です……」


「では童話など加えましょう」


 よ、よし! これで良かったはず……


 会計を済ませてシャングリラに帰った。思ったより安く済んだので園芸ギルドの寄って敷地の緑化を依頼した。


「この前とは違って急いでいないから種から出てもいいよ」


「それならじっくりやれるよ。安いしね」


 サクッと契約しておいたよ。



 〜 ギルド レザムールズ 会議室 〜


 またまたミシェルが呼び出された。


「なぜ本屋なんだ?」


「さあ? 図書室で何か読んでました。その後、急に動き出して。でもこれで敷地は埋まりました」


「単なる思い付きか……」


「そうみたいです。全部、話を進めてからの事後承認でしたので。本屋など特に許可も要りません」


 だがシャバニは今までと違うというのが引っかかる様だ。


「俺の勘では今までで最もヤバいな……世界樹なんかよりこっちの方が気になるぞ」


 どれだけ話をしても何に影響を及ぼすのか想像出来ない。


「見てきましたが童話とか置いている健全な本屋でしたよ」


「ん? ティアナ? 待て、もうオープンしてるのか?」


「はい。さっき通ったらオープンしてました」


 ミシェルが図書室でモッシュを見たのが3日前。


「モッシュさんの仕事は全てに優先する様です。皆がチャンスだと思ってますから」


「本など売れんだろう……」


「満員でした……ここには娯楽が少ないので暇だそうです。夜に本を読むと言って多くの人が買い求めていました」


 本は知を人々に与える。多くの人々が多くの知を得る。そこから新たな何かが生まれてくる。


 予測など出来るわけがない。


 モッシュの起こす知の濁流が世界を革新へと導く


 そんな事を真剣に想像するシャバニだった。

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