第132話 スカウトをスカウト

 〜 エドワード領 伯爵の屋敷 〜


 レザムールズ領に送った使者からいつもと全く違う報告を伯爵とエリザベート嬢は受けている。


「以前あった村は砦に変わっていました。驚く程しっかりとした小都市があり凄い賑わいです。ミンフィー様に直接会う事ができ、人的援助を受ける事を了承してもらい、伯爵様にと返礼品を預かって来ました!」


「噂は本当だったか……」


「そ、そんな馬鹿な事て無いですわ! 賑わうですって!」


 もう隠すのは不可能な程、レザムールズ領は発展した。エドワード領に暮らす平民達は移民したいとみんなが思っている。度重なる重税に疲れ果てているのだ。


 屋敷の外が急に騒がしくなった。早馬が来た様だ。


「伝令です! 突如、西側の森にダンジョンが出現! 中から敵が溢れ出している様です!」


「何! 緊急ミッション発令! 冒険者をダンジョンへ向かわせろ!」


「はい!!」


 冒険者がかなりレザムールズ領に向かった事は伯爵も知っている。でも依然として高ランクの冒険者は領内に残っている。Aクラスの冒険者ギルドもある。


 下は切り捨てるけど上の方はそれなりの高待遇なのだ。


 人的援助で得た報酬はモンスター駆除の報酬で消えてしまう。それどころか足りないかもしれない。


「く、国に支援を求めましょう! お父様!」


「駄目だ……これ以上、支援を受けると査察を受ける」


 もう支援を何度も受けているのにエドワード領はほとんど開墾が進んでいない。領主会議後に呼び出され結果を出す様に注意を受けたのだ。


「もう人的援助で金を得る以外に方法はない……」


「それをしたらミンフィーは喜んでしまいますわ!」


「この際だ。大量に送り込むぞ! それで資金を確保だ」


「一気にやればミンフィーも困りますわね!」


 2人の愚かな親子の思惑が重なるのだった。


 

 〜 ギルド レザムールズ 会議室 〜


 エドワード領に西の魔女のダンジョンが出現したとクルミから報告があった。

 更にエドワード伯爵からの書簡で様々な理由を付けて今までの3倍の数の人的支援の申し出があった。


「余程困っているらしいな」


「まともに領地を管理するつもりはないのかしら……」


「この数を受け入れると食料が逼迫します」


 シャバニ、ティアナ、ホクトは対応に頭を悩ませていた。


「アイリスさんのスカウト活動が少しずつ効果を出してきています。各地から人材が集まってますのでなんとか対応出来ないでしょうか?」


「ギルマスは畑を自分で作りたがる。自分が手を加える事が収穫増に繋がるからな。誰かに任せる事は考えにくい」


「ダンジョン探索が遅れます。食料は他領から調達しましょう。探索をしないと計画が狂います」


「一時は購入して耐えてもいずれ足りなくなります。農地の拡大は必須です」


 農地は今でも少しずつ増えている。それをもう少しだけ増やす事にした。


「冒険者に農耕支援のクエストを出しましょう」


「少し報酬を増額すればやるヤツもいるか……」


「冒険者がかなり増加しています。良い案です」


 クエストという形で農地拡大を進める事になった。



 〜 ギルド レザムールズ ハウス ロビー 〜


 ロビーに貼り出されているスケジュール表を確認するとダンジョン探索がしっかり組まれている。

 新月と満月の日は必ずダンジョン行きだね。その他にも占星術師のホクトさんが選定した日は必ず全員で探索する。月以外にも星の動きを見て決めているんだってさ。


 ここでスケジュールを確認してからポラリスカンパニーの方のスケジュールを考える。冒険者なんだからダンジョン探索が最優先だよ。

 来月の予定をスケジュール帳に書き込んだ。


 ロビーではアイリスがピアノの練習をしていた。もうかなりの腕前だよ。そうだ!


「アイリス。ウチのレストランでピアノを弾いてみない?」


「それは構わないけど、なぜかしら?」


「凄い上手だからみんなに聞かせてあげたいんだ」


 ポラリスカンパニーの懇親会にアイリスを招いてピアノ演奏をしてもらう事にした。


「まずピアノを作らないとね」


「それなら私に任せてくれないかしら? 改良したい部分があるの」


「じゃあ君の楽器店に発注するってのでどう?」


「いいわ。まだ建っていないけどね」


 アイリスの楽器店はまだ建築中なんだ。


「ピアノも売るんでしょ?」


「弾ける人がいないわ。高価だし売り物にならないわよ」


「どうかな? 以外な物が売れるんだよね……」


「そうなのね。売ってみようかしら」


 実はアンテナショップから追加で5セットも女騎士専用装備の注文が来ている。一旦、予約を受けるのを中止にした。

 

「演奏家としての君と専属契約を結ばせて貰えないかな?」


「何をするのかしら?」


「月に1、2回でいいからレストランで演奏して欲しいな」


「それ位なら出来そうね……いいわ」


 やったね! アイリスの演奏会をレストランの売り物の一つにしよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る