第131話 高価すぎる件
〜 聖都 セントフォース 〜
旧レザムールズ区の近くにあった冒険者ギルド協会支部をスカーレットはたまに利用する様になっていた。
ギルド協会発行の情報誌を購入して中身を確認すると、レザムールズ領のギルドが3つもBクラスになった事が書かれていた。昇格した冒険者の名前もスカーレットの知っている者が多い。
「ミンフィー達はまだBランクのままか……」
スカーレットもまだBランクのままだ。
「オルフレッドはAランクになったのに……」
スカーレットはすっかりやる気を失っていた。
ギルド ダイヤモンドスターを運営していた父親が引退してギルドマスターを座を『聖女を見事に転生させたヒーラー』に空け渡したのが大きな引き金だった。
実質的にギルドをけん引してきたのはスカーレットだったが今ではほとんど力を失ってしまった。
多くの聖心教徒のエリート冒険者がギルドに招かれた。
最初は上手くいっていたのだが今では完全に教会の言いなりで徐々におかしくなっている。
そして父親がギルドを譲ってしまった。
それも喜んで……
いつもの様にレザムールズ総合店に寄ると店名が少し変わっていた。
『 レザムールズ アンテナショップ 』
そして店の前に小さな看板が出ている。
『 最新作ドラゴンシリーズ 入荷しました! 』
この店に来ると何故か色々買ってしまうのが不思議だ。最近では『紅茶クッキー』にハマっている。紅茶にはあまり良い思い出が無いけどね。
顔馴染みの店員に話を聞くとレザムールズ領の特産品を扱う店としてリニューアルしたらしい。今まで無かった農産物も置く様にしたそうだ。
「ドラゴンソードとナイフはあったよね?」
「はい。今回のは幅広いジョブに対応した物です。ドラゴンソードとナイフも改良型になっています」
ドラゴンソードを手に取ってみると前のとは確かに違う。
「前のも良さそうだったけど、今回も中々ね」
「スカーレットさんにピッタリの装備も入荷していますよ。とてもタイミングが良かったですね」
「私は自分の装備があるから買わないわよ?」
「1セット限定入荷の女騎士専用装備です!!」
女騎士専用装備ですって? そんなの聞いた事が無い。
ちょっと気になる……
「見せてもらうわ」
店員が売り場へ案内してくれた。
薄いピンク色のフルプレートアーマーだった。ピンクといってもほんのりピンクという感じでいやらしさは全くない。可憐な感じだ。
「是非装備してみて下さい!!」
更衣室に連れていかれたのでとりあえず装備してみた。
「コスメもいいな……とても軽い。でも強度はありそう」
可愛いコスメがフルプレートアーマーの無骨さを完全に消している。
「剣をどうぞ!!」
「この剣!? さっきと違う……」
「はい! 剣も女性騎士専用設計です」
とても手に馴染む。しかも装飾に小さな宝石が散りばめられていてキラキラしている。
「盾をどうぞ! 内側に小物が収納出来る様になってます」
盾はイージスの盾があるから……
「いいなコレ…… ハンカチとか収納したら良さそう」
剣も盾も女性が使う前提で作られているのが分かる。ここまで女性を意識して作った装備はオーダーメイドしないと無理だ。
「これは今までにない素敵な装備だわ」
「はい。持って貰えれば分かると会長は言ってます」
あのリュックサックを背負ってヒィーヒィー言っていたのが経営者のモッシュ。彼をパーティーに加えれていたら今と違っていたのだろうか……
しかし驚くべき完成度だ。
持った瞬間に良いと感じるなんて……
これをあのサポーターのモッシュが……
「AからCランクの冒険者の使用を想定していますが初心者でも使えると聞いています。特にオススメなのはBランク冒険者でAランクになってもしばらく使えるらしいです」
「確かに使えそうだけど高いわ……」
ちょっと引いてしまう様な強気の価格設定だった。
「次に来た時は無いかも知れませんよ。限定入荷なので」
そ、そうなの? この桜の花びらの様な淡いピンクの可憐な感じは私にこそ相応しい逸品にも思えるわ……
それに……
コレを使えば少しは気分が変わるかも……
「今なら発売記念でドラゴンナイフと同じ材料で作った護身用ナイフが付いてきますよ」
「え!? そ、それはかなりお得! でも……」
「更に当店限定ですが紅茶クッキーの詰め合わせと新鮮野菜盛り合わせもセットにしてのお渡しです!!」
「ええ!? か、買うわ! 凄いお得ね!」
スカーレットはドラゴン装備を手に入れたのだった。
〜小都市シャングリラ レザムールズ総合店 〜
総合店で店番をしていたモッシュの元に1通の手紙が届いた。聖都 セントフォースのアンテナショップからだ。
追加注文
女騎士専用装備 1セット
紅茶クッキー詰め合わせ 50箱
野菜盛り合わせ 30箱
「嘘だろ……あのセット売れちゃったの?」
「ニャーゴ……」
ニャンタが冷たい視線で僕を見ている。
「どうかしたんですか?」
一緒にいた店員が発注書を見て聞いてきた。
「うう……どうしよう……ティアナにお願いしないと」
あのセットは塗装が特殊で手間が掛かるんだ。しかもティアナしか塗装が出来ないんだよね。
「客寄せ用になるかと思って作ったんだよ。売れなくてもいいから話題になるかなって。売れるかアレ?」
そう言ってディスプレイしてある女騎士専用装備を見た。
ウチの店では欲しいけど買わないって人ばかりだ。
「高すぎますよね。でも売れる自信があったんですよね? 誰が担当者なんですか?」
「ポンテ君だよ……僕は女騎士専用なら白と決まっていると言ったんだけどね」
普通の白色ならもっと安く出来るから買う人も多いと思ったんだ。
「でも売れましたね……シリーズで初めて売れましたね」
そうなんだ……
ドラゴンシリーズはまだ1個も売れてないのにアレが最初に売れるなんて!
手紙が届くまで数日かかる。売れたのは販売初日か?
2店舗同時発売でこっちの店はまだゼロなのに!!
カラン! カラン!
お客さんが来たね。
「いらっしゃいませ!!」
体格のいい冒険者だ。確か強いと評判の戦士だったな。
「……………」
無言でドラゴンアックスをカウンターに持ってきた。
「ありがとうございました!!」
戦士は満足そうに両手斧を買って帰った。
「ウチも売れましたね! 良かった!!」
「う、うん」
カラン! カラン!
……また戦士っぽい人が入ってきた。
「ドラゴンアックスありますか?」
「あ、はい」
慌てて奥から在庫を持ってきて手渡した。
「どうですか?」
「いえ。さっき使わせて貰ったんですよ。コレはいい」
そう言って嬉しそうに買ってくれたよ。
「また両手斧って凄いですね! 担当は誰ですか?」
「ポンテ君だよ……凄いな彼」
「後1個しか在庫無いですよ?」
「すぐに手配するよ。ちょっと出るね」
事務所に行って追加注文の連絡をした。
「総合店に両手斧を5個、アンテナショップにも3個送っておこう。女性騎士専用装備セットを2セット追加するよ」
ティアナは学校設立で忙しいからな……
「装備セットは1ヶ月待ちだな。予約のみの対応にしよう」
事務所の中にざわめきが起きた。当然だね……
「アレ売れたんですか?」
「アンテナショップで売れたからこっちの展示品を送るよ。完全に僕の読み間違いだ。これから商品がどんな動きをするか分からないから在庫をもう少し増やそう」
「「「 はい!! 」」」
みんなが一斉に動き出した。1個も売れなくて沈んでいたのが一変してしまった。
「ポンテ君。君は正しかったみたいだね」
「そんな……会長が信じてくれたからですよ。もっともっと売れますよ! みんなの情熱が注ぎ込まれているんだから」
良い物は売れる。そう信じよう!
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