第129話 知の集積
〜 ギルド レザムールズ ロビー 〜
ロビーで古代迷宮第2層の攻略が話し合われている。寒冷エリアへの対策が不十分だったんだ。
エストアール王国には寒冷地がほとんど無いから、耐寒装備は数が極端に少ない。
「寒冷エリアだけでなく、いろんな環境に対応出来る様にしないといけないわね」
「その森林エリアでは雨が降るのか?」
シャバニさんは第2層に入った事がないからね。
「降るかもしれないわ。天井は無くて空があるのよ」
雨が降ると滑って大変だよ……
「砂嵐や吹雪も対応するのが大変だ」
シャバニさんはそんな所でも戦闘経験があるのだろうか。経験がある様な口ぶりだ。
「雨が降る前に気付いて良かったな……すぐに装備を整えるから少しだけ待ってくれ。1層も同じか?」
「第1層は完全な洞窟よ」
シャバニさんは本当にホッとした様子だよ。僕は雨の中で戦った事なんて無いよ。
「まだ聞きたい。時間は流れているのか? つまり夜はあるのか? それと太陽はあるか?」
「時間ね……分からないわ。夜に入ってみる必要があるわね。太陽は無いと思うわ」
「そうか……太陽の位置を把握しておくのは戦いにおいて重要だ。雨や風は勿論だがな」
「そうなんですか?」
「模擬戦でもいい。いろんな環境、いろんな状況で戦っておくんだ。どこで役に立つか分からんぞ。太陽を背に戦われたら驚く程に不利だぞ」
うーむ……ダンジョンでしか戦わないからピンと来ない。
「このサングラスも日中の戦いに有効だ。元の世界では暗闇でも見える道具もあった」
凄い世界だな。夜でも見えるのか……
「森にはドラゴンだけか? 擬態している敵はいないか?」
フェンなら索敵スキルを持っているから分かるはず。
「擬態……居ないとは思いますが……気をつけます」
「森は姿を隠しやすい。気付かない内に近寄られる可能性もあるぞ。スキルは絶対とは限らん。忘れるな」
「そうね……ドラゴンばかりに気を取られて小さな敵を見落とすって事も考えられるわね」
プロはどこまで考えているんだろう……ありとあらゆる可能性を考えて対策を練っているんだね。
僕は今日の話し合いを元にリュックサック中を再構築する事にした。用意すべき物がかなり増えたよ。
僕まだまだ甘かったって事だ。
取り組んでいるドラゴンシリーズも更にこだわろう。細部までプロ仕様しないと最高級とは言えないよ!
僕はザリウスのダークメタルシリーズを見せて貰った。
「これは凄い……」
「シュナイダー氏は鍛治以外の技術も一流らしい」
「使ってみてどうかな?」
「正直、自分の力量の方が足りないと感じるな。まだまだ鍛えないといけないと再認識させられる」
僕は特に剣と盾のグリップをよく見た。デコボコがあり握った時にブレない様になっていた。
「シュナイダーさんにザリウスの手を見せたのかい? それとも何度も作ったのかな?」
「両方だな。鎧だって何度も手直ししてくれた」
「ふーむ……オーダーメイドならそれでいいんだよね」
「そうだな。大勢の人が使うなら考えどこだ」
〜 小都市 シャングリラ 〜
僕はポラリスカンパニーのスタッフ数名と各生産ギルドを回って様々な素材を吟味させて貰った。
「錬金ギルドで見たラバーはどうでしょうか? アレをグリップに付けてみましょう」
「部分的にカスタム出来る様にするのはどうですか?」
スタッフがドンドン意見を出してくれる。
「とりあえずやってみよう」
なんでもやってみればいいよ。そうして良い物に仕上げよう。いろんな経験がこれからの仕事に役立つよ。
〜 ギルド レザムールズ ロビー 〜
またダークメタル装備を借りて研究させて貰っている。見れば見るほど凄い。
「研究熱心だな」
シャバニさんがクルミを連れてロビーに来たよ。
「す、凄い柄の服ですね」
クルミがド派手な柄の服を着ていたんだ。緑色と茶色と黒色と……まだら模様だね。
「クルミ用の新装備だ。迷彩服という。森林エリア向けに緑色基調だが、他にも砂漠エリア向けのクリーム色の物、夜用の真っ黒の物を渡してある」
全身全てが新装備の様だ。凄いな……
「Bランクに上がったご褒美だ。武器も新調した」
ついにBランクに上がったのか! かなり頑張っているとは聞いていたけど早いな!
「クルミ、おめでとう!」
クルミがパクパクと紅茶クッキーを食べながら嬉しそうにしている。
「ありがとうございます! モグモグ……」
「全員分のレインコートを用意した。それと耐寒用のインナーもだ。予備としてリュックに入れておいてくれ」
やっぱりシャバニさんは凄い! レインコートは錬金ギルドで見たラバー素材だ。インナーはさっぱり素材が分からないよ!
「後でクルミの靴も見ておけ。靴底に金属製のピンを付けれる様にしてある。スパイクシューズだ」
そう言って何か妙な物を袋から取り出した。
「これはスパイクベルトだ。普通の靴の上から巻く様に装着出来る。氷上は勿論だが緩い地面にも有効だ」
試しに靴の上から装着したよ。
「床が傷付くから歩くなよ」
地面にピンを刺す感じで足場を確保するんだね。
「これも凄いアイデアですね。これなら状況に応じて着脱出来る……」
「モッシュ、俺は前の世界で1人分の人生を生きてきた。魔法は無い世界だったが技術はここより格段に上だ。比べるのは無駄だ」
「そうですね。でも……この発想力は凄いな」
「1人の発想ではない。前の世界全体が積み上げた発想だ」
それじゃあ比べものにならないよね。僕は……仲間達とそれをやろう。小さな集まりだけどいろんな発想はきっと生まれてくる!
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