第127話 夢に向かって

 〜 ポラリスカンパニー 事務所 〜


 レザムールズ領内では冒険者が増加している。これは大きな商機だ。当然、ポラリスカンパニーも商機を逃す訳にはいかない。

 そこでドラゴンの素材を利用したドラゴン装備をシリーズ化して総合店で売る事にした。

 シリーズ化するにあたって各ジョブの有力者と提携し、商品化までの開発を一緒に進める事になった。

 ギルド レザムールズからはテイマーのフェンとモンクのミンフィーが選ばれて契約を結んだ。


 なるべくウチのギルドの以外から選んで欲しいと頼んだんだけど他に同ジョブの人が居なかったんだよね。


 出来上がった試作品を契約者に使ってもらい様々な意見を貰う。その意見を元に改良してまた使って貰う。その繰り返しが何度も続いて完成したら商品として売り出される。


 僕はドラゴンシリーズを売り出したいと言っただけ。


 後は事務所のスタッフ達が会議を重ねて考えてくれた。


 スタッフから図面を渡され、その通りに骨細工をする事だけが僕の役割だ。

 ただ修正の際に契約者が何を求めて修正を頼んできたのかはスタッフに聞いている。なぜそう考えたのかスタッフにも知って欲しいからだ。

 僕なら修正内容を見れば契約者が何を求めているのかなんとなく分かる。でも、スタッフは戦闘経験の無い一般人だ。

 ただ聞いた事を伝えるだけではなく考えて欲しいんだ。


 僕は決して契約者本人と装備について話さない事にした。


 契約者と話すのは契約の挨拶をする最初の一回だけだ。


 フェンとティアナが事務所にやって来た。


「2人揃ってどうしたんだい?」


「ドラゴン装備の事で相談があるの」


「うん? 担当者を呼ぼうか?」


「いいえ。モッシュさんにお話しが」


 ちゃんと契約者には直接僕には言わないで欲しいと頼んであるけど……


「スノウとニャンタのドラゴン装備も作って欲しいのよ」


「ああ……そういう事か……全ジョブ対応とは考えたけどテイムモンスターや魔猫までは考えなかったな……」


「今まではシャバニさんのオーダーメイドでやってきたけど、シャバニさんがモッシュに頼んでみたらどうだって」


「ドラゴン素材の骨細工は領内では僕しか出来ないからね」


 僕が骨細工最高のBランクだよ。非公式だけどね。


「最近スノウは一段と体が大きくなってきたわ」


「スノウは本当にウォーウルフなのかな? なんだかデカすぎないかい?」


 スノウは良い装備を持っていたけど体に合わなくなってきたらしい。


「変化、もしくは進化したのかもしれないわ。そんな事例も多少はあるのよ」


 とにかく装備はなんとかしてあげないとね。


「スノウはいいけど問題はニャンタの方か……あのフルプレートアーマーでシャバニさんが凄く苦労していたのを見てたからね」


「ドラゴンの骨は鉄よりも強くて硬い。でも重さが軽いからニャンタの装備に最適です。どうかお願いします」


 ティアナはニャンタの為に必死に頼み込んでくる。


「うんやろう。でもスタッフの育成には協力してね」


 スノウの担当者とニャンタの担当者をそれぞれ決めたよ。ほぼオーダーメイドだけどね。

 販売するのだから幅広い人が使うのも想定しないといけない。契約者と実際のユーザーとの差を上手く調整するのもポラリスカンパニーとして考えないといけないんだ。


 多額の開発費が投じられるドラゴンシリーズは総合店の最高級装備の位置付けで、見た目にもこだわる事にしている。だからいろんな職人との合作になるよ。


 

 〜 ギルド レザムールズ 会議室 〜


 領主ミンフィーから王都で行われた領主会議の報告が行われた。合わせて現在の領地運営状況の報告も行った。


「想定外の事もあったが第1工程は終了だな」


 重要な建物は完成し、都市は完全に機能している。第2工程に移る事になった。


「まずメンバーに土地の運用方法を決めてもらいます」


 モッシュ、ミンフィー以外は更地のままなのだ。


「クルミからは既にプランを受け取っている」


 意外な名前がシャバニから告げられた。そしてテーブルの上に図面が置かれた。



『 パクパクグルメランド 』


 書かれていたのはその一言だけだ。


「全部食べ物屋だ。良い発想だが中身は何も無い……俺が面倒を見るからこれで良しとしてくれ」


 出席しているホクト、ティアナからそれぞれプランが示された。ホクトは高級ホテルと天文台、ティアナは学校を作るそうだ。

 

「ニャンタは闘技場がいいそうです」


「アイツは自分が戦いたいだけだな……」


「はい……」


 闘技場の収益の一部をティアナの学校運営資金に回す事で了承された。


「俺はカジノをやる。栞が孤児院をやりたいと言っているから収益はそっちに回す」


 シャバニが金儲けをするつもりが無いのは分かっているのでこれもすぐに決まった。


「アイリスは楽器屋、フェンはペットショップをやると聞いている。余った土地はこちらに任せたいそうだ」


「ではギルドハウスと住宅地として貸し出しましょう」


「これで全部ね。第2工程を始めましょう」


 ミンフィーの言葉で会議は終了した。


 名前の上がらなかったザリウスだけは大通りに面した土地を辞退した。その代わりに町外れに広い土地を貰った。



『 そこに世界樹を植える 』


 全ては一族の悲願の為に……


 それを聞いたザリウスの父、ダークエルフの族長は息子の婚姻をようやく認めたのだった。

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